New York Times紙は2011年1月からWeb版への課金に踏み切る。しかし、これが成功すると見るむきはそう多くないようだ。うまくいって損失を補填するに止まり、最悪の場合はさらに売上を減らす。Webメディア・マーケティング調査会社のTBI Researchのサイトで、ロリー・メイハー (Rory Maher)は、これまでの数々の有料化試験の結果から、そう結論づけ、この結果を見たら、NYTも考え直すだろうとコメントしている。
リンク記事
Early Newspaper Paywall Results Suggest That The New York Times’ Plan Is Doomed, By Rory Maher, TBIResearch, 2/17/2010
ペイウォールは広告を締め出し、大都市では意味を持たない
有料Web、とくに一部を有料で提供するものは Pay wall (paywall)と呼ばれている。一部の記事を「free=無料=自由」の世界とベルリンの壁ならぬ「有料の壁」で隔てられた場所に置くことからつけられたようだ。もっともこれはネット側の発想で、新聞の人々は壁の内側にこそ自由があると考えているのかもしれない。
しかし、わずか2ケタの購読者しか獲得できなかったNewsdayのように、多くの新聞がペイウォールで躓き、そして無料=広告依存モデルに復帰している。しかし、もともと広告収入の少ないローカル紙では、購読料でカバーするのは難しくない。米国の新聞は基本的にすべてローカル紙で、人口により、トップ100、サブ200といった具合に区分されている。前者では広告収入が大きく、後者は少ない。だから単純に言って、小規模で、孤立した地域ほどペイウォールモデルに適しているという計算が成り立つ。実験でもそうした傾向が出ている。メイハーの結論は以下のようなものだ。
- 大都市でのペイロール戦略は、購読収入の増加より広告収入減少の影響が大きい
- モバイル配信はペイウォールに適しているが、普及には時間がかかる
- サブ200ではペイウォールが印刷版の購読者の維持に役立つ
電子版こそ新聞を救う頼みの綱:
ペイウォールモデルは、2002年 Financial Times紙などが最初で、Wall Street Journalが続いた。後者は約100万人の購読者がおり、年間6,500万ドルを売り上げている。NYTは一度有償化してTimesSelectというサービスを提供した。年間49.95ドルで提供され、2007年の売上は1,000万ドルだったが、広告収入のほうが多かったため、この「壁」は撤廃された経緯がある。「良質なジャーナリズムは無料ではない」とは言いつつも、広告主が負担してくれるなら、あえて読者から徴収しなくても、というのが本音である。だからコンテンツは無料か有料か、ということをあまり図式的・道徳的に考えないほうがいい。Web新聞のビジネスモデルがまだ確立していないというだけなのだ。
日本では正確な意味での新聞電子版は存在しない。「電子版」は広告収入を目的にした無料の「速報版」であって新聞そのものではないからだ。たいしてコストもかけていない。にもかかわらず、米国と同様に新聞社の収入は落ち込んで多くは赤字に転落している。つまり、無料電子版とは無関係に、紙の購読も広告も減少を続け、新聞社の収支は悪化を続けている。このままでは、印刷・配送コストの回収が困難な状態になることは必至だ。だとすると、理論的には、電子版こそ新聞を救う頼みの綱ということになる。ネットが新聞を殺そうとしていると考えるのは完全な被害妄想のように思われる。人力車の消滅が個人旅客輸送業の消滅を意味するわけではない。
重要なことは、(1) 情報が「消費」される時代に、その消費のコンテクストと広告を結びつける有効な技術的手段を発見し、広告主に提供すること、(2) 逆に「消費」の対象ではないジャーナリズムとしての社会的機能の進化を目ざす、という困難な課題の少なくとも一つで成果を出すことだろう。前者ではマーケティング、後者ではソーシャルコミュニケーションを、21世紀的にデザインするということだ。米国のジャーナリズムは、そうした課題にかなり真摯に取組んでいると思う。日本でも日経新聞の初の「電子版」が始まるが、これについては別に取り上げたい。(鎌田、02/22/2010)
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