出版の復権(2):SNSソーシャルマーケティング

前回は、出版の「脱工業化」という抽象的な言葉で方向性を定義したが、今回から内容に入る。しかし、Webマーケティングの先進国、米国では多くの方法論が発表され、ビジネスも動いている。今年1月に開催された Digital Book Worldでは、SNSを使ったソーシャル・マーケティングのコンサルタント、シヴ・シン 氏(Shiv Singh)が基調講演を行った。デジタル時代に出版社が読者を繫ぎとめておく必要性とそのための5つのアイデアを述べたものだが、引用される機会も多いのでご紹介しておきたい。

シン氏は、RazorfishのSVPでGoing Social NowというSNS専門サイトを主宰する著名なコンサルタントで、類書中でも評価の高い、Social Media Marketing For Dummies (Wiley)の著者でもある。多くの有力企業を顧客に持つ同氏からみると、21世紀のコミュニケーション革命から取り残された出版社はまさに「崖っぷち」に立っている存在に映るようだ。まず、公表されているスライドをもとにかなり長めの要約をしてみることにする。

最初にお断りしておくが、社会的問題の解決を志向する「ソーシャル・マーケティング」とTwitterなど、SNSを使った「ソーシャルメディア・マーケティング」とは、同じく「社会」を意識していてもベクトルは異なる。しかし、知識情報の社会化という出版業のミッションが本質的に「ソーシャル・マーケティング」を必要とするものであり、それを有効に展開できる手段がSNSであることから、本記事の中では「SNSメディアを使ったソーシャルマーケティング」を出版社に適用する意味で使用する。日本においても出版社の創業者たちは、まさに「ソーシャル・マーケティング」を実践し、礎を築いてきた。出版の復権は、Webの力を利用して、本来の役割を現代に蘇らせることでしかあり得ないと信じている。

1. 従来のバリュー・チェーンは解体しつつある。コンシューマブランドを構築せよ。

出版社はかつてほど著者から必要とされていない。彼らは直接読者と結びつき、独自のブランドを構築できるし、現にそうしている。Gary Vaynerchuck(ベラルーシ出身の青年起業家)は、Twitterで有名になり、数百万ドルの出版契約を手にした。彼らがSNSでファンを獲得してからでは遅い。著者が読者を見つけるより前に、出版社が著者を見つけなくてはならない。そればかりではない。読者さえも著者に直接コンタクトできる。人気著者のFBやブログを見よ。本を読んでいる読者は、インターネットで著者についての情報を得ている。たいていの著者はFBでファン・ページを解説し、読者を繋ぎとめている。こうしたことは、出版社のサイトやFBページでもできる。

小売業者も同様である。彼らも読者とのコネクションを強化し、ますます多くの読者のより深い情報を蓄積している。KindleやiPadとは、競合しても協力してもいいが、すでに流通全体が、出版社よりも急速にデジタル化しつつあること、読者も知らず知らずのうちに彼らにより多くの情報を提供し、その影響下にあることを忘れてはならない。読者情報の中には、読書履歴(彼らはあなたがいま何を読んでいるかまで知っている)ソーシャルメディア・データ(誰の書評が購入に結びついたかなど)が含まれる。要するに、出版社は自らの運命を他人に委ねてしまっている。著者、書店、読者の関係がますます密接になっているからだ。

だからこそ、出版社はコンシューマ・ブランドとなる以外に生き残る道はないが、それは「企業」が主体となった古典的なブランド・マーケティングとは異なる。企業に関わる個人が前面に出て個人の読者と対話する環境(ソーシャル・ボイス)の中から「ソーシャルブランド」として発展する。それはマーケティング担当者ではなく、全員参加型の24時間/365日不休のコミュニケーションの体制で支えられる。著者個人では対応しきれない規模の対話を実現することで、コミュニケーションのノードとしての競争に勝つことができる。(鎌田、05/11/2010)

http://www.goingsocialnow.com/bio.html
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