ビジネスコミュニケーションを変えるE-Reader

plasticlogic2E-Readerが(英語圏で)一般消費者の欲しい商品になったのは嬉しいニュースだ。ガジェット好きでは世界に冠たる日本が、このブームに遅れたのは情けないが、いずれ追いつくだろう。しかし、E-Bookをもっぱらガジェットとして見るのは間違っている。これは電子教科書のプラットフォームであり、通販カタログでもあり、それ以上にビジネスコミュニケーション(とくにテクニカル・コミュニケーション)のプラットフォームでもあるのだから。ここでは、E-Bookのビジネス活用について考えてみたい(著者:鎌田博樹)。

グリーン・テクノロジーとしてのE-Reader

現在、ビジネスコミュニケーションの主役はPCだ。ドキュメントはPDFで利用されることが多い。PCは情報を操作する環境として優れており、ビデオなどマルチメディアにも強い。しかし、読む環境としてはそうではない。長時間見ていると(気づかないうちに)疲労が蓄積するし、電力を浪費する。プリントアウトすればもちろんかなりの資源消費になる。CO2換算で何トンぐらいだろうか。今日、印刷・複写は保存のためではなく、ほとんど閲覧され(その後廃棄され)るために行われているのである。しかも、PC(+プリンタ)でもっぱらドキュメントを読むためだけに使われる電力、紙、インクやトナー、オフィス機器の設置スペースを合計すると、膨大なものとなる(暇な時に計算してみたい)。文書を読む必要が多いスタッフに、企業がE-Readerを貸与すれば、短期間で元は取れる。

plasticlogic個々のユーザーから見ても、E-Readerのメリットは大きい。電子ペーパーなのでストレスなしに読めるし、電力消費が極少で済み発熱もしない。PCに比べ軽量で大量のドキュメントを蓄積でき、メカが単純なので故障も少ない。数百冊のマニュアルやリファレンス類を収納して持ち運ぶこともできる。仕事に使うPCは、セキュリティの上から帯出にはかなりのリスクが伴うが、E-Readerに失くして慌てる重要情報は(ふつう)入れないから被害は最小で済む。企業(官公庁)はドキュメントの配布を、紙ではなく、PCでもなく、基本的にE-Readerを通じて行うべきだ。

単純にこれだけのメリットがあるのだから、E-Readerを企業が積極的に導入しない法はないし、メーカーでも紙と心中しかねない商業出版社が動くのを待たず、ビジネス市場での普及を考えるべきだろう。

企業の情報発信力の革新

以上はPCではなくE-Readerをユビキタスに使うことのメリットであるが。以下は、スタッフ(あるいは顧客)がE-Readerを持った場合の企業のコミュニケーション、ドキュメンテーション、情報システムについて考えてみたい。小生は今を去る20年以上前に、米国で立ち上がっていた Corporate Electronic Publishing (CEP)というIT市場に関心を持ち、『企業電子出版 (EP)レポート』というニューズレターを数年間発行していたことがある。当時はPCもプラットフォームにはならず、ワークステーションが中心の時代だったが、技術的なコンセプトは現在も立派に通用する。いやWeb環境が進化し、E-Readerが進化した現在ならば、はるかに無理なく実現できる。

xerox_starCEPは、様々な形で「出版」活動を行っているすべての企業(組織)に対し、それを効果的・効率的にコントロールする技術を、コンテンツ管理やエディタ、ブラウザ、コンパウンドドキュメントと分散コンピューティングなどとして提供するものである。30年以上前に専用システム環境として、米国の軍や政府機関、大企業など大規模な出版=文書業務を行う組織に普及していった。技術的にも高度化し、マルチメディアはもちろん、ユーザーのプロファイルに応じて情報内容や表示形式を変えたり、ドキュメントの履歴管理、アクセス管理、更新通知、自動更新、ドキュメント(コンテンツ)に対するプログラムと実行など、やりたいことはほとんど何でも出来ていた。出来なかったのは、そう、安くすることとオープンにすることだけである。

いまやWebは企業のコンテンツ管理のプラットフォームとして成長しつつある。かつてユーザーあたり数百万円もしたCEPは、数万円でできるようになった。Webブラウザでも可能だが、ドキュメントはPDFやE-Book形式で読むほうが適している。企業のドキュメントサービスとその管理を集中化することは十分に可能となった。技術や工場、経営、教育、法務といった内部コミュニケーションのための文書、顧客や取引先、消費者、株主、メディアなど外部に提供される文書。国内向けと国外向け…これらは制作、印刷、配布、保管、廃棄のライフサイクルにおいて膨大な資源を消費している。WebをインタフェースとしたドキュメントサーバとE-Readerを中心に据え、スマートフォンやタブレットで補完することで、かなり画期的なシステムを構築できる。

「E-Readerが企業の役に立つ10の理由」

docu_01TechRepublic.comというサイトに、ジャック・ウォレンという人物が書いた表題のような記事*があった。簡単に紹介しておこう。

1. コスト削減

文書のプリントに伴うコストを大幅に減らせるし、デバイスの価格はさらに下げる。

2. ビジネスのグリーン化

紙(パルプ)は再生されるとしても、リサイクルのコスト、環境汚染は無視できない。

3. スペースセービング

プリンタと用紙ストック、デスクに散乱した書類は、オフィススペースのかなりの部分を占有するだけでなく、業務の効率を下げる。

4. オフィスワークの効率性向上

メモ、提案書、会議録、手引書などのビジネスドキュメントを1ヵ所に集中・整理することができる。会議のためのペーパーワークの時間も不要となる。

5. プロフェッショナリズムの向上

取引先へのプレゼンテーションや交渉において、E-Readerを配布して資料を提示し、終了後に回収すれば顧客の信頼を高め、情報管理、知的所有権の保護に有効である。

6. 読む=知ることへの集中

新聞記事から企業の各種資料まで、つねに最新の(必要な)情報を告知し、アクセスを促すことができる。集中できる環境の意味は大きい。

7. 労働意欲の向上

E-Readerを貸与して企業の情報、文書を共有することで社員の一体感がたかまり、業務スキルの向上にもつながる。

8. ドキュメンテーションの質量の向上

企業電子図書室をサーバ上に構築することで、企業内ドキュメントを電子的に提供できる。また一般書籍の提供も、ライセンスによっては可能となる。

9. 眼精疲労の軽減

電子ペーパー (E Ink)はPCモニタより疲労が少ないぶん、生産性を高める。

10. 出版の内製化

印刷を外注したり、自ら冊子を製本する手間が不要となり、コスト、時間の両面で効率化される。

ビジネス用 E-Reader=ドキュメントサービス のデザイン

E-Readerのビジネス利用は、一般消費者用のガジェットでPDFファイルを読むだけでも十分に可能である。重要なことは、基本的にE-Readerが<読むこと+α>に徹した単能機(専用端末)だということだ。PCやモバイルのようにメールやツイッターが侵入することもなく、集中できる。ダウンロード・コンテンツの管理をユーザーに任せることもできるし、企業がドキュメントサーバを通じて管理(追加・削除・更新)することもできる。つまり、ブロードキャスト・メディアになる。ロゴマークを入れれば企業としての一体感も高まるだろう。

しかし少しばかりカスタマイズすれば、あるいはバックエンドのCEP環境を整備することにより、かなり戦略的なコミュニケーション手段となる。IT企業にとって、文書(コンテンツ)管理は、潜在的に大きな市場だ。印刷物制作を含むドキュメントサービス企業にとっては、ペーパーレス化による市場縮小に対応するにはこの市場、つまり電子ドキュメンテーション(ドキュメントを通じたコミュニケーション)の高付加価値化に絡んでいくしかないだろう。

plastic-logic-reader-550x330ロゴマークを入れたりする以外に、エンタープライズE-Readerが備えるべき機能は、あまりない。しかし、ユーザーがエンタープライズサーバにサービスをリクエストしたり、なんらかのインタラクションを行うためのインタフェースは必要となる可能性が高い。たとえば、金融商品のカタログに数値を入力してシミュレーション結果を表示したり、薬品や部品のバーコードを読み込んで関連するインストラクションの照会や在庫確認を行ったりするなどである。「読む」ということが何らかのアクションにつながる部分、つまり関連する情報を確認したり、計算したり、注文したり、というプロセスをサポートすることにより、ドキュメントは知識の媒体として意味を持ってくる。トレーニング/テスト教材を入れて、スタッフが自修できるようにするのも有効だろう。

すべてはPCで出来る、と思われるかもしれない。しかし、そう考えたらiPod/iPhone などが専用のガジェットとして巨大なビジネスを創造した理由も理解できないだろう。重要なことはドキュメンテーションにおける「ユーザー体験(UX)」であり、そのためのUIである。PCは何でも出来るが、UXの改善には限界がある。PCは徹底してクールなメディアだからだ。それに対して、E-Readerはホットメディアであり、エンタープライズE-Readerは、さらにホットなメディアとなる。それは、エンタープライズライブラリ/ドキュメントサービスのインタフェースを整備することで実現される。 (文中写真はPlastic LogicおよびXerox Corp.) =鎌田博樹・本誌編集長

参考

10 reasons why e-readers make sense in the enterprise, by Jack Wallen, TechRepublic, 08/05/2009

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