アマゾンのシェア「急落」予想の無意味

少なくともマスマーケットとしてのE-Bookは、アマゾンが創造したものと言ってよいだろう。KindleによってE-Readerの市場を創ったのもアマゾンだ。まったくよくやった。だから同社が90%のシェアを持ち、その地位により市場を支配してきたことも当然と言える。しかし、すでに市場が成立し、大小無数のライバルが登場した以上、次のラウンドが始まることもまた必然だ。90%という異常な数字が急降下を始めることも、驚きではなく正常化に向けた歩みと言える。市場はこれから5年間で桁を増やそうとしている。アマゾンのシェア低下は、市場の成長と表裏の関係にある。

関連リンク

Amazon e-Book share to fall from 90% to 35%, Analyst Says, By Matt Phillips, Wall Street Journal BLOG, 2/16/2010

Amazon faces a fight in new chapter for e-book, By Kristy Dorsey, Business.scotsman.com, 2/21/2010

「E-Book市場」の錯覚:“アマゾンに逆風”説

しかし、世間はなかなかそうは見ないようで、クレディ・スイスのアナリスト、スペンサー・ワン氏の分析を紹介した上記のWall Street Journalの記事などは、まるでアマゾンが凋落を始めているような錯覚を起こさせる。シェア90%から35%に低下して、アップル、Googleとともに市場を三分する、というのも皮相な見方だ。マーケティング的にみて、3者はそれぞれビジネスモデルも、コアコンピタンスも異なる。たとえ3者が<E-Reader+E-Book>の販売で競合することになったとしても、同一の尺度で「シェア」などを測れるものではない。

アナリストという人種は(筆者もその端くれでもあるのだが)、「市場」ができ、動きが始まるとすぐに「予測」という仕事を始めたがる。「市場」がまだ仮設的なものでしかないのに、わずか12~18ヵ月ほどのトレンドの延長に「世界」を描き、そこに巨人たちや小人たちを登場させて物語のフレームを拵えるのは安手のフィクションのようだ。要因を単純化し、しかも固定化させているので、半年もすれば色褪せるし、日付と数字が入ってもリアリティはない。目の前のE-Bookしか見えていないアナリストやジャーナリストと、先を読んでやっているアマゾンやアップルの関係者との差は、残念ながら大きい。

「凋落説」に対しては、さしあたってこう言えば十分だろう。アマゾンはアップル、Googleとバトルを繰り広げつつ、それらともパートナーであることができる。アマゾンにとってみれば Kindle Storeが本体なのであって、すでに E-Readerは必須のものではない。専用リーダがなくてもビジネスはできるし、最大の書店でもあり続けるだろう。アマゾンはiPadやAndroid、PCを含めた、マルチプラットフォームでのE-Book販売でのシェアと利益率の両方をにらみながら、手を打っているわけだ。同社の圧倒的強みは、ライバルよりも圧倒的に「本の顧客」、本の売上を最大化する「適正価格」を知っているということで、これが容易に覆ることはない。

「ブック+X」をめぐる主導権争いが始まっている

マクミラン社との1件で、大手出版社は軒並み「エージェンシー・モデル」に移行するのではないかとみられたが、ランダムハウス社はアマゾンとの関係を変えないことを表明した(下の参考記事参照)。出版社の「価格決定権」に関しても、「当社は小売価格の設定に関して経験を持っていない。」(マデリーン・マッキントッシュ社長)として大手書店(アマゾン)が販売価格をリードする現状の妥当性をむしろ是認している。マクミランやアシェットがオンライン書店に対し、「高価格」を強制できたとして、それは出版社の勝利でもなければ、アップルの勝利でもない。それどころか、下のNYTimesの記事は、アップルもやはり低価格を志向していることを示している。

筆者は、アップルがE-Bookで30%のシェアを達成することは相当に困難であるし、そもそもそれがアップルの戦略でさえないと考えている。iPadで小説を読みたい消費者がどのくらいいるだろうか。ページを連続的に追う以外の読み方がないフィクションでは、E-Bookの取り柄は安いこと、スペースをとらないこと以外にない。後者だけならヘビーな読者以外は用がないだろう。そんなものはアップルにとっても大した市場ではない。むしろE-Bookのシェア変化は、様々な付加価値と特徴を持った電子書店によってもたらされる可能性が強い。

アップルが向いているのはゲーム+ブックなどのダイナミックコンテンツであると推定する理由は十分にある。アップルは新市場を創造するために、出版社との良好な関係をつくることに成功した。ブック+ゲームブック+ビデオブック+オーディオブック+テキスト、あるいは「ブック+X」。出版社の想像力と創造力が十分に届かないこれらの分野は、次世代のコンテンツビジネスのほんとうの市場といえる。出版社が気づいていないのは、出版社が持っている最大の資産は「コンテンツ」などではなく著者と読者をユーザーとする「知のプラットフォーム」だということだろう。これは主として出版人の頭の中にある仮想的なものだが、これがあるからこそ、社会的・商業的に意味のある出版活動ができるのだ。音楽産業は「音楽」をコンテンツに最適化(矮小化)したことで自ら罠にはまった。

出版社は、少なくとも300年にわたって、この「知のプラットフォーム」を構築し、育ててきた。これをデジタルに再構築したものが、次世代のコンテンツ=サービスをリードする。既存の出版社にはまだいくらか時間が残されていると思うが、アップルやアマゾンは待ってくれない。信じられないかもしれないが、彼らが次にやろうとしているのは、ゲームビジネスのモデルを使ったコンテンツ産業の育成であると思う。既存の出版社は、それらに対して素材を提供するに止まるか、あるいは自らも参加するか、それとも消え去るかという3つのうちから選択できる。(鎌田、02/24/2010)

参考記事

Random House sides with Amazon, e-book readers on pricing, By Roger Theriault, Inside T/S Tech, 2/8/2010

Random Goes Rogue, By RichardCurtis, eReads.com, 2/10/2010

Apple’s Prices for E-Books May Be Lower Than Expected, By Motoko Rich, NYTimes Online, 2/17/2010

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