第1回 (3/16)のEBook2.0研究講座は、問題提起に続いて活発な議論が展開され、とても刺激と収穫が多い内容だった。評価は参加者の方々にお任せするとして、浮上したいくつかの問題について、今後の展開につなげるため、論点を整理しておきたい。まず、「E-Bookは考えるためのメディアになりうるか?」から。デジタルメディアの歴史は人類の知的能力を進化させるのではなく、退化させてきた。文字を主として扱うE-Bookはその流れを変える可能性を持っている。
Q001:E-Bookは「考えるメディア」となりうるか?
鎌田が考えるEBook2.0は、大ざっぱに言うと、ページの表示を超えて、「ダイナミックでインテリジェントな読書体験をサポートする環境」ということになる。この機能がサーバにあればWebサービス、ドキュメントに埋め込んであればアプリケーション、E-Readerにあればガジェットということになる。また、知的な擬似機能を代替して人間をより愚かにすることもできるし、逆により賢くすることもできる。だから、市場的には2つの方向に展開する。
- 一つはこれまでのUIの発展の延長で、画像・音声と直観的なインタフェースで考える手間を節約する方向である。選択を単純化するもので、もちろんサービスのプロデューサーの意向が反映する。カタログなどでは、この方向に最適化が行われる。ほとんどの開発努力は、こちらを向いていると言っていい。
- いま一つは、それに逆行するものだ。上記のUIは高度な技術を使って人間を無能力化させるという嫌な性格を持っている。「考えない人」あるいは「ケータイを持ったサル」が増殖していくと、答えのない「問題」の解決ができなくなるので、いずれ社会そのものが自壊していく。E-Bookは「考える (ための)」メディアとなる潜在的可能性を持っている。われわれが”EBook2.0に最も期待するのは、もちろん後者の可能性だ。このまま無能化されたら堪ったものではない。
大野氏の講演は「知的メディアとしての可能性」をテーマとしたものだったが、「情報メディアの対称性」として、(1) 人類のコミュニケーション・メディアの歴史とコンピュータメディアの歴史が、きれいに逆を向いていること、(2) データ型を組合せて、可視化・直感化を志向してきたコンピュータメディアが完成したことで、ユーザーは原始人類化しつつあること、(3) 思考させるコンテンツ&プラットフォームが必要であること、を述べられた。コンピュータそのものは近現代の論理学から出発したのだが、人間の道具となっていく過程でコミュニケーション・メディアの歴史を遡行して「サルでもわかる」レベルをサポートするまでになったということである。
20年ほど前にマルチメディアが登場した時、コンピュータが「感性」を解放するといった超楽観的な「メディア論」がよくされていた。論理性から感性へ、左脳から右脳へ、というのが「進化」とされた時代が長く続いて、「振り向けばサルばかり」になってしまった。考えられない人間が出来るのはあらかじめ用意された「答」を選択することだけだ。試験はパスしても、問題には対処できない。最悪なのはコミュニケーション能力が低下してしまったことで、文章能力も低下し、それがさらに連鎖する。コンピュータは、たとえば文章を解析してロジックを抽出したり、語彙を分析したりすることができるが、肝心の人間がサル化しているので、コンピュータを使うこともできない。
商業メディアもこの思考力低下に対して「最適化」したことは言うまでもない。だが「進化」がいきすぎて、いまや「論理的思考力」や「コミュニケーション能力」の強化は社会問題にもなっている(日本人の英語力がいっこうに改善しないのも、思考力低下と関係している)。教育もメディアも、社会も、「考えない人」をつくる方向で機能してきたのだが、とうとう社会にとっての問題として意識されるまでになったわけだ。単純化して言えば、<読まない→考えられない→読めない→>というループが作用してきたのだと思われる。
さて、人間をサル化してきたコンピュータが、サルを人間化する役に立つものなのだろうか。E-Bookが登場したのは、マルチメディアのブームが去り、それが当たり前になった後のことだった。筆者はこれを「ミネルヴァの梟」と見立てたいのだが、文字(=記号)というデジタルからもアナログからも超越し、多くの人間が読めても十分に理解できない情報を利用するのに最も適したメディアが、一連のメディアガジェットの最後に登場したことに注目しないわけにはいかない。E-Book/E-Readerが真に知的なメディアになるために何が必要か、このプロジェクトで考えていきたいと思う。(鎌田、03/17/2010)
- E-Book研究講座 第一回セミナー「出版とは何か」
- EBook 2.0ノート (1):「元年」のコンテクスト 3/8/2010
- EBook 2.0ノート (2):味方にするために 3/15/2010
- EBook 2.0ノート (3):「考えるメディア」 3/17/2010 (本稿)
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