世界最大のE-Reader市場を目ざす中国

Hangwang_eBookWall Street Journalの1月5日付、香港発のジュリエット・イェ (Juliet Ye)記者の記事は、中国のE-Reader市場について、非常に興味深い内容を掲載している。2年以内に、中国が世界市場の20%を占め、2015年までに米国を抜いてトップに立つという予測や数々の課題もさることながら、この市場の将来を確信する中国企業と、それをグローバルな観点から戦略的に支援する政府の積極性が印象的だ。(写真はHangwang製品)

米国の調査会社 iSuppli の予測によると、2010年のE-Readerの世界市場は1,200万台で、2012年には1800万台。さらに DisplaySearch社の中国市場予測によれば、2009年には80万台であったものが、10年には300万台に跳ね上がり、2015年までには世界最大の市場となる。13億の人口と、すでに世界一となった自動車市場などを考えるならば、これは十分に合理的な推論だ。しかし、潜在性を実現するには、日本と同様にコンテンツの整備を図る必要があり、同時に他国ではあまり問題になっていない、DRM環境を確立してコンテンツで儲かる仕組みをつくる必要もある。イェ記者は、ハードとコンテンツの問題を同時に解決しようとする中国企業のダイナミックな動きを伝えている。

課題を解決する力

現在市場に出ているモデルは、ほとんどが地元メーカーが製造しているもので、白黒液晶の廉価品 (1,000元=約1.35万円)から、手書き入力、カードリーダ、WiFiやオンラインライブラリへのアクセスを装備したもの (3,000元以上)まで雑多。KindkeやNook ($260)、Sony Reader ($200以上)など、標準的な製品がある欧米市場とはかなり違う。アマゾンはKindleを中国でも売ってはいるが、中国語はサポートしていない。ソニーも同様。また、中国でeビジネスを行うにはかなり煩雑な手続きが必要となるとも言われる。

さらに海賊版の横行という問題もある、WSJが引用する中国の情報源 (du8.com/China E-Book Market Development Report)によると、中国人のデジタル読者の95%が違法コンテンツを利用している。したがって中国の出版社は地元メーカーとの協力にも気乗り薄のようだ。コンテンツ不足に対処するため、一部のメーカーはデバイスに本をロードして売るなどの努力をしているが、2008年のコンテンツ市場は2億2,600万元 (約30億円)に止まっている (前出資料)。したがって、コンテンツ不足が市場拡大への足枷となっていることは明らかで、世界最大の市場となるためには、貧弱な合法コンテンツと旺盛な違法コピーという問題を解決し、著作者や出版社の意欲を高める必要がある。日本ならそこで止まってしまうが、現在の中国は解決に楽観的であり、米国のプレイヤーを手本としながらも、解決方法を次々と考え、実行する活力がある。

背景として、以下のような要因が考えられる。

  • 3Gサービスをめぐるモバイル通信3社(中国移動/電信/聯通)の競争激化
  • モバイルインターネットをめぐる、Webサービス/プラットフォーム企業の活動活発化
  • E-Readerを21世紀の基本デバイスと考える中国メーカーの積極的な製品開発
  • メーカー、ブックセラー、通信企業の合従連衡
  • 高度成長下の中国人の所得向上と情報ニーズ、知識欲
  • 電子出版を通じたソフトパワー戦略を構想する中国政府(国務院)の意図

アマゾン/B&N型、Google型など多彩なビジネスモデルを試行

WSJによれば、E-Readerのトップメーカーは、北京の Hanwang Science & Technology Co. (汉王科技)で、2008年に20万台、09年に50万台を売り、今年は200万台を売ると予測されている。HSは9月に移動通信首位の中国移動 (China Mobile) と提携し、3G対応のE-Readerを発売した。ユーザーはインターネットを通じてコンテンツをダウンロードできるほか、スタイラスで中国語入力ができる。Hanwangはまた、中国の古典作品の多くをプリインストールして提供している。独自の Hanwang Library もあるが、コンテンツはまだ3万点ほど。同社は、多くのフォーマットに対応することで、読者が様々なソースからコンテンツを入手可能にする方針だという。また、著作権者を誘引するために、売上の80%を提供するという破格の条件を考慮しているという。

wefound昨年10月には、組版システムのベンダーでオンライン書店も提供している方正集団 (Founder Group Inc.)が独自の(というよりはKindleクローンの)E-Reader、WeFound (写真)をリリースした。米国のアマゾンやBarnes & Nobleと同じアプローチだ。モバイルアクセス付で、フォーマットは独自のものという。今年は100万台を販売する計画。同社の子会社、Apabi は、中国最大のオンラインライブラリを構築すべく、検索サイト大手のZhongsou.comと提携した。WeFoundは4,800元 (約6.5万円)で、われわれから見ても高すぎる印象だが、3年分のインターネット・アクセスとApabiの60万冊へのアクセス、毎日のニュース更新などコンテンツを含んでいるので、コンテンツが悪くなければ、むしろ割安といえる。

やがては日本を呑み込む!?

以上のような動向は、もちろん欧米の注目を惹かないわけにはいかない。本格的にテイクオフするスマートフォン市場では、中国語コンテンツの配信をめぐって活発な動きが伝えられている。主要ベンダーのすべてが中国を最重視しており、新規参入するデルなどは、最初の製品のリリースを中国で行う。スマートフォンとE-Readerは相互補完的にE-Book市場を支えていくと思われる。また、昨年10月に開催されたフランクフルト・ブックフェアは「中国」をフィーチャしたが、同フェアの関係者はコンテンツ (著作権)取引における中国の存在を非常に重視していた。そうした意味で、今年9月の北京ブックフェアは、E-Book/E-Reader市場の成長速度を示すものとなろう。

du8日本の出版関係者には、(欧米と対照的に)中国市場をまだ軽く見ている方が多い。『徳川家康』や漫画の成功などで日本語コンテンツに十分な市場性があることが分かった現在でさえ、海賊版などを理由に、まともに考えようともしないのは嘆かわしい。しかし、E-Bookこそ(本気でやれば)海賊版対策には最も有効な手段であり、また読者との直接のコミュニケーションをとる手段でもあることを考えてほしい。日本の出版社が動かなければ、中国側のほうで日本のコンテンツの獲得(発掘)に直接動くことになるだろう。出版社を安値で買収するか、著作者に直接交渉するか、どちらも難しいことではない。彼らはそれを使って、日本語、中国語などの出版を低コストで行うことができる。(画面はdu8.com)

また、E-Readerのほうは、教育用、事務用での膨大な需要がある。出版・娯楽コンテンツだけに注目していると市場を見失うだろう。E-Inkディスプレイの生産では台湾企業が世界の圧倒的なシェアを有し、台湾政府が戦略産業として支援している。それでも、日本にとって、まだ遅すぎはしないだろう。E-Readerは3~5年でPCやスマートフォン、タブレットと並んで基本的な情報デバイスの一角を占めることになる。市場の形は、Webサービス/アプリケーション、コンテンツビジネスとともに変化する。そこに有効なソリューションを提供すればよいのだが、それには中国的な拙速が有効でもある。 (鎌田 01/07/2010)

訂正:文中、アマゾンはKindleを中国で発売している (WSJによる)としていますが、同社のサイトによれば、「KindleとKindle Booksは中国ではまだ発売することができない」と述べています。お詫びして訂正します。

記事リンク

Outlook for electronic books in China appears bright— once big hurdles are cleared, By Juliet Ye, Wall Street journal, 1/5/2010

参考

「電子書籍、3G普及で中国が最大市場となるか―中国」、中国ニュース通信社、10/09/2009

「中国の電子書籍市場、着実に成長中」 By Current Awareness Portal、国立国会図書館、5/9/2009

Who can become the Amazon Kindle in China?, By Science and Technology Review, 11/18/2009

Hanwang E-book Device Launched in Hong Kong, Beijing Review.com, 8/31/2009

Liu Yingjian: To Be a Good Servant for Digital Publishing Industry, China Book International, 12/18/2009

Wefound E-Book Reader from China [Exact Replication of the Amazon Kindle] By Bruce Martinez, Device Magazine, 7/14/2009

Chinese Kindle clone: Meet WeFound, Mobile Read, 7/10/2009

オンライン書店 du8.com サイト(中国語)

中国国務院 China Book International公式Webサイト(英語)

「电子图书市场扩容渐明:中国图书商报和读吧网联合发布’07中国电子图书趋势报告」 By 姜海峰(北京书生公司总裁)、马 莹(商报记者)、4/18/2008

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