印刷本と電子本のコスト比較から考えられること

出版社にとってE-Bookが儲かるものかどうか、あるいはどうすれば儲かるか、という問題はそう単純ではない。印刷・在庫コストが消える代わりに、単価を下げねばならず、ロイヤルティも同じではなくなるからだ。印刷本の流通との兼ね合いもある。事実をもとにいくつかの仮説を立ててシナリオを描き、あとは実験をやってみるしかない。そうした意味で、大手出版社からの取材に基づいてコストを比較したNYTの記事は非常に貴重な情報を伝えている。

リンク記事

Math of Publishing Meets the E-Book, By Motoko Rich, New York Times, 2/28/2010

E-Bookは紙より儲かる!? ただし…

New York Timesのモトコ・リッチ (Motoko Rich)記者 は、E-Bookビジネスを継続的にフォローしているが、2月28日の記事では、大手出版社数社からの取材をもとに、印刷本とE-Bookのコスト構造の比較を比較、検討している。これまで、大ざっぱにしか語られてこなかった数字だけに非常に注目に値する。前提は、(1) 大手である、(2) 売れ筋ハードカバー、(3) E-Book販売はアップルモデルで試算、ということ。もちろん、影のコスト(売れなかった本のコスト)もあるが、リッチ記者はかなりよく取材している。これは必読。

まず印刷本のほうだが、価格を26ドルとすると、出版社の手取りは半分の13ドル。印刷・製本、在庫、出荷、返本に要するコストは3.25ドル。出版社の総収入に対する割合は25%である。表紙デザイン、版下制作、編集は80セント (6.2%)。最も多い著者へのロイヤルティは、ベストセラー本の場合、定価の15%で3.9ドル (30%)にも達する。コンスタントに100万部を売る作家や、出版社がリスクをとって売り出す新人などの場合、これより高い場合があるというから、市場経済は辛い。以上のコストを差し引くと、出版社には4.05ドル (31.2%)が手元に残るが、ここからさらに編集者や表紙アートデザイナーへの支払い、一般管理費を引いたものが出版社の利益ということになる。一般的にどのくらい残るかは示されていない。

E-Bookのほうはどうか。アップル・モデルで、12.99ドルの電子版を売った場合、出版社の取り分は9.09ドル (70%)。デジタルファイル制作費は50セント (5.5%)、マーケティング費用78セント (8.6%)。議論の的となっている著者へのロイヤルティは、総売上ないし小売価格の25%、2.27~3.25ドル (25~35.8%)。出版社の手元には4.56~5.54ドル (50.1~60.9%)が残ることになる。

本のライフサイクル収支はまだ描けていない

一見するとE-Bookのほうが儲かりそうだが、もちろん、これはE-Bookがハードカバーの副産物であると仮定した場合で、E-Bookの市場規模がまだ全体の3~5%で、それが大きく伸びたとしても印刷本の市場を侵食するのならば、(あくまで新刊本に関する限り)出版社にとってメリットは少ないことになる。また現在は、ハードカバーを出してから時期を遅らせてペーパーバックを売ることで、コストを取り戻す仕組みになっているが、こうした本のライフサイクルにE-Bookをどう組込むべきか、という結論は出ていない。印刷本で成立している書店の経営が圧迫されれば、書店数、売場面積はさらに減少し、それが印刷本の販売に影響を影響を与える可能性は強い。リッチ記者によれば、出版社がE-Bookの価格をなるべく高くしたておきたいのは、電子化の流れをスローダウンすることでソフトランディングの可能性を大きくするためでもある。

大手出版社は、マージンに固執する。新人を発掘し売り出すにはコストとリスクがかかる。マージンがなければすれは不可能になると主張するが、つまりは売上が増加することを信じていないわけだ。業界の常識では、出版点数の70%あまりが利益をほとんど上げられず、すべての活動が一部の売れ筋に依存していることになっている。「わずかな例外を除けば、誰も大儲けしてはいない」とコロンビア大学で出版コースを教える教授も言う。リッチ記者の記事は最後に、大ベストセラー作家(吸血鬼ものの巨匠)、アン・ライス女史のコメントが引用されている。「作家にとっては9.99ドルで100万部も売れてくれれば大いに結構」と前置きしたうえで、「出版社はE-BookやKindleを抑え、ダムを築いて革命を押し止めようとしているけれど、うまくはいきませんよ。」

砦に立て籠もる前に、出版社に考えて欲しいことは、とりあえず次のようなことである。

  1. 本のライフサイクルモデルを、E-Bookを含めて再構築する。
  2. 新しい本の「読書体験」を構成する付加価値を開発する。
  3. 絶版本の電子化をGoogleに任せず、積極的に収益源とする。
  4. 新人、新テーマの開拓をこれまで以上に積極的に行う。
  5. Webを利用した安価なマーケティング手法を開発する。

出版社が頼りにすべき著者、これからの新人が離れていってはビジネスとしての将来はない。デジタルミュージックなどと違って、本は奥(コンテクスト)の無限に深い世界である。知識情報へのニーズは高まることはあっても逆はない。ただ市場である読者を育て、読者にアクセスする方法、情報を届ける方法を再構築しなければならないだけだ。(鎌田、03/08/2010)

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How Much It Actually Costs to Publish an Ebook vs. a Real Book, by Matt Buchanan, Gizmodo, 3/1/2010

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