CMS+IA (3):出版社が儲かる秘策!?

システムをデザインするには、要求を定義する必要がある。コンテンツとユーザーとの関係を最適化するCMS+IAという技術は、もちろんWebの世界で発展したもので、出版社のものとするには、様々なレベルの要求や過去の成功体験を可視化してデザインに反映させなければ進まない。清水さんからの要望は当然なのだが、いかんせん大方の出版社はマーケティングとITから限りなく遠いところにいた。「そこをなんとか」という訳のわからない日本的世界になってきそうだが、そうならないようなんとかしたい。(この対論シリーズは6月22日に開催予定の第4回研究講座の準備のためのものを公開しています。)

清水様

打てば響くというか、こちらの漠然としたお願いを、じつに明快に整理していただきました。

さて、「出版社がこれまでコンテンツ・コンテクスト・読者からどのような 意味を読み取り、創造性と品質を高め、読者とのコミュニケーションをレベルアップしてきたのか、について具体的に知りたい」とのことですが、これはラクダが針の穴をくぐるような難題です。出版におけるベストプラクティスは、ほとんどが暗黙知の領域にあり、基本的には部外者に理解されるように一般化、客観化することが不可能あるいは不要と考えられてきました。文章のスタイルや編集・印刷技術についてはかなりルール化されていますが、読者とのことに関しては、名簿管理を基本とする一部の出版社を除いて視野の外でしょう。ノウハウはあっても外には出ないと思います。

私も過去に何度か、様々な立場で出版社の仕事に関わり、お世話になり、また現在は芥子粒のような「出版社」の端くれとして、この問題にはつねに多大の関心がありますが、私自身はもとより、明快な答をいただけそうな方すら知りません。ご質問のよいよい答をひき続き探すとして、ここではとりあえず以下の事情(言い訳)をご理解いただきたいと思います。(鎌田拝)

出版社のビジネスの特性

第1に、出版社に限らないことですが、日本の会社は「ものづくり」志向が強く、そこでは経営理論で言うバリュープロセスや管理手法などに頼らなくても「よい商品」をつくる自信と技量(と稀にセンス)を持った人が働いていました。「よき時代」には、結果はあとからついてくるもので、いちいちプロセスを詮索する必要などなかった(と思われていた)のでしょう。マーケティング志向は「ものづくり」文化では嫌われるものです。いま日本の産業全体がそのツケを払わされていますが。

第2に、出版プロジェクトは、とても成功率の低いものですが、成功したら素直に驚喜し、失敗したらさっさと(いずれも痛飲して)忘れ、次の企画に移る、というのが私の知る限り関係者のスタイルで、反省はサルに、分析は取次に任せていい、という豪胆な編集者もいました。それに分析の元になるのは、POS データくらいしかないし、その読み方を知る人は営業に僅かしかいないので、企画にフィードバックされることが少ない。「読書カード」葉書というのもありますが、活用はあまりされていないでしょう。

第3に、そのことに関連しますが、出版プロジェクトでは(とりあえず元を取るということ以外に)目標が設定されることがあまりなく、商品である本に関しても、販売に関しても具体的・明示的な目標はないと思います。まして読者との長期的な関係について考える習慣も、個々の編集者だけが持っていたと思います。教師が生徒を、医者が患者を、なかなか「顧客」とは思わないように、編集者は読者を顧客とも消費者とも考えていないと思います。そう考える人間は編集者になどならなかったのかもしれません。

これまで出版社には、制作については印刷会社、販売に関しては取次と書店、広告には代理店という絶対の(ほとんど運命共同体的な)パートナーがいました。出版のバリュープロセスを管理するという発想が育たなかったのは、当然だと思います。マーケティングや経営革新の本を沢山出している割には、自分の問題として読んだことがない出版社がE-Bookを嫌がるのも、紙を前提に付き合ってきたパートナーが動いてくれないので、何をどう考えていいか、やるべきなのか整理がつかないためでしょう。私にしても、Webサイトを自分でやるはめになって、はじめて意識的に取組もうという気になったようなものです。

出版社にもできるプラットフォームの構築と運用法

Web(とくにeコマース)の世界は、ユーザーとコンピュータが提供するサービスが完全にワンストップでつながっている点に特徴があります。ここではユーザーの動きを分析することが可能で、情報の見せ方からサービス、UI、商品の中身や品揃えの改善までがほとんどシステムの中で完結しています。Webァナリティクスというのは比較的新しい方法論ですが、Web系企業では常識化しているのに対して、プロセスがワンストップとはいかない業界では、出版社と大同小異ではないかと思います。問題は、このように古き良き時代を引き摺ったビジネスが、デジタルコンテンツの販売という事業に乗り出そうとしいることです。もちろん、直接的にはアマゾンやアップルがすべてお膳立てを整えて「上陸」(というのも変ですが)したためです。

アマゾンやアップル、Googleの強味は、Webマーケティングにあり、世界最高峰の人材を有しています。Web上のコンテンツ配信プラットフォームとデバイスという、かなりクローズドな環境を持っており、そこで日本のコンテンツを扱いたいと申し出ている状況です。江戸の「版元」の伝統を引き継ぐ日本の出版社にとって、彼らに全部預けてしまえばコトは簡単かもしれないし、それなりに儲けさせてくれる可能性もあります。しかし彼らの目的は「消費者」とのダイレクトな関係にあり、その結果として(とくにプラットフォームに広告バイヤスがかかることによる)出版社の社会的機能(活字コミュニケーションの主宰者)の低下、空洞化につながることが懸念されていますし、私も同じです。これ以上出版がテレビのようになってほしくはない。だからこそ、CMS+IAを出版のプラットフォームと位置づけたわけですが、ハードルがあまり高いと手が出なくなります。マーケティングとデジタルに弱い出版社にもできる自前のプラットフォームの構想をお手伝いいただきたい、と凄いことをお願いしているしだいです。

ゴールとしては(思わず欲を言ってしまいますが)、Webを使って、

  • 出版社が儲けられるような持続可能なサイクルを構築する方法(CMS+IA)
  • 読者からのフィードバックを実り多いものとするコミュニケーションのデザイン
  • 最小のコストとスキルで(かなりの部分)手づくりする方法
  • Webプラットフォームと賢く付き合う方法(何を要求するか)
  • 出版社をサポートするオープンなサービスの可能性

を提示したい、ということになります。誠に勝手なお願いで恐縮です。私のほうは(あまり一般化は出来ませんが)、数日いただいて、出版社のコミュニケーションの形をイメージしてみたいと思います。

(06/08/2010)

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