アップルiPhone/iPadで問われる「表現の自由」

コンテンツであろうとアプリケーションであろうと(違いは微妙だが)、小売店は何をどう売ろうが売るまいが自由だ。しかし、あまり高飛車だと消費者から見放される。アップルiPhone/iPadのヴィクトリア朝風「性的コンテンツ」禁止ルールはかなり滑稽なことになっているが、笑ってばかりもいられない。ストアにおける「生物多様性」をどうやって護るかを考えるべき時期だと思う。

App Store ライセンス約款と「性的コンテンツ」の検閲問題

昨年夏、顧客が購入したジョージ・オーウェルの『1984』電子版を、アマゾンが一斉に削除してしまったケースは、現在でも様々な言説に援用される。この事件は、賢明にも「創業以来の失敗」と直感したジェフ・ベゾスCEO自らが「浅はかで、軽率で、当社の原則に著しく違背」したとして謝罪したことで収束した。その後「削除によって宿題が出来なくなった」高校生を原告とする訴訟を経て、同社は書籍の遠隔削除の基準を、(1) 代金決済不能、(2) 裁判所の命令、(3) マルウェア、(4) ユーザーの依頼の4つに整理した (WSJの記事参照)。なおアプリケーションとブログ、定期刊行物については遠隔削除の権利を留保している。とはいえ、ダウンロードされたコンテンツが、なお一元的に配信会社の管理の下にあることをユーザーと出版社に強く印象づける結果となった(教育効果は高かったと思う)。販売されたのはコンテンツを「読む権利」であって、コンテンツそのものではなかったということだ(だから印刷本より安くて当然なのだ)。

しかし、アップルが iPhone/iPad に関して、アマゾンよりはるかに高圧的なライセンス約款をアプリケーション開発者に要求していることは、とくに日本ではまったく注目されていない。関心のある方は、ぜひ下の資料で確認していただきたい。同社はいつでもアプリケーションを(ユーザーのインストール後でも)無効化でき、損害賠償は50ドル以下、同社のSDKを使ったものは他のストアで販売できない、ことになっている。しかも約款についての一切のコメントをしないことまで約束させる念の入りようだ。これほどの約款は目にしたことがない。

恣意的なのも特徴で、「性的コンテンツ」がダメというのは勝手だが、「PLAYBOYはOK」となったらジョブズ氏の趣味の問題か。コンテンツやアプリケーションのオンライン小売としてのアマゾンやアップルが、何を売り何を売らないかは自由だ。東京都の条例ではないので、どんなヴィクトリア朝風の約款でも自由だ。ただ、ストアの多様性がなくなると、文化的には最悪だということは強調しておきたい。E-Book時代にも多種多様な書店がないと困ったことになる。数百でも足りず、数千は必要だと思う。アマゾンのように、古書、新書、E-Bookを扱う専門書店もできる。出版社も書店も多様性がないと出版文化は維持できない。カタログ検索、決済などのプラットフォームを共有化しながら、書店としての個性を主張できる仕組みが必要だと思う。(鎌田、03/25/2010)

注:書籍コンテンツとアプリケーションの距離(かなり近くなっている)については、参考記事を見ていただきたいが、iPadの最大のメリットが動画を加えたダ イナミックなアプリケーション型コンテンツであるとすれば、すでにiPhoneでベストセラーとなっている Nick Caveの “The Death of Bunny Munro” ($16.99)あたりが当面の一つのモデルとなると言われている。

参考資料

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