モバイルユビキタス技術は、今日では多くの商用アプリケーションが登場し、PIMは重要なアイテムですが、大野氏はさらにエージェント技術を組込んだ実証システムを2001年に完成させ、またドキュメントへの応用にも取組みました。今回はモバイルユビキタスとPIMに関する仕事をまとめました。(編集部)
ドキュメント技術へのアプローチ―大野邦夫氏による研究・開発の軌跡
目次
2. 製品開発:マルチメディアドキュメントからXML応用システムへ
9. ヒューマン・インタフェース
10. テクニカル・コミュニケーション
4. モバイルユビキタス技術
INSエンジニアリングからドコモ・システムズに変わって、技術内容はXMLでも対象が企業システムからモバイルユ ビキタス分野へと移行した。そうなると、ドキュメントの対象分野は組織を管理支援する技術から個人を管理支援する技術へ、ネットワークもLANや電話回線から携帯電話ネットワークを含むインターネット環境へと変化する。 以上のような動向を考慮して、モバイルユビキタス時代に基本的に必要とされる個人用ポータルサーバを実装する プラットフォームとしての汎用ゲートウエイサーバを構想した。このシステム構想に基づく具体的なシステムを構築し、XMLジャパン2001というシンポジウムで展示した。下記はその紹介である。
4-1. 「モバイル・インターネット環境構築支援システムの検討」
このシステムの基本アーキテクチャーはXML統合サーバーである。アプリケーション・ブレードに個人支援のため のPIM機能を実装する。PIM機能としては、デジタルドリーム社のifreeStyleという技術を使用した。デジタルドリ ームの近藤さんはXML、Javaに関する優れた技術者であり、ifreeStyleの要素技術を、XML統合サーバに適用し極めて短期間に実装した。さらにこのシステムでは、PIM情報管理に連携させたVoice XMLの実装を検討した。検討対象に したIBMのVoice XMLツールがうまく動作せず、Speech Worksの音声APIを使用して何とか動作させることが出来た 。
PIMはアラン・ケイのパーソナルコンピュータ(Personal Dynamic Media)の端緒であり、アップルのKnowledge Navigatorのゴールでもある。そのような意味で、電子機器のヒューマンインタフェースとは切っても切れない関係が ある。PIMの内容は、カレンダー(スケジュール管理)、アドレス帳(人間関係)、コミュニケーション(メール ・電話)管理、情報・文書管理などが挙げられる。企業に於ける情報管理が研究開発、設計、製造、営業、経理、 総務、給与…など、多様であり、かつ業界などにより様々に異なるのに対し、PIMはグローバルに共通な内容である。企業にとって必要とされる文書が多様なのに対して、個人の手帳の内容は共通なことを考えれば良い。そ うなると、個人を支援する共通な情報に基づく共通なルールが想定される。以前、AI技術がもてはやされた当時、電子秘書のエキスパートシステムとして提起された知識ベースであるが、これをXMLをベースとするオントロジーとして扱うことはできないかと考えた。しかもその情報源として携帯電話は適確な道具である。その観点から論じたの が下記の報告である。
4-2. 「セマンティックWebの課題と携帯電話から見た可能性」
以上のドメインにおけるオントロジーをPIMオントロジと名付けたが、このテーマはモバイルユビキタスという概念 とは異なるので別の項目で紹介する。
下記は吉田正人氏が開発したシステムである。今後進展が予想される携帯電話におけるP2Pによるコンテンツ配信 などに対する可能性を検討したものである。
4-3. 「モバイル環境における簡易メッセージ交換システムの検討 : 携帯電話環境を包含するP2Pシステム」
30Kバイトという極小なメモリ空間で、iモードを使用するP2Pが実用になるわけはないが、一つの可能性としてどのような通信が可能かを試みたものである。Winnyの開発者が逮捕(のち第一審無罪)されたことから、日本ではP2P技術そのものが反社会的に見られる状況となっている面がある。そのため日本でP2Pの研究は下火のようだが今後のコンテンツ配信 にとっては重要な技術であると思う。
4-4. 「モバイル環境におけるデジタルドキュメントの可能性 : ネットワークのIP化とREST
の適用」
この論文に関しては、先に紹介したが、ネットワークのIP化は急速に進展している。回線交換用のD70交換機の新製はおろか交換部品の生産も停止された模様で、保守用の部品は撤去システムのものを流用しているとのことであ る。この論文が取り上げたのは、携帯電話サービスの基幹網のことであるが、本家の電話網自体が全面的にIP化さ れつつある。黒電話の終焉も間近ということだ。
まとめ:モバイルユビキタス技術は、いつでもどこでも通信可能とする技術と言えるが、この概念に関係する技術 やサービスは広大である。以上の論文はそのイントロとインフラに近い部分である。マーク・ワイザーが理想として 想定したユビキタス環境は、コンピュータが支援する静寂な生活空間であった。ジーンロッテンベリがスタートレ ックで描こうとしたSFの世界の見えないコンピュータを現実の生活空間で実現するようなものであろう。
5. PIM(個人情報管理)
モバイルユビキタス技術の項でも述べたとおり、PIMはアラン・ケイのパーソナルコンピュータ(Personal Dynamic Media)の端緒であり、アップルのKnowledge Navigatorのゴールである。この分野に関しては1980年代の 前半のNTTの研究所時代に「視聴覚知識情報処理」という分野を対象にそれらの技術を実装する通信端末に関する 研究計画を立て、製品イメージとしては電子秘書(ロボット秘書と名付けた)を想定した。私にとってその成果は 、リスプマシンのSymbolics3600を獲得できたことであったが、Zetalispとオブジェクト指向拡張のFlavorsはその 後の私の技術の源泉となった。ELISもInterleafもCommon Lispも、この技術的なベースが無ければ使いこなすこと はできなかったであろう。多分、Symbolics 3600こそ、当時の私にとってのロボット秘書であり私のコンピュータ に対する思い入れの発端であった。
その後ELISの開発と販売に携わったので、ロボット秘書に関して自分で関係することは無かった。次にロボット秘書的なアプリケーションに関わったのは、1990年代前半、NTTのグループ事業推進本部新分野事業推進室で、 Interleafのアクティブドキュメント機能のデモシステムを手がけた時であった。この時はアドレス帳、スケジュ ール管理、電話取次管理、ドキュメント管理をInterleaf Lispでカスタマイズしてみたが、アップルのNewton に端を発するPDAが出現し始めた時期であったので、ワークステーション上にロボット秘書を実現してもインパク トは無かった。
その後、IETFでアドレス帳管理のvCardとカレンダー情報管理のiCalendarが標準化され、ロータスのOrganizerと マイクロソフトのOutlookがそれらを取り込んだPIMアプリケーションとして製品化され、ノートPCで使用されはじ めた。さらにこのフォーマットによりPDA上のPIMアプリとも連携が取れるようになったが、PDAは意外に普及しな かった。その理由は、紙の手帳と比較した使い勝手にあると考えられた。紙の代わりに電子的な媒体に記録するだ けでは紙に敵わないのである。そのためには、ネットワーク上に知的な電子秘書を置き、アドレス帳、メール、ス ケジュールなどを有機的に連携させることが問題解決になると考えた。
XMLが標準化され、エージェント技術のコンソーシアムであるFIPAが、電子秘書に関するFIPA ACLの事例を標準化 対象として検討を行った。FIPAのACLはCommon Lispで記述されていたKQMLの汎用版で、XMLやRDFによるオントロジー を活用する通信を実現する。下記はそのFIPAの動向を紹介した論文である。
当時はオントロジーをXMLやRDFで記述することにより、LispのS式よりもアプリケーションに直結した実用的なオン トロジー構築の可能性を感じていた。XMLによる独立のオントロジー言語として、DAMLやOIL、さらにはOWLが提案され 、実用的なオントロジの枠組みが提起されていたのである。だが、かつてのAIにおける知識ベースの経験から、オ ントロジーを課題毎にいちいち人間が記述するのでは実用にならないことも明白であった。下記の論文は、モバイル ユビキタス技術の項でも取上げたが、メタデータの設定を携帯電話のプロファイルと使用履歴を連携させて設定 し、オントロジーを用いて可能性のある処理を提言させることを狙ったものである。
5-2. 「セマンティックWebの課題と携帯電話から見た可能性」
以上のアイデアの具体的な実装を試みたのが下記の論文である。
カーナビメーカーと協力し、PIM情報と地図情報システムを連携させた。アドレス帳の住所データをカーナビの地 図上に設定し、GPSによる現在地からの最適ルートを設定したり、携帯電話の所有者と連絡を取りながらランデブ ー地点の候補を提示させるシステムを検討した。
まとめ:潜在的には携帯電話から生活履歴情報を取得するのが有効なのであるが、情報漏洩などの問題から携帯電話を用いるシステム構築は現実的には不可能であり、PC上のPIMアプリケーションを用いざるを得なかった。従っ て真の使い勝手を論じることは出来なかったが、要素技術については幅広く把握できた。現在、NTTドコモがサー ビスを進展させているiコンシェルの萌芽的な研究として位置づけることが可能であろう。 (大野邦夫 k-ohno@uitec.ac.jp)
著者紹介:大野 邦夫 (おおの くにお) 経歴はこちら
[略歴] 1968年、東京工業大学工学部機械工学科卒業、70年同大学大学院修士課程機械工学専攻修了、電電公社(現NTT)に就職。電気通信研究所、米国ウイス コンシン大学マジソン校派遣、横須賀研究所、NTTインテリジェントテクノロジ(株)、ヒューマンインタフェース研究所などに在籍。95年にNTTを退 職、グループ企業のINSエンジニアリング(株)*に転籍(*2000年にドコモ・システムズと社名変更)。同社退職後、(株)ジャストシステムに移り、 主にxfyに関わる標準化とその関連技術の調査を担当した。2007年から職業能力開発総合大学校通信システム工学科教授。現在に至る。
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