米国ランダムハウス社は、英語圏を中心とした著名作家のエージェントとなっているアンドリュー・ワイリー氏 (Andrew Wylie)のワイリー・エージェンシーとの今後の関係を断絶すると表明した(07/22)。ワイリー氏が新たに電子出版社Odyssey Editionsを立上げ「直接的な競合関係」に入ったことを理由としている。Odysseyは事実上アマゾンのダミーで、まず20点を2年間Kindleで独占提供する。昨年から顕著になってきた“パワーシフト”は、強力なエージェントの参入で一気に加速することになった。日本でもおなじみの作家を並べており、ついに来るべきものが来たということだ。
有名作家作品のE-BookがKindle独占で登場!
Odyssey Editionsは事実上アマゾンのためのダミーで、フィリップ・ロス、ジョン・アップダイク、マーティン・エイミスなどを含む20点をKindleで2年間、$9.99で独占販売する(うち11点は全世界に提供)。すでに今年初めに英国のEnhanced Editionsと提携と提携し、電子版製作に着手していた。ワイリー氏は、6月のHarvard Magazine誌とのインタビューで、電子著作権の料率の低さに不満を述べており、“中抜き”(bypassing)の実力行使に出たことになる。またNY Timesとのインタビューでも「既刊本の電子化権は原出版社にはないので、これらの扱いについてはチャンスがある」と述べている。
RH社は提訴の可能性を云々しているが、すでにRosetta Books社との係争に敗れており、Rosettaよりはるかに手強いワイリーに対して勝ち目はほとんどない。ワイリーはこのダミー出版によってさらに著者からの評価を高め、立場を強めることは明らかだからだ。米国マクミラン社のサージャントCEOはブログで、「仲介先を替えるのは彼の自由だが、小売を1社に絞ったことには愕然とした。出版の基本とは、可能な限り多くの読者に届けることにあるのだから」と述べ、「これは著者、イラストレーター、出版者、書店や、およそ本が幅広く入手されるべきだと考えるすべての人にとって最悪の取引だ」と批判しているのも弱々しい。
ワイリーは日本でも人気のある多数の著名作家(アーサー・ミラー、V.ナボコフからイタロ・カルヴィーノまで)を幅広く顧客に持つ大手のエージェントだが、Kindle(あるいは大手オンライン書店)からの独占提供の動きが拡大すると、出版社にとっては悪夢のような現実が生まれる。
- 事実上Amazon/Kindleが出版社としての地位を固め、他も追従する
- ベストセラー(定番)書籍について著者側の「売り手市場」が定着する
- エージェントはオンライン書店と共同で翻訳市場を重視し管理するようになる
そのうち、「電子版現代世界文学全集」がKindleから独占供給されるかもしれない。翻訳料の相場が上がるのは悪くないが。
日本の出版社は、著者との契約関係の見直し、著作権料の改訂を迫られるだろう。時間をかけるほど不利になるので、むしろ印刷本が圧倒的に強い現状で、低い著作権料率のまま電子本の「実績」をつくっておいた方が有利だ。“アマゾン出版”の脅威は、むしろ駆け込み的な電子化ブームを生むかもしれない。(市場経済的に)賢明な著者はワイリーのような辣腕エージェントを使って相場を上げるだろう。出版社は「著作隣接権」としての電子化権を認めさせようとするだろうが、これは英米的な市場秩序から離れることを意味するし、もともとロビイングに強い業界ではないので、甘い期待は持たないほうがいい。出版社にできることは、E-Bookの商売に強くなること、そして本を通じて著者と消費者の強い(知的道徳的)関係を築くことだけだ。
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