E-Readerの価格戦争 (1):次の主役は出版社

KindleやNookを中心に、E-Readerの低価格化が始まった。これは「値崩れ」ではなく米国における市場の量的→質的変化を示すものだ。E-Readerの主流はガジェット市場から外れて実用的な「読書端末」になり、ユニークなバリエーションが生まれる。しかし、ハード側の多様化に目を見張るより前に、端末が低価格化がコンテンツビジネスに質的変化をもたらすことを重視すべきだろう。周回遅れにされた日本は、この変化に注目することでむしろ遅れを短縮できるかも知れない。

E-Book市場の第2段階:「普通人」マーケットへの登場

B&NはNookの3G版を199ドルに値下げし、Wi-Fi版を149ドルで発売した。アマゾンもKindle 2を189ドルに値下げした。4月時点でNookのWi-Fi版は199ドルになると予想されていたので、B&Nは値下げのペースを速め、幅を広げたことになる。B&NのリンチCEOは1年以内に100ドルまで下がると予測している。単純に考えて今回の専用モノクロリーダの値下げは、中国製の低価格機に押されてというよりは、80日間で300万台に達したiPadに押された可能性が高い。400ドル台のカラー液晶多機能タブレットに対して、200ドル台の白黒電子ペーパー端末の魅力は薄れたということだろう。

しかし、別の見方もできる。200ドル後半の専用リーダは、初期の有力市場であった高学歴・都市近郊・高所得の読書家層への普及が一巡したことで成長力が落ちていた。アマゾンやB&Nは「マス」マーケットに目を向け始めたということだ。一般市場は流行に敏感な若者と価格に敏感な成年層を含む、多種多様で難しいマーケットだが、それが主戦場であり、価格や読書体験、デザイン性など、ターゲットごとに柔軟できめ細かい対応が不可欠となる。アップルにしてもiPadの第一段階の成功はホームグラウンドでのもので、その外側にどれだけ広げられるかという段階に入っていると思われる。

アマゾンもB&Nも、「普通人」マーケットへの参入条件が徹底した低価格であることは認識している。専用E-Readerは、ガジェットとしては弱い。現在市場で入手可能なE-Bookのほとんどは、印刷本の電子化であって「読む」以外の機能はWebのサービスとして提供されるしかない。「安い本」「入手可能な絶版本」として以上の価値(重さと嵩をとらない)を重視するのはやや富裕な層しかない。専用E-Readerはもはやガジェットではなく、安い本を手軽に読むための実用品となったわけだ。100ドル以下の端末は景品としても、ジレットの安全剃刀のようにも使われることになるだろうし、一人が数台のE-Readerを使い分けるのもふつうになる(日本の電子辞書市場は従来の形では存続不可能になる)。

仮にE-Bookが印刷本の半額とすると、年間300ドルほど本を購入する人にとっては、150ドルの端末なら十分に引き合う。200ドル台後半なら500ドルほど購入しないと元が取れない。つまり多くの米国人にとって、150ドルなら合理的な選択となる。100ドルなら選択の余地がないほどだ。本は「教養・娯楽」費に分類されることが多いが、音楽や観劇と違って本には自己啓発としての投資的側面があり、すでに多くの古典や多くの実用書を含む著作権切れ本が無料で読めることを考えると、150ドルの投資は平均的アメリカ人にとってよい投資にもなる。

E-Book主導で急成長する出版業界の競争は激化する

E-Readerの低価格化はB&Nやアマゾンが主導して進行しているが、出版社にとっての影響は大きい。E-Book市場は年300%あまりと爆発的な成長を続けているが、低価格端末はユーザーベースを拡大するから、出版社にとっては、急成長するE-Book市場でのシェアが気になってくる。シェアを拡大するためには、マーケティングと柔軟な戦略が条件となるが、配信プラットフォームに頼らないで読者にアクセスする方法と仕組みを早急に確立しなければ、出版社の相対的な地位は、市場の拡大とともに低下するだろう。工学的プロセスを伴うWebマーケティングは、米国の出版社にとっても未経験な領域である。内部の人材では追いつかず、他業種からヘッドハンティングで集めることになるだろう。

これまでのE-Book市場はアマゾンなど配信プラットフォーム主導であったが、これからは出版社も主体的に参加することになり、同業間の買収が活発化するだろう。出版社は、出来た本を効果的に売る(アマゾンやアップルの)配信プラットフォームに対して、売れる本をつくり、さらに市場を連続的に拡大させるプロアクティブなソーシャルネットワーキング・プラットフォームを必要としている。読者コミュニティの規模や性格にもよるが、大出版社はより強力なプラットフォームを必要とする。流通に対する出版側の抵抗が目立った局面は終わり、出版社間の競争は激化するだろう。

ゲームや音楽、映画と異なり、本の「用途」は多様である。人間の知的活動のすべてに結びついており、ビジネスや教育、研究開発などと融合してもいる。他のコンテンツと違って、知識産業として社会の生産性を高め、経済成長を先導することができる。印刷と物流から自由になり、オンラインで消費者と結びつくことで、出版にはいくらでも成長できる余地が生まれているが、そのためにはマーケティングのプラットフォームを構築しなければならない。他業界からの買収も起こるだろう。(鎌田、06/25/2010)

参考記事

In Price War, E-Readers Go Below $200, By Brad Stone, NYTimes, 06/21/2010

King Gillette and the Kindle, by Richard Curtis, E-Reads, 11/20/2010

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