「メタ」が出版を救う:青空文庫が注記ルール公開

知識情報の基本的価値はコンテンツだが、その価値(つまり時価)はコンテクスト(5W1H)で決まる。コンテクストはメタデータメタモデルによって把握・応用することができる。計測し、分析し、評価して金銭価値に変えるのだ。Googleが発見し、実現したこの方法は、広告のみならず出版業界にも応用することができる。ボランティアで運営する青空文庫は、コンピュータで処理可能な本のメタデータの一部を、おそらく初めて公開した。出版の未来はこうしたメタデータにある。

「これまで、青空文庫で作ってきた電子書籍のファイルが社会の共有資源と思っていたが、注記ルールも青空文庫の成果の一つになりつつあることに気付いた。注記ルールを体系的にはっきり示せば、青空文庫リーダーの開発者も注記ルールに忠実に従って表示できるし、電子書籍を作りたい人も青空文庫のフォーマットを生かせる。」(青空文庫・富田倫生氏)(日経パソコン・オンライン 4/6/2010

メタデータこそ知識情報社会のインフラ。使えるメタデータが出版社を救う

これはすばらしい発見だと思う。世間は電子化された「コンテンツ」がそのままで価値を持つと信じているが、コンテンツに価値を持たせるのは「コンテクスト」であり、それをコントロールする手段が「メタデータ」であり、それを構造化した「メタモデル」なのだ。コンテンツの創作が簡単ではないように、メタ情報も簡単には生まれない。本を扱う多種多様なメタ情報は(方程式、化学式のように)意味がわからない人には何の価値もないが、それによって情報を効果的に扱うことができる。これまで編集者はメタ情報を扱う知識を持ちながら、それを外部化して制御する手段をほとんど持たなかった。それはあるジャンルの本を編集した経験や、読まれ、使われた実績の上に生まれるものだが、経験のある編集者の頭の中から出ることはなかったのである。「注記ルール」は代表的なメタ情報の一つだ。これまで、図書館では本の整理のため、印刷業界では組版のためにだけ本のメタデータが使われてきたが、りっぱに商業的価値があるのだ。とくに「注釈ルール」は意味的情報のコントロールで重要な意味を持つことに目を向けるべきだろう。

電子コンテンツの時代にメタ情報が重要なのは、知識情報としての本が膨大なライブラリとして提供され、それが人々の読書体験や情報活動と(デジタルの世界で直接・間接に)結びつく、これからの時代に、メタ情報がその結びつきの結節点となるからだ。本に収められている知識情報には、もちろんシェークスピアから石原慎太郎まで、あるいはアダム・スミスから鎌田博樹まで(?)さまざまなグレードがあるが、公刊されたことで社会的に共有されたことが重要だ。共有されることで、本や新聞、雑誌記事、論文、企画書、パンフレットのようなプロの手になるものから、ブログ、Twitter、日記やラブレターまでの個人的な書きものまで、あらゆる「ドキュメント」に結びつき、それは日々再生産される。

それが何になるか? Googleやアマゾンはすでに、このメタ情報を組込んだ巨大なコンピュータを使ってネット上の情報を精製して商売にしている。彼らは「Aに関心を持つ人間はXの情報を必要とする」という知識を持っているが、それはメタデータによって得られたものだ。出版社は(あえて愚かにも、と言わせてもらう)かなり高度な知識情報を扱う知恵を持ちながら、それを外部化し、マーケティングに生かすことに無関心で、そのために「書店(アマゾン)」や「広告会社(Google)」に脅威を感じるまでになり下がっている。日本人が「メタ」に弱いのは、哲学と数学とゲームを軽視した教育のせいだが、それを正すのも出版しかない。

出版社にとってもこの「メタ情報の外部化」は、読者にとって本を読みやすくする編集作業以外の目的に使用することができる。マーケティング(人材発掘、市場創造)とユーザー体験(読者コミュニケーション)に応用できるのだ。出版社が「中抜き」されないためにはこれを使うしかない。出版社は著者ではないのだから(いくら恩を売ったつもりでいても)出来あがった(過去の)著作物に権利を主張していても醜いだけだ。人間を商品化する芸能界のようになりたいのでなければ、出版社にとっての知的資産とは何かに気づくべきだろう。

日経新聞の「iPadがやってくる」特集の連載記事(4月6日)を読むと、相変わらず出版界の関心が「中抜き」阻止にあるようだ。3月24日の電書協の設立パーティでは、内藤総務副大臣が「このまま手をこまぬいていれば(アマゾンとアップルという)2強によって日本の書籍文化は席巻される。資本の大きさにかかわらず電子書籍市場に参画できるインフラをつくらないと」と「危機感をあらわにした」そうだが、そんなに心配なら青空文庫にせめて10億円くらい出した方がいいと思う。出版のインフラというのは、コンピュータでもライブラリでもなく、メタデータであり、青空文庫は、実績に裏付けられた本のメタ情報というデジタル時代の知的資産を無償で公開したのだから。(鎌田、04・07・2010)

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