シナプティックWeb(上):データより結合パターン

Web技術は進化を続けているが、最近は検索エンジンのような“旧世代技術”に替わって、バイオメカニズムや神経科学など、現実世界の最も複雑な超システムをモデルとして、Webを舞台とした人々の活動の意味を読み取り、そこから得られるパターンをもとに、様々な(商業的、非商業的)価値と実現機会をデザインするというアプローチが主流となりつつある。ここでご紹介する Synaptic Web はその名の通り神経科学に由来するが、本サイトがコメントシステムに採用しているECHOというツールを開発したクリス・ルー氏らが提唱している。ここに訳出したのはコンセプトを解説した論文の前半部分。ともあれご一読いただきたい。

シナプティックWeb:リアルタイムコミュニケーションの海をナビゲートする

著:クリス・ルー、エリック・ブランツ、クリス・サードそして読者

はじめに

インターネットはたえず進化している。スピード、柔軟性、接続の複雑性が指数関数的に増加するにつれて、Webはしだいに生物、とくに人間の脳に近似し始めた。では、いったい何がわれわれを、そしてWebを賢くするのだろう。

脳において、知性の根本にあるものは、ニューロン (神経細胞)だけではなく、ニューロン間の結合の密度と柔軟性であると今日の神経学者は考えている。化学物質が媒介するこれらの結合は「シナプス」と呼ばれる。

脳細胞、ニューロンの総数は成年に達すると減少を始めるが、ニューロン間や脳の様々な部分の間に新しい結合を生成する能力、神経学者が可塑性と呼ぶ能力は、生涯を通じて維持されている。そればかりか、筋肉繊維と同じように、脳の可塑性も訓練によって高めることができるのである。

ニューロンとニューロンの間の「隙間」のシナプスにおいて、ニューロン結合は完成し経路がつくられるが、使用されるたびに新しい結合が生まれて強化され、使用されなければ「摘梢」されて別の有用な経路を優先させる。コミュニケーションのパターンを規定するのは、この信じられないほど精妙な化学物質の架け橋であり、それがどんな時でも、人間の認知能力を規定するのだ。

われわれには、神経科学の最新理論が示すこうした見方が、対象の間の結びつきが対象自体より重要となるという意味で、われわれが「シナプティックWeb」と呼ぶWebの新段階を語る上で適切なメタファーとなるものと考えている。問題は、これらの結合が変化して新しい体験を生み出す仕組みであり、別の言い方をすれば、立ち止まってノードを眺めるのではなく、ノード間の空間で起きていることに注目してみるべきではないかということだ。

人、データセット、アプリケーション、実世界とオンライン世界、ジェスチャと意味、コンテンツとコミュニケーション―など、様々なオブジェクトの間で、電子的な結合の多様性と速度、柔軟性は爆発的な勢いで多様化し、高速化し、自在に形を変えている。これらは進化する「集合知 (collective intelligence)」呼ばれるものの根源にある。シナプティックWebというのは、このようにドキュメント配信プラットフォームからコミュニケーション(つまり「2.0」的)に進化し、さらにより深い意味を持ったものへと進化を続けるインターネットについて使おうと思う。適応的な「器官」と暗黙の結合がつくりだすダイナミックな連絡網であり、そこではリアルタイムな情報の流れが、それまで結合していなかったデータのセットに対して構造と意味を与える。インターネットは結合を通じて交わされる会話の海となり、それらのパターンが意味を持つのである。

シナプティックWebの出現の徴候

以前はリンクという形で目的のサイトとの緩い結合を維持してきたが、いまでは多様性に富み、深い意味を捉えることができるウィジェットという軽量な機能部品を組込むことで、無数のサイトとサービスの間を繋いでいる。「サイト」は個々のニューロンのように、外部からの刺激に反応し、また自己自身が「摘梢」されないように、外部のデータソースやアプリケーションとの結合を最大化する必要に迫られている。

ソーシャルネットワークについてもこれと同じことがあてはまる。かつて堅固に聳えていたこのコミュニケーションのサイロは、いまではインターネットの繊維とますます深く結びついている。最終的には、人々の間の結合(「ソーシャルグラフ」)や彼らのソーシャルオブジェクト(画像、プロファイル、リンク、グループ)だけが重視されるようになるだろう。こうした結合は、われわれが訪れるどのサイトにおいても形成されており、ますますユーザー体験の本質的な要素となりつつある。プライベートなソーシャルネットワークはもちろんこれからも続くが、誰と、何について、いつ、どこでつながりを持つかは、プラットフォームではなく個々のユーザーが判断することである。

APML (Attention Profiling Markup Language)の概念図

ソーシャルプロファイルはリアルタイムストリームに近づいている。旧いプロファイルがニューロンであったとすれば、ストリームは神経回路つまりパターンに喩えることができるだろう。情報をノードからノードに与えるのは、アプリケーションと人々の間の結合組織なのである。プロファイルは移り変わり、人々は無数のツールや技術的手段を使って自己を表現するが、ストリームだけは一貫して永続的なチャネルとして重要であり続ける。それは、過剰感を緩和しつつ活用可能な情報のレベルを高める、新しい表現のメタファーである。それらはシナプスのようにきらめき、輝くシナプスの集合パターンのように複数の信号やリツイートのパターンを示す。パターンが意味をつくりだす。スイッチを合わせたり外したりすること自体は重要でない。必要なら、情報のほうがユーザーを探すだろう。コンテンツとジェスチャからもたらされる暗黙の情報は、シナプティックWebの大きな可能性の一つである。一連のジェスチャを観察し、それらの結びつきを知ることで、ダイナミックな関心のプロファイルを生成し、意図や交友関係を発見し抽出したりすることが可能になる。

モバイル電話は、かつては音声というキラー・アプリケーションで人々をつないだが、現在では、それは種々雑多なコンピューティングサービスと接続である。ゲームやWebブラウジングから位置検知サービスまで、電話は超接続型のデバイスとなった。モバイルデバイスは、強力なセンサのノードとなり、ますます普及が進み、パーソナルで、固定型PCプラットフォームより高い認識能力(視覚、聴覚、所在探知)を有している。位置データがメッセージングと結びつくことで、すでに友人同士や友人の友人、同じ考えの見知らぬ人までを、思いがけず、無数の商業的機会とともに引き合わせることもできる。その結びつきのすべては、時間と空間を交差する形で生まれている。それが可能となるのは、コミュニケーションの速度がリアルタイムに近づく場合だけだ。

データベースは、データピア(data peer) となりつつある。現代の情報理論家の多くは、データを格納し抱え込んでいても逆にその価値は減殺され、 より規模が大きくしかも効率的な利益機会を確実に失っていると指摘している。サードパーティ・ツールで利活用できるよう、現在接続しているデータをそっくりオープンフォーマットで保存することこそが、インターネットにおけるあらゆるイノベーションの前提となっているのである。TCP/IPとHTTPのプロトコル層に組込まれた、相互運用性を持ったピアによるデータネットワークが拡大しつつあるが、シナプティックWebの将来はこの基盤によって実現する。現在のデータフローを取り込むことで、従来の閉鎖系のデータベースを時代遅れの無用の長物のように見せている。それらは、OpenIDOAuthActivityStrea.msPortableContactsAPMLその他の新しい標準によって支援される。

シナプティックWebでは、検索よりもフィルタリングのほうが重要になる。少なくとも、それはコンテンツの探索の際の問題解決を助ける次世代ツールにはなる。検索は無限に近いドキュメントのWebから咀嚼可能なページを選び出すものであるのに対して、フィルタリングは情報の奔流やノード、ネットワークを絞り込み、いま現在のユーザーの変化する判定基準に適合するページを選び出すプロセスである。それはあなたの世界の見方を設定し、絶えず修正していくことで、最終的にデータのほうからユーザーを探し出してくれるようにすることでもある。(1/2=つづく)

参考

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