Video+BookのVookがメインストリームを窺う
2010年 3月 11日
「わが社はコンテンツをアプリケーションとして製作する。」:英国のペンギングループが iPadブックのデモを公開した。予想通り、ビデオとゲームが大きな役割を果たす子供向けのE-Bookだ。ePub標準は使わない。ジョン・マキンソンCEOによると、それは「叙述的テキストのために開発されたもので、今日ご紹介したようなクールな機能には対応していないからです。」そして「少なくとも当分の間、わが社はコンテンツをアプリケーションとして製作していきます」という。
第1世代BookのiPad 出版ビジネスが始動
ペンギンのデモは以下のビデオで見ることができる。「アプリケーション」という言葉を敢えて使ったのは、この対話型ドキュメントが、紙となった「コンテンツ」そのままではなく、実際にアプリケーションとして開発されていると同時に、これがネイティブE-Bookであり、出版社が中心となって製作するものだ、という自負が感じられる。たしかに、ダイナミックなネイティブE-Bookについては、プロデューサーとしての出版社が一定の著作権を有することになる。価格設定もかなり自由になる。ゲームであれば、シリーズ化して初回を1ドル程度(あるいはタダ)にしたり、様々な付加価値サービスを考えたりすることもできる。でもこれは日本などではゲーム業界への“殴り込み”ととられるかもしれない。ともかく、iPadアプリケーションの時代が始まる。
ビデオブック(v-Book)におけるペンギンのパートナーとなったのは、Vook, Inc.(カリフォルニア州アラメダ)。2008年にWeb起業家のブラッド・インマン (Brad Inman)氏が創業したVook社は、Webアプリケーションとモバイルアプリケーション (iPhone)の2つのフォーマットのv-Bookあるいは製作支援サービスを提供する。パートナーとしては、Filipacchi Publishing (Hachette Filipacchi Media)、Woman’s Day、Simon & Schuster、HarperStudio (HarperCollins)などが紹介されている。これに新たにペンギンが加わったわけである。Vook社は先月には250万ドルを新たに調達したが、積極的なマーケティングに着手しており、セス・ゴディンの “Unleashing the SUPER Ideavirus” やアン・ライスの “The Master of Rampling Gate”のv-Bookを99セント (通常価格$4.99)で販売するなど、思い切った販促に出ている。在来の出版社なら死んでもやらないだろう。しかしこれはゲームなどと同じく二次(三次)著作物と考えた方がいいだろう。Vookは同社のサイトで体験できるし、最高$9.99、最低$0.99で20タイトルあまりなので、全部買っても損はない。
個人的には、v-Bookのゲーム性の強いものを g-Book、クイズに近いのを q-Bookと命名しようと考えている。さらに教科書は t-Book、マニュアルは m-Book、朗読付は a-Book、カタログは c-Book などとし、構造を標準化しておくことが望ましい。E-Bookは普通名詞にして、電子データにしただけのものは d-Book(dはもちろん “dumb”)というのはどうだろう。
v-Bookの“有史以前”
20年ほど前には、CD-ROMが「電子出版」と呼ばれた。ちょうどWindows 3.0が出た頃だったので、動画を使った「マルチメディア」や「ハイパーメディア」に注目が集まった。大手出版社も百科事典を中心に一度は手を出したことがある。技術的に大きな可能性があり、パソコンメーカーも支援しながら普及しなかったのは、コストや標準化の問題もあるが、何よりも編集製作の体制が出来なかったことに尽きると思う。新しいITは、それを利用してアプリケーションを開発する方法論や開発環境が普及して初めて定着するものだが、当時はそんな認識もなく、「ダメ」で終わった。出版社はマンガと雑誌、ビデオ製作会社はテレビで十分儲かっていた。
筆者は米国の会計ソフト会社の Intuit が製作した、税金申告書作成用のインストラクションCD-ROMなどのサンプルを貰って、本をハイパードキュメント化する意味と価値については十分確認していたが、製作費が数十万 (たしか50万)ドルと聞いて失望した記憶がある。10年は無理かな、とも思ったが、それどころではなかった。大企業にとって、敗戦の記憶というものは最低一世代は続くようで、マルチメディア電子出版も同じと言えるかもしれない。提案すら憚られる空気が残り、たとえ障害がなくなっても、“戦中世代”がOKを出さないのだ。21世紀のVideo+Bookは、いわば舗装が終わった無人の公道の上をスイスイと走っていると言えるかもしれない。
しかし、v-Bookは、アイデアを思いつくのは簡単でも、つくるには多くの課題と取組む必要がある。何より著者も編集者もいない。ビデオやゲーム製作のプロデューサーなら出来るが高くつくので頼めない。UIだけならWebデザイナーが設計できるが、情報アーキテクチャ全体となると、やはり出来る人間は少ないだろう。その課題とは、(1) 編集・製作管理、(2) コンテンツ管理、(3) インタラクション設計、(4) 著作権管理、(5)マーケティングなどが含まれる。これらの技術/ノウハウをうまく組込んだ製作ラインを確立したところが、優位に立つだろう。レースはもう始まっている。(鎌田、03/11/2010)
参考記事
That Was Fast! Vooks Go Mainstream, Richard Curtis, E-Reads, 3/9/2010
If They Asked Me, I Could Write a…Vook?, Richard Curtis, E-Reads, 4/6/2009
iPad iMagineering from Penguin Books on Vimeo.








