EBook2.0ノート(6):著作権・著者・出版者

E-Bookの市場を創っていくためには、当事者間の権利の再調整とともに、これまで市場が機能していなかった部分に公正な市場を創設する努力が必要とされる。かなり注意深く議論を組み立てて、不安や摩擦を解消しながら、あるべきデジタル社会の認識と問題解決を共有していかねばならないだろう。第1回セミナーで議論された内容は、そのまま今後の重要なテーマとなっている。

Q004. デジタルコンテンツの時代に著作権は根本から考え直すべきではないか。

こういう意見が出された。折しも、デジタル化をめぐって「著者」と「出版者」との権利調整が問題化しており、“タブーを設けない”ことを標榜する EBook2.0プロジェクトとしても取組むべき火急のテーマでもある。もともと「著作」権(というより“copy”right)は、ヨーロッパ近代の印刷業の成立とともに(その権益保護のために)生まれた権利概念だ。複製コストが限りなく安くなったデジタル時代に生き延びたことによって、数々の問題を生じてきた。権利というものは(自然権を除けば)それを認めることによる社会的利益が想定されていたわけだが、著作権ほどそれが希薄になり形骸化したものも少ない。

権利を論じることが厄介なのは、言うまでもない。すでにそれを前提として日常的なビジネスも動いているし、半ば習慣化しているし、中途半端な形で人々の意識に定着している。近年のキャンペーン成果で、「違法コピー」がいけないことにはなってきたが、なぜいけないのかを説明できる人は少ないと思う。まして権利保護期間「死後70年」というに至っては、社会性は皆無だろう。そうした非社会的「権利」に対して、社会性を前面に出したパブリックドメインクリエイティブコモンズのようなイニシアティブも展開されてきた。われわれはE-Bookにおいて、(1) 著作権付コンテンツ、(2) パブリックドメイン、(3) パブリックドメイン、(4) 著作権切れ、(5) 著作権者不明、という5種類のコンテンツを扱うことになるのだが、新しい「社会性」に即して権利の扱いを議論すべき時期に来ていると思われる。

権利問題とともに、「著者」と「出版者」も再定義しなければならないようだ。最近のいわゆる「中抜き」問題は、デジタル化によって出版社が「出版者=版元」から「一流通業者」に転落したこと(あるいはそうなる恐怖)によって生じている。ダイナミック・コンテンツを中心としたEBook2.0は、様々なコンテンツの「断片」を再構成し、プログラムと組合せた、新しいスタイルを普及させることになるが、これはますます従来の著作権では扱いきれない。EBook2.0プロジェクトは、無用な不安を解消し、社会にとっても関係者にとってもプラスとなる建設的な提案とそのための情報共有基盤を提供していきたいと考えている。

Q005. 著者の立場に立って交渉すべき「エージェント」の問題を取り上げるか?

議論では、日本の特殊性として著者エージェント (Literary agent)の不在、ということが指摘された。これもE-Book 1.0以前の問題だ。市場であろうと法廷であろうと、市民社会において権利を機能させるには、エージェントの存在が前提されている。しかし、近世の「版元」に淵源を持つ出版業の日本的慣行では、「悪いようにはしない」という信頼関係が暗黙の了解となってきた。電子化権はもとより、出版契約そのものについても文書が交わされていないケースは多い。市場を通じた著者あるいは著作物の価値の最大化を担う存在として、著者エージェントは、E-Bookにおいて必要なビジネスということになろう。

「代理人」を忌避してきたという点で、プロ野球と出版業界はよく似ている。「第三者が介入すれば、当事者の信頼関係が揺らぎかねない」という理屈が罷り通ってきたが(メディアがオーナーだとそうなる)、選手会の苦闘の結果ようやく認めさせた。プロ野球に比べると、出版の世界は猛烈な反対があるわけではないのにほとんど普及してこなかった。市場は、是非善悪とは別に、相互に価値を主張することによって機能する世界だ。肝心の著者・著作物の価値を主張するものが新刊広告だけ、というのは資本主義のもとでの市場ではないのだ。(© Baloo’s Cartoon Blog

著者エージェントは、著作物(あるいは著者の創作行為)の市場を、国内・国外に拡大することによって日本の出版業にも貢献する。これまであまりに疎かにされてきた版権輸出も促進するだろう。すでに日本にもエージェントが登場しているが、E-Bookのバリュー・チェーンにおけるエージェントの役割について、国内国外のエージェントを交えて議論してみたいと考えている。(鎌田、03/19/2010)

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