マクミラン社がE-Bookの価格方針を発表

3月2日、マクミラン社のCEO、ジョン・サージェント (John Sarjent)氏が同社のブログで、E-Bookのリリース方針について見解を発表した。読者の疑問や批判に答え、エージェンシー・モデルと呼ばれる新しい小売モデル、電子版のリリース時期、価格政策について明らかにしており、やや遅すぎる観もあるが、出版人としての責任を自覚した発言は評価できる(ライオンに狙われたシマウマのように「結束」を固める日本の出版社はみっともない)。

出版人として初めて読者の疑問に答える

E-Bookの価格等をめぐって、大手出版社のマクミラン社がアマゾンとトラブルを起こしたのは、まだ記憶に新しい。トラブルじたいはすでに決着しており、アマゾンは同社の書籍の販売を続け、3月末をもって新しい「小売モデル」へと円満に移行することになっている。しかし、アップル iPad発表に合わせたものだっただけに、メディアやユーザー (読者)に憶測や不満の種をまくことになった。まだ5%とはいえ、すでにE-Bookが十分に社会的なメディアとなっていることを示したものだ。

サージェントCEOは、「過去数週間で多くの皆様と話す機会があり、この未曽有の変革の時代にあって、あまりに情報が少なすぎたことを知りました。」と書いている。反響は予想外に大きくかつ出版社に厳しかったことが伺える。$9.99を$12.99に「値上げ」し、発売時期を遅らせるなど、E-Bookの読者にとって不利益になる決定だけに、批判は当然だろう。また、著作権者側(こちらにもエージェントがいる)からロイヤルティ・レート(名目または実質売上の25%前後)の引き上げ要求が強まるなど、問題はさらに飛び火していった。さて、サージェント氏が明らかにした内容は、次のようなものだ。

  1. 発売時期:同社が電子版の権利を持つすべての刊行物は、印刷本と同時にリリースする。遅らせることはしない。引き続き、積極的に電子化と取組む。消費者の選択肢は大きくなり、迅速確実に手にできるようにする。
  2. 価格:印刷本は「ハードカバー」「ペーパーバック」「マスマーケット・ペーパーバック」の3種類で、$35.00から$5.99ドル。電子版は「大幅にディスカウント」して$14.99~$12.99。New York Times書評版のハードカバー・ベストセラーのタイトルの電子版は$12.99ドルまたはそれ以下。ペーパーバック新刊本の電子版は通常 $6.99~$9.99とする。

つまり、ハードカバー発売から一定期間を置いて安価なペーパーバックを出す、というサイクルを電子版にも反映させるということだ。ペーパーバックを出さないものについての値下げのタイミングはまだ分からないとのこと。「もう$9.99では読めなくなる」という不安に対しては、ほとんどの刊行物はそのまま$9.99以下に据え置かれるとしている。サージェント氏の説明では、新刊ハードカバーの電子版は、同社の昨年のE-Bookビジネスの3分の1であり、既刊本の販売部数は新刊本をはるかに凌いでいるので、多くの刊行物については$9.99以下であるということだ。なお、絵本などについては、電子インクスクリーンを超えた技術を使ったものを考えているため、価格は別途検討しているということだ。

大切なのは読者:この言葉が聞きたかった

問題は複雑で、とても140字などでは説明しきれるものではないので、これからも必要な時には直接見解を明らかにしていく、とサージェント氏は述べている。今回のブログですむ話ではないということも認識したと思われる。今回は、小売問題に絞り、次回にロイヤルティ問題を語るとも述べている。1週間余りで89件のコメントが寄せられており、出版社として答えるべき疑問や提案が少なからず提起されている。自社ブログで問題を「社会化」するのは大賛成で、日本の出版社も見習うことをお勧めする。

「手短に申し上げて、弊社はこれまで行ってきたことを今後も続けていくということです。すなわち、様々な分野の良書を、幅広い価格帯で読者にご提供してまいります。」

メッセージはこういうことだろう。問題は出版社としてこの変革期にどう対処するか、ということであって、変化を遅らせることではない。重要なのは読者との関係であって流通問題ではない。しかし、ほかにもいくつかの重要な情報が含まれている。

  1. 電子版の価格は基本的に2種類となる。“ハードカバーE-Book”と“ペーパーバックE-Book”を出す。「製本」で差がない以上、両者の差が時間的なものなのか、それとも別の付加価値を持たせるかは不明だ。
  2. 子供の「電子絵本」を別途開発中である(としか読めない)。それこそが iPadを主要なターゲットして考えている戦略商品なのだろう。

アマゾンとのトラブルについては、アップルを味方につけた出版社がアマゾンに勝ったなどという、(当事者のすべてにとって)あまりに的外れなコメントが目立っていた。サージェントCEOの表明を素直に受け取るならば、勝ったのは消費者 (読者)だ、ということが分かる。これが一番いい。日本の出版社も早く目を覚ましてほしい。E-Bookの独自の可能性についても、同氏は語っている。iPad で登場するE-Book絵本に期待したい。(鎌田、03/09/2010)

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