EBook2.0ノート(5):「日本」問題をどう考える?

第1回のセミナーでは、多くの本質的な議論がなされた。なかでも重要なのは、iPad などの登場によって、世界が“2.0”に移行していく中で、日本のわれわれが直面する固有の問題解決をどう実現していくのか、ということだったと思われる。移行期だからこそ問題の解決も可能になる、という漠然とした楽観論ではすまない各論に入っていく。

Q003:EBook 1.0/2.0とは何か。どこが違うのか。

鎌田は「E-Bookビジネスの現段階」の認識について、従来大きな問題とされてきた<コンテンツ/デバイス/フォーマット/著作権管理>などが、すでに米国を中心としてE-Bookの市場と競争が成立したことにより、すべて合理的な解決に向かう、という楽観的な見通しを示して、われわれは“2.0”の課題、つまり<ダイナミック/インテリジェント/ソーシャル>を実現する課題に取り組むべきだと述べた。E-Bookが出版社にとって損失より利益機会を提供すること、デバイスは安価・大量に供給されること、フォーマットは相互変換が容易で、あれほど重大視されてきた海賊版の問題など皆無に近いことが判明して、すべて合理的に、比較的短期に解決するので、解決を待つことは無意味だということを述べたものだが、日本という環境を考えた場合、これは単純にすぎる。E-Bookに何年も取組まれてきた方にとってはとくにそうだろう。「まだ“EBook1.0”が実現されていない現状で“2.0”を目ざすことは現実的なのか」という意味の質問をいただいた。

まず、EBook1.0と2.0の違いをはっきりさせておくべきだろう。これは本サイトを立ち上げる時に鎌田が言いだしたものなので(他に定義があれば別だが)以下の定義で十分かどうかを議論していただければ幸いである。鎌田は1990年当時にハイパー・ドキュメント技術をベースにしたE-Bookを考えていた一人であり、ダイナミックでインテリジェントという意味ならば、必ずしも2.0を持ち出す必要はなかった。2.0としたのは、Web(とくにオライリーが甘く定義した“Web 2.0”)における「ソーシャル」性がE-Bookにとって本質的な意味を持つと考えたからだ。技術は社会性を持たない限り「メディア」にはならない。そうした意味で、CD-ROMブックやハイパーカードは、1.0とはならなかった。また、現実に印刷本に対応するコンテンツが電子化されて流通するにも、Webの普及が前提とならざるを得なかった。Webが進化しなければ、E-Bookも科学技術系での利用にとどまっていた可能性が強い。鎌田の暫定的な定義は、以下の通りである。

  • 1.0新刊・既刊・古書、有料・無料を含めた本の電子的流通と静的な読書体験をマルチプラットフォームで実現する環境。主にアマゾンKindleが2009年までに実現した水準。

Q004:“EBook 1.0”の日本的課題はいかに解決されるのか?

E-Book/E-Readerの世界市場は、現在のところ米国と中国・台湾の企業や市場が牽引している。日本ではソニーとパナソニックが1.0にチャレンジして失敗した後、無風状態が続いていたが、アマゾンとGoogle、アップルの動きによって新たに対応を迫られている。だから、多くの人が変化を当然のものと受け止めながら、まだ何も変わっていない部分が多く、<コンテンツ/デバイス/フォーマット/著作権管理>という1.0の課題が、そのまま残っているという奇妙な状態と言っていい。そのあたりが、「守旧派」からの抵抗を受けずに浸透したWeb 2.0と違うところだ。

「1段階」か「2段階」か:E-Book革命論!?

鎌田は、2.0パラダイムが展開されることによって、1.0問題の解決も進むと考えている。つまり日本は「2段階」ではなく「1段階」で済むはずだということになるが、たぶんかなりの但し書きが必要になると思う。1段階にしても簡単になるわけではない。2.0をつくっていくなかで1.0の課題も合わせて解決していかなければならないからだ。

  • 基本的に、著者・読者にとっても、出版社にとっても、印刷本を電子表示にしただけの1.0ではない2.0は多くのメリットをもたらす。2.0に取組むためには、1.0における、多様な本のWebを通じた「電子的流通と静的な読書体験」というインフラがないと出版社の主導権はまるで持てなくなり、自動的に「中抜き」が進むから、前に進まないわけにはいかない。
  • しかし、1世紀以上、何世代にもわたって続いた出版関係者の(世間↔社会)意識や商慣習は、近代のものというよりは近世のものといってよい。契約書のない著者との取引、中小出版社を当然のごとく差別する流通など、市場が機能しない世界を背負ったままでは2.0に行けないことも確かだ。他方で市場は人々が協働する環境である「社会」がないと成立しない。だから、出版社を守旧派に追いやってしまわないための新しいエコシステムと移行シナリオが必要になると思われる。本プロジェクトで、整合性のあるシステムのデザインと提言が出せたらベストだ。

日本的問題へのアプローチ

じつは、出版社がE-Bookの「著作権管理」を問題にしてきた背景には、伝統的に著者との間で著作権が「管理」されてこなかったという、はるかに重大な問題があった。この問題は「パンドラの箱」なのだ。デジタル化するにあたって、じつは著作権が著者の手中にあり、著者は自由に他社と契約可能である、という(関係者にとっては)驚天動地の事実に初めて直面したのだ。「中抜き」への恐怖は、国家の介入によって業界を守ろうという動きすら生んでいる。一種のパニックでもある。鎮静剤を打って現実的かつ創造的な解決のテーブルについてもらわないと、歪んだ形でEBookに進むことになる。

議論の中では、出版社と印刷会社の関係という、別の日本的問題も指摘された。欧米と比べて日本だけの事情だ。もともと版を製作・管理していない出版社は、データを印刷会社に預けている。E-Bookを出していく上で、印刷会社はどのようなサービスを提供することになるのか、これもオープンに議論すべき問題だろう。研究講座には印刷会社やデータ関連サービスの関係者が参加しておられるので、今後のテーマとしたい。

ここから先は各論になっていく。課題は多いが実現すべき目標が共有されていれば、誰も悪者にすることなく解決は可能である、という信念でやっていきたい。(鎌田、03/18/2010)

* EBook2.0研究講座・第2回は4月20日に開催予定です。皆さまのご参加をお待ちしております。
**本プロジェクトへのご質問、ご意見、ご要望などがありましたら、下記へお寄せ下さい。

Mail: seminar<atmark>ebook2forum.com

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