「出版物利活用」懇談会に望む:7つの仮説

「排除型社会」という、非日本的な嫌な言葉が現実性を持って迫ってくる時代である。人々が不安に駆られるのも無理はない。これまで築いた地位や専門性を無効にするような技術と環境に恐怖を覚えるのも理解できる。これは歴史的な転換期なのだから。しかし、このイノベーションに敵対しても勝ち目はない。逆に味方にすることは可能だし、その場合にのみ過去の資産は生きる。どうやら三省合同の「出版物利活用」に関する懇談会ではパニックから見当違いな議論がなされた可能性がある。これに関して、短期・集中的な議論が必要で、その場はネットが中心とならざるを得ないと考えている。以下に対してなるべく多くの方のコメント、ご批判をいただきたいと思っている。

中抜き:「製造業者と需要者の中間に存在する問屋や小売業などの流通経路を省くこと。」(goo辞書)

「中抜き」というのは新語らしく、また俗な言葉なので正確に定義されたものではない。それだけに妙な「リアリティ」がある。行政としては、じつに扱いにくい言葉だと思う。一方で「中抜きこそ市場原理」という合唱が起こり、「既得権益」が非難されるのでますます潜行して隠語化する。これで「議論」ができなくなり、陰謀などしたこともない人たちのやることが陰謀化する。今回の「懇談会」では真の目的を隠し、「中小出版社保護」が謳われているので、さらに捻じれを起こしている。なにしろ、保護の対象となる当事者は呼ばれてもいない。官僚としては「民間」が保護を求めて来るのは悪い気分ではないだろうが、政治が果たすべき利害調整の役割まで負わされるのは後が怖い。それが妙なな文章になっているのだと推察する。だから「中抜き阻止論」は表には出てこないのだろう。

ここで筆者および本誌の立場を作業仮説として提起しておきたい。

日本の出版業再創造のための7つの作業仮説

  1. 当事者が「既得権益」の保護を訴えるのは当然の権利だと考える。世に「既得権益」なしで生きている人は少ない。凡夫が「本来無一物」などと言えるわけがないのである。まして一世代以上続いた「既得権益」を当事者が「自然権」のようなものと考えるのは彼らの責任ではない。これを「悪」としたのでは議論は成り立たない。だから中小保護だの文化だのを持ち出すのをやめて権益は権益として主張して欲しい
  2. 消費者に価値を提供するバリューチェーンを最適化する過程で「中抜き」が生ずるのは当然で、それを阻止すれば市場が歪み、国際社会で取り残され、競争力を失う。長期的に国家社会に大きなダメージを与えることになるから、例外的・経過的措置として正当性が検証できる場合以外「中抜き」は妨害されるべきではない。ただし、新しいビジネスモデルを早期に成功・安定させたいのなら、それによって生まれる創造的価値と新たなエコシステムを訴求する必要がある。
  3. 出版社は付加価値を生まない余計な流通経路などではない (はずだ)。この業界の関係者が「中抜き」などという言葉を使うのは信じられない。何かの間違いだと思うが、本気でそう考えている人には、創業以来の使命と経営基盤を再確認していただきたい。それに(新聞社のような政治力などない)出版社は、いくら過去の蓄積があっても読者から見放されたら存在できない。
  4. 中小出版社のことを考えるのであれば、それはE-Bookをベースに考えるしかない。中小出版社が苦しいのは、現在の印刷本の流通システムのせいであって、それは経営努力で克服できないレベルだ。マンガと雑誌を除いたら、日本の出版文化のかなりの部分は「中小+零細」出版社で維持されてきた。E-Bookは中小出版社に大きな可能性を与える。実際、政府よりもアマゾンに期待しているのだ。
  5. 「デジタルコンテンツの流通促進」を考えるなら、やることはいくらもある。筆者にも提案はあるが、まずテクノロジー/マーケット/ビジネスの未来イメージを社会的に共有し、政府の役割(民業支援)についてコンセンサスを形成する必要がある。短絡的な支援が成功した例を知らない。クリエイターに恩恵が及ばない「コンテンツ産業」支援など、税金の無駄遣いだと思う。
  6. 日本企業ので国際展開の邪魔になることは一切すべきではない。日本企業は、中小を含めて、そんなに弱くない。「デジタルコンテンツの流通促進」には2つの方法しかないように思われる。競争(つまりグローバルな配信プラットフォーム)に委ねるか、オープンプラットフォーム (例えばBookServer)を推進するか、である。もちろん両者は矛盾しない。
  7. 最後に、読者と著者、クリエイターは、つねに良心的、野心的な出版社を歓迎する。知識情報における国際的な交流が活発化し、日本文化、日本語文化が海外に広がることに期待している。彼らの期待に答える出版社の活躍の場がE-Bookだ。過去の知的遺産を私物化するのでない限り、「中抜き」の心配など無用である。

われわれは、まず関係者がタブーを設けずに率直に話し合い、互いの問題と懸念を理解し、出版の将来イメージを構築する中で解決を共有していくことを願っている。それには信頼関係が前提となる。だから阻害するような非難は控える。ルールと節度を守ることで、懇談会はオープンで建設的な議論をリードすることができると思う。(鎌田、03/21/2010)

本誌関連記事

「官民一体」で「中抜き」阻止とは? 3/19/2010
「出版物の利活用推進」懇談会って一体? 3/11/2010

参考記事

電子書籍の課題や制度を検討、3省合同の懇談会が初会合 (INTERNET Watch)

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