「官民一体」で「中抜き」阻止とは?

「政府は17日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けた環境整備に着手した。」という書き出しで始まる日経新聞の記事は、E-Bookを進めるわれわれの気分をむしろ暗くさせる。文書では背景や課題について明確な説明がない一方で、「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)という説明がなされている点だ。

何のための「官民共同」?:狙いは日の丸ロックインか

「官民共同の懇談会」で方針を示したということは、これが「挙国体制」の総意としての体裁を繕いたかったこと、さらに「作家や出版者、新聞社、印刷会社、書店、通信事業者、メーカーの代表者も出席」することで、ユーザーである一般消費者を含めた多様な議論を極力コントロールしたい、ということなのだろう。つまりマスメディアにおいて自由な言論が成立しないテーマとなったわけだ(新聞=出版連合)。公表資料は貧弱で、詳しい情報を入手する前に論評するのはあまり適当とは言えないが、とりあえず問題提起と注意喚起を行っておきたいが、筆者の懸念が誤解に基づく杞憂であることを願っている。関係者による説明をぜひ伺いたい。それにしてもこれは「政治主導」なのか「官僚主導なのか」それとも「業界主導」なのだろうか?

さて、記事によれば、こうある。

「電子書籍の形式は各メーカーが定めており、共通のルール、規格がない。端末ごとに読める書籍が限定されるほか、「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)との指摘がある。出版物の管理コードにあたる「書誌データ」も統一規格がなく、一連の基礎的な環境整備が検討課題になる。」

「電子書籍の形式は各メーカーが定めており」とあるが、まず「電子書籍の形式」についての説明がなく、いきなり「各メーカーが定めており」とある。これはかなり事実に反するフォーマットは複数乱立しているが、ほとんどはメーカーが定めているわけではない。ePUBというれっきとしたオープン標準があり、デファクトのPDFもある。ソニーやB&Nが独自のフォーマットを持っているわけではない。また、アマゾンKindleにしても、DRMが絡む部分に独自のフォーマットを採用しているにすぎないし、PDFでも受け付けている。出版社はすでに複数の流通プラットフォーム、複数のデバイスをターゲットにして出版しており、規格によるロックインで不自由している事実はない。むしろこのガラパゴスへのロックインを狙っているのは「官民」のようだ。されるのが国民では堪らない。

官民一体でアマゾン上陸阻止?

共通のフォーマットがないから新しい「標準」フォーマットをつくろうという発想は、誰も理解できない。標準はE-Bookの機能に関係しているから、ペンギンなどのように標準ではない独自技術を採用する出版社もある。「官民」で標準など国際的にも説明困難だ。日本のメーカーや出版社にとってはフォーマットが増えてコスト高になるだけで、海外への展開にも邪魔になる。JIS規格が日本の製造業にとって否定的な影響を与えていることはすでに1980年代から問題になっていた。日本独自の標準など百害あって一利もない

どうも「懇談会」で言う「メーカー」とはアマゾンのことらしい。「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」というロジックも飛躍がありすぎるのだが、「アマゾン」なら納得がいく。つまりアマゾンに対抗する「規格」を決めようというものだ。これは黒船に対する「官民」の筵旗と竹槍だろうか。これ以上恥ずかしい真似はやめたほうがいい。フォーマットにしても環境整備にしても、ほかにやるべきことがあるはずだ。

結局「中抜き」をさせないために、官民で日本独自の「規格」をつくりたい、ということのようなのだが、「中抜き」はメーカー規格であろうとオープン規格であろうと起こる可能性がある。著作権者が誰と組んでどうやってデジタル著作物を出そうが、契約自由の原則から言って行政が介入する問題ではないと思われるが、そうではないという根拠があれば示すべきだろう。また、中抜き防止の「規格」というのは、具体的にどんな技術になるのだろう。これはEPUBやMOBI、PDFのような表示や操作に関わるものというより独自のDRMに関わるものかもしれない。

企画書では「技術」と「利活用」に関する「ワーキングチーム (WT)」を設置し、それぞれ今月から月2回の検討を行って「一定の結論を取りまとめ」て懇談会に報告。それらの「当該取りまとめ」を踏まえて懇談会が議論を行い「6月中を目途に一定の取りまとめを行う」そうだ。よほど「一定の取りまとめ」が好きなようだが、何をどう取りまとめるのかが明記されていなければ情報ではない(それにしても日本語の乱れ方が酷い)。正味2ヵ月で作業ができるとしたら、すでに結論が用意されていると考えるべきだろうか。そもそも責任能力のない懇談会がどうやってWTを指揮するのだろう。(鎌田、03/18/2010)

関連資料

デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会(第1回)配布資料

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