E-Bookにとって標準とは (1):意味と展開

日本電子出版協会(JEPA)は4月7日、東京・神田で「EPUB説明会」を開催し、昨年秋からメンバーとなっているIDPFに提出する「日本語要求仕様案」の概要と実装、応用例を紹介した。この種のイベントとしてはかなり密度が濃い内容で、今後の日本でのEPUBというよりはE-Bookの展開にとって重要な意味を持つものなので、今日から数回に分けて紹介し、コメントしていきたい。発表資料はこちらで公開されているので、関心のある方はぜひ読んでおかれることをお勧めする。

純正Web系E-Bookフォーマットの利点:CMSの連携

JEPAのEPUB日本語要求仕様の説明会はじつに約250の参加を得て、会場は満席となった。参加者は出版、印刷、IT関係とかなり多彩で、たしかに「E-Book元年」を実感させるものだ。2,3ヵ月前でも(この渋いテーマに)これほど人は集まらなかったろう。国際的にみても、EPUBへの関心が急激に高まったのは、今年の1月以降のことらしい。しかし、一躍脚光を浴びたといっても、EPUBそのものは新技術でも何でもなく、裏も表もない。逆にどんな内容になるのかがが注目された。

EPUBは国際デジタルパブリッシングフォーラム (IDPF)が策定しているE-Bookフォーマット仕様で、この世界では最も普及している標準である(IDPFを「米国」の標準化団体として紹介するのは間違い。れっきとした「国際」団体で、JEPAもメンバーだ)。これはサポートしているベンダーの数でみたもので、E-Bookのほうからみると アマゾン Kindleの独自フォーマットであるAZWがまだ圧倒的に多い。AZWは、モバイルリーダ用の PalmDOCに由来するMOBIDRMを付けたものだ。ただEPUBとAZWの違いもたいしたものではなく、IDPFの交換形式であるOpen eBookを経由してEPUBとも通じる。出版社として両方に対応することで生ずるオーバーヘッドは比較的小さい。もちろん、ユーザーとしては別仕様のE-Bookでは読めないので不便はある(これを針小棒大に言うのは、誤解か故意なので気をつけましょう)。

標準がいいのは、なんといっても関連製品やサービスが展開しやすくなり、競争によって技術が進化し、市場を拡大させることだ。オープンな技術仕様としての標準は、機能に交換性を持たせるためのものなので、仕様にない独自機能を追加することも、逆に仕様にあっても省略することも自由だ。EPUBのいいところは、それがWebの標準であるXHTMLCSSなどに基づいていることだ。Webサイトとコンテンツ管理 (CMS)を連携させることができるし、Web技術者が使いやすく、ツールのサポートも得やすい。それが使う側でみたEPUBの最大のメリットといえる(逆にデメリットもある)。Webで出来ることはほぼ何でもできるが、Webでできないことはできないか、あるいはやりにくい。「ページ」という絶対的空間を予め規定しないので、スクリーンの仕様に柔軟に対応するが、コンテンツによってはデザイン的に崩れてしまう。コンテンツによっては慎重な取り扱いが必要となる。

これからの出版の方向を考えた場合に、Webサーバやイントラネット/インターネットをコントロールセンターとし、Webと印刷本とE-BookのためのCMSをを連携させ、並行して出していく使い方が考えられる。読者とのコミュニケーションをWeb(ブログやTwitter)で確保しながら、電子版の更新、印刷本の改訂、関連企画の立上げを行うわけだ。これは例えばわれわれのテーマである「E-Book」などの出版を進める上では不可欠だと思うが、様々な応用が可能となるだろう。とくに情報の陳腐化が生じやすい本では、そうすることで読者を維持拡大できるし、著者とのつながりも維持される。EPUBはコンテンツのフォーマット標準だが、これをコンテンツ管理に使うことで、そこから(出版社にとっての最大の資産である)著者、読者、関連情報のコンテクストの管理(リンクの更新)に展開するベースとなる。

自動車が走るのに左右で優劣はないが、ルールがあることで自動車や道路のつくり方が決まってくる。標準じたいはつまらないものかもしれないが、ビジネスにおいては決定的に重要なのである。そうした意味で、EPUBは今後も長く付き合っていく重要な標準となるだろう。EPUBじたいはすでに国際標準で、日本語の文字を問題なく表示できる。十分実用に使えると言ってもいい。ただ、それが日本市場にとってどれだけ有効になるかは、これからご紹介する日本語標準仕様に関わってくる。(鎌田、04/08/2010)

参考情報

「日本が電子書籍の波に乗るために――JEPAがEPUB日本語要求仕様案を説明」、IT Media、4/8/2010

「日本電子出版協会、日本語電子書籍向け『EPUB日本語要求仕様案』を公開」、マイコミジャーナル、4/1/2010

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