E-Bノート(10):マーケティングとビジネスモデル

フォーマットを考える際には、もちろんビジネスの観点が欠かせない。フォーマットが重要なのは本の形式(機能)と同時に、本をめぐるビジネスモデルと密接な関係を持つためだ。前回ご説明した3類型に対応し、情報化を最大化するコンテクストを操作するXMLメタデータとその扱いこそが、ビジネスにとってのフォーマットであり、それはますます進化していく。出版業はこれまで実質的に B-to-B の世界に閉じてきた。デジタルコンテンツの世界では、閉じこもれば第一次産業の生産者となるほかない。

E-Bookとビジネスの3類型

XMLによる疎結合型が、これからのデジタル出版およびビジネスの基本となる、とした前回の提起は、すこし唐突かもしれないので図にしてみた。

E-Bookの3類型静的ドキュメントは、現在の主流であり、多くの人はこれがE-Bookだと考えている。構造が明示的でない小説や、原型が重要な意味を持つ古典などは、将来ともにこの形で読まれるだろう。しかし、実用的なものや様々な情報源に依拠したもの、必要に応じて記述を更新したいものなどは、動的・連携的ドキュメントに移行するだろう。出版には情報サービスやアプリケーション開発の要素が含まれるようになる。これを発展させたものが、Webサイトのような、多種多様なコンテンツを管理し、ユーザーのニーズに応じてダイナミックに情報を構成して提供するシステムドキュメントは、サービスプロセスを統合したものだ。これはすべてのタイプを統合し、かつ必要なコンテクストを管理する。Britannicaのオンライン版などがそうだ。

E-Bookビジネスの3類型:E-Bookの3タイプは、それに対応したビジネスモデルを発展させる。静的なE-Bookの製作・販売は、従来と異なることがあまりないが、読者への直販比率は大きくなるだろう。出版ビジネスはこれまでほとんどB-toBであったが、読者を顧客と考える必要が出てくる。他方でこれは付加価値が少ないので「中抜き」されやすい。重版を経てきた定番的な書籍ほど狙われやすいので、出版社は電子化版権を確保しておかないと貴重な収入源を失うことになる。

第2世代ともいえる動的・連携的なE-Bookは、軽量アプリケーション、あるいは一種の情報サービスであり、商品やサービスの構成、料金設定は、必然的に従来の本の価格モデルから離れることになるだろう。本格的なB-to-Cモデルを確立できない場合は、他社のプラットフォームにコンテンツを提供する形になる可能性が強い。資本と技術力に乏しい出版社が囲い込まれる傾向も生まれるかもしれない。あるいは、特定分野での強味を発揮して、著者と読者との関係を緊密に保ちながら生き残るだろう。

コンテンツ配信プラットフォームは、ビジネスモデルとしてはコンテンツのメタデータと顧客データを組合せて、「最適化」された読書体験を提案するものとなる。「コンテンツアグリゲーション」であるが、競争を勝ち抜くには、コンテンツの量とコンテクスト解析の能力にかかってくる。しかし大は小を兼ねるとは限らないから、市場(ビジネス、教育、官公庁、研究開発)や分野(歴史、地理、芸術、スポーツ)にフォーカスした書店、あるいは書店型出版社が成り立つ可能性は十分にある。

メタデータの戦略的重要性

以上述べたタイプによって、中心的なフォーマットは異なる。第1世代の静的E-Bookの場合は、EPUBとPDFがデファクト・スタンダードとなるだろう。つまり文字組みを中心とした表示に関することが中心的関心事でよい。しかし、第2世代の動的・連携的E-Bookの場合は、そう単純ではない。文書内部、文書間のリンク、文書内のボタンと起動するサービスやアプリケーション、扱う「知識」の記述方法には、様々なフォーマットがあり得るし、ツールやユーザーに依存することもある。連携させる上で、メタデータが重要になるが、XMLで記述したとしても、意味するものは必ずしも同じではない。

これは、メタデータを資源として成り立つコンテンツ配信プラットフォームで最も複雑な形をとるが、コンテンツ提供者やユーザーは、一見むしろ何も考える必要がない。プラットフォーム側がビジネスインテリジェンスを駆使して独自の付加価値を開発するからだ。しかし、検索エンジンの場合のように、コンテンツ提供者もユーザーもプラットフォームに依存することになることは言うまでもない。強大なプラットフォームに支配されないためには、外部サービスを利用しつつも依存はせず、内部にインテリジェンスを蓄積・利用するしくみをつくる以外にない。

以上のように、フォーマットは表現的、技術的な意味のほかに、ビジネス的、戦略的な意味を持っている。ニッチを設定してそこを守るにしても、アグリゲーション・ビジネスに乗り出すにしても、多様なフォーマットを使いこなすことが付加価値を高め、またそれを守る上で重要となっている。日本語の文字組みの問題は、改善へのピッチを速めると思われる。出版社としてより重要なことは、具体的には

1) トランスメディア・ストーリーテリングに関連したフォーマット
2) アクセス、読者(顧客)プロファイルに関連したフォーマット
について研究し、対応方針を決めておくことであろう。

標準は不完全であり、だから成長する

最後に、フォーマットと切り離せない「標準」についての考え方を述べておきたい。情報技術において標準は、以下のような性格を持っている。

  • 機能/サービスを実現するための共通のインタフェース
  • 多様な実装が競争→連携機能を持つ強力な環境に吸引
  • コンプライアンスとそのサポートレベルは自由
  • 実現すべき機能がある限り、標準は成長し続ける

標準がビジネスに必要な機能をすべて満足させるならば、そのビジネスは付加価値の生ずる余地がないことを意味する。実際にはそんなことはめったにない。標準は不十分で不完全であり、その分だけ独自のツールや手作業の余地が残るわけだ。上の図は、機能や品質を縦軸に、実現するためのコストを横軸にとって関係を模式化したものだ。標準は多くの機能を吸収し、コストを下げるが、より高度な自動化ツールやプロの技能の必要は残り、そこに付加価値が形成され、標準の拡張を促す。(鎌田、04/28/2010)

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