E-Readerの市場予測が活発になってきた。市場は毎年2倍から3倍に拡大を続けており、たんなる「電子書籍端末」でないことも明らかになってきた。分類にもよるが、いずれ1兆円(100億ドル)を超えるという予測も非現実的とは思われていない。日本の富士キメラ総研という調査会社は今年950万台という数字を出している。しかし、こうした予測は初期市場の数字を反映したもので、E-Bookそのものもダイナミックに変化しつつある。数字に振り回されないような読み方を考えてみたい。((2)に続く)
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「電子書籍端末の出荷台数、5年間で7.6倍に 民間予測 」 日経NET、3/12/2010
「電子化された新聞や雑誌を閲覧する電子書籍端末の世界出荷台数は、2010年に09年比2.9倍の950万台となり、14年には同7.6倍の 2500万台に増える見通しだ。/09年の実績は330万台で、08年と比べても約3倍に増えたという。」
E-Reader市場:広義と狭義
E-Readerの出荷台数の正確な数字は、いまもって不明だ。最大シェアのアマゾンがまだ発表していないためだが、そのため「外挿法」によって推定するしかない。したがって、いくつかの数字が出回ることになる。それ以上に注意しなければならないのは、E-Readerの定義である。定義は調査の目的によって変わる。E-Bookの利用環境全体を知りたいのか、専用電子書籍端末市場を知りたいのかによって違ってくるし、その中間にある iPad のような、メディアビューワを含めるかどうかによっても違ってくる。また、コンテンツとしてのE-Bookにしても、表示だけの静的なものと、対話型の動的なものに分かれ、後者にはアクティブなマニュアルやゲーム+ブックも含まれる。端末側でそうした機能をどれだけサポートするかによって様々な進化系もあり得るだろう。
E-Bookの利用環境に注目すれば、パソコン、ネットブック、スマートフォン、PDA、ゲームコンソールという5つの既存市場に、専用書籍端末とタブレットの2つが加わって「広義のE-Reader」の市場(日本の場合は「専用電子辞書」も)と合計7(8)つのサブセクションに注目しなければならない。パソコンや携帯は別格に数が多いので、E-Bookの利用環境として最も多いとしても不思議ではない。しかし、Kindleが売れて初めてデジタルコンテンツとしての本に世間の注目が集まり、さらに iPad が発表されて初めてアプリケーションとしての本が脚光を浴びたように、専用端末の存在があってはじめてE-Bookが市場として意識されるという事実が重要である。
端末市場より重要なこと:読書行動の変化
専用デバイスの市場が、2009年時点で約300~350万台。年率で100%~200%の成長を続けていることは確実であり、E-Bookのほうはもっと伸びているようで、当面はそれだけを重視すればよいわけだが、やはりどうも気分が良くない、というニーズのために市場推定/予測はある。昨年はForrester社の調査レポートが多く引用されたが、実際の数字はこれを上回って伸びているようだ。これには消費者サイドから探る方法と、供給サイド(例えば電子ペーパーなどの出荷)から探る方法があり、富士キメラ総研がどんな要素、資料をもとに外挿したかはわからないが、たぶん海外のいくつかの推定/予測数字をもとに予測したのだろう。日経の記事の見出しにある「民間予測」というのは、「民間療法」などと同じ語感のようだ。それでも1年前の「景気」の数字を平気で発表する「政府予測」よりはよほど使えるのだが。
米国の出版産業のシンクタンクである BISG (Book Industry Study Group) は、“Consumer Attitudes toward E-Book Reading”というレポーティング・サービスを行っているが、これはその名の通り、E-Bookの観点で見たもので、専用E-Readerもそのなかで位置づけられている。BISGによれば、2009年で米国の13歳以上の「書籍購入者」の2%あまりが行動的なE-Bookユーザー(E-Readerおよび/またはE-Bookを保有)としているが、その中では、パソコンが47%でトップ。続いてKindleが32%、iPhone/iPodTouchが21%となっている。E-Readerの取得が比較的最近であり、それにより読書行動に大きな影響を与えたことが示されている(これは別に紹介したい)。つまり、2%が20%となる日は遠くないということだ。
ただ「端末あたり」何冊売れたかの数字を出していない。しかし、当然ながら専用端末のほうが売れるタイトルが多い、ということは指摘されているし、出版サイドから見たマインドシェアは、平板な市場データでは読めない。PCが強いのは科学・技術系のE-Bookで、ライティングに関連して最もアクティブに情報を使うユーザーは、PCという環境がなおベターということだ。
そして中国
市場予測でとくに注目しなくてはならないのは中国だ。すでに数社がE-Readerを販売しており、E-Bookの数も100万冊を超えている。中国政府、通信企業も戦略的に力を入れており、世界最大のE-Reader保有国になったとしても何の不思議もない。紙の供給という資源制約があり、情報ニーズに対して印刷本が追いつかないためだ。教科書の電子化もかなり急速に進むだろう。だから中国を無視しては世界市場予測が成り立たない。2014年に2,500万台といった数字も、明らかに中国をカウントしていないので1年以内に無意味になるだろう。中国だけで5年後に3,000万台。新聞や教科書、公文書などは原則電子化ということになっても不思議ではない。
もちろん、中国ではE-Bookが主にPCで使われる可能性もなくはないが、筆者はむしろ専用モバイル端末としてのE-Readerのメリットを政府として評価しないはずはない、とみている。つまり、(1) 製造業のバリューチェーンの形成という産業政策的意味、(2) 省電力という資源・エネルギー政策的意味、(3) 出版物管理という文化政策的意味からみて、専用端末に分があるからだ。台湾政府もE-Reader関連メーカーへの支援を行っているが、産業的な意味だけでなく、文化的影響力を警戒してのことかもしれない。
なんとも困るのは日本。海外メーカーが日本語対応してくるので、ユーザーとして実用上の不利はあまりないと思うが、日本にメーカーがなければ周辺技術の発達も遅れる。デバイスを扱った経験のないアマゾンも成功したくらいで、E-Readerの参入障壁は非常に低い。しかも日本語ワープロのような運命をたどりそうな「専用電子辞書」をかかえてもいる。電子ペーパーや同製品を製造しているところはわずかだが、すでに元の特許は切れているので、独自の改良を盛り込む余地も大きい。タブレットでもいい。今年はじつに50種以上のタブレットが登場すると言われている。iPad 対抗製品を出して気を吐いているNotion Ink社はインドのハイデラバードのベンチャー企業だ。「意地でも出さない!」ような頑なな姿勢は、PC/AT互換機を無視し続けたパソコンを思わせるものがある。だが当時と今では日本の置かれた立場は一変している。(鎌田、03/13/2010)
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