E-Bookビジネスの今後の展開は、アップルやアマゾンのようなテクノロジー/サービス/顧客を集約したWebメガストアに対して、出版社がどこまで自立できるかによって大きく変わる。したがってこのシリーズではまず、出版社を支援するサービスから取り上げてみたい。著者・読者との結びつき、そしてE-Bookじたいの付加価値を高めることができれば、出版社はブランドとして再確立できる。
出版社を圧倒するメガストアは“エージェンシー”にあらず
販売価格の30%を要求してきた書店がいたとしよう。買取り&前金など、よほどのことがない限り、出版社が相手にすることはない。出版物の内容について、独自の“検閲”まで行い、内容に自信と責任持って出版社が刊行した書籍を時に突き返してくる書店も同様だ。ところが、信じられないことにE-Bookではそれが受け容れられている。わずかな印税の引上げを渋り、あらゆる検閲に反対する出版社がである。E-Bookビジネスの主役がコンテンツではないことを、これほど明瞭に示す事実はない。
E-Bookのメガストアは、売上の70%を“出版者”がどう配分しようが関与しない。自主出版では著者が全部取るし、出版社と著者がいるなら仲良く分ければよい(著者エージェントの取り分は著者の15%と決まっている)。彼らはダウンロード数に応じてロイヤルティを契約者の口座に振り込む。購入者のデータを出版者に渡すことはない。プロファイルと購入履歴はメガストアの最大の資産で、それを集めるためなら無料やディスカウントの書籍を大規模に駆使することを厭わない。最新鋭の魚群探知機を備えた漁船のようなもので、Webの海の中では圧倒的に効率がよい。
出版社はメガストアのことを「エージェンシー」と考えたいだろうが、現実を直視したほうがいい。消費者にとってはアマゾンやアップルが「プロバイダー」であって出版社は一つのレーベルにすぎない。大手出版社は、市場シェアを(集合的に)誇示するが、これもあまり強気になれる材料とはならない。第1に、彼らは必ずしも既刊本の電子化権を保証されているわけではない。第2にこれから市場に現れる本について、(名の売れた)著者はより強いスタンスで臨んでくる。第3に、消費者にとっては出版のタイトル(バラエティ)のほうが、売上シェアより重要かもしれない。
万単位で存在した書店は、オンラインでは圧倒的に寡占状態だ。出版社がこれまで経験したことにない世界が生まれている。メガストアが30%を要求するのは、それがメーカーに対する流通側の圧倒的優位を背景に「生かさず殺さず」という水準であることを物語っていると考えられる。30%を嫌った出版社は、他社あるいは自社のサイトで販売することもできるが、メガストアは「興味を示す可能性が強い消費者」と「彼らにアプローチする方法」を知っている(と主張する)。彼らが持っている消費者へのアクセスの価値が30%ということなのだ。
前回述べたように、出版は「生産・取次・流通」という三位一体で成立する。これは伝統的に独立した三者として成り立ってきたが、取次と流通を一体化させた(というよりは境界を崩した)メガストアのビジネスモデルは、出版に関するバリューチェーンを単純化せずにはおかない性格を持っており、「7:3」ではすぐに満足しなくなる。残りの7を実質的に分解する作業に取り掛かるのである。有名著者が権利を持っているE-Bookがターゲットとなり、高いロイヤルティと買取りを組合せて「中抜き」と自由な価格設定を実現し、実質的に30%以上を獲得しようとするのは当然だろう。既刊本という巨大市場、しかもすでに格付けがついている市場について、メガストアは著者との1対1の関係を確立しようとしている。“イノベイティブ”なWeb企業は本質的にプレデターなのだ。これはメガストアの間の競争が激しいためでもある。
21世紀型の出版社への移行:再びバリューチェーンの主役へ
出版社は進化しなければ生き残れない。メガストアに対して “frenemy“(味方でも敵でもある存在)という言葉が使われている。出版社はいまや名目で7割どころか、「中抜き」される寸前までいっている。「中抜き」されるかどうかは著作権者の胸先三寸にかかっているのだから、とても危ない状態だ。出版業の存亡の危機といえるだろう。とはいえ太古の昔から、鋭い爪も牙も、たいした運動能力もない人類が、頭を使うことでプレデターと向き合い、生き残ってきた。あちらのほうでも、いまやイエネコのように人間と共存してくれる種族が主流になっている。重要なことは、著者と読者にとってかけがえのない存在として認めてもらうよう闘うこと。(とくに本の「生産」のすべてをコントロールしているわけではない日本の出版社などが)殻に閉じこもったり、もともと乏しい政治力で抵抗したりすれば、著者も読者も見放してしまい、最悪の結果を招く。
では出版社が少なくとも70%の線を確保し、さらに押し返すことは可能だろうか。筆者は可能であると思う。可能でないとすれば、多くの人が懸念する通り、E-Book市場はデジタル音楽市場と同じということになるだろう。だが、出版市場は十分に複雑多様であり、出版社は著者(仕入先)や読者(消費者)とのコミュニケーションを強め、直接に取引することで、逆にメガストアをバイパス(中抜き)することができる。E-Bookビジネスの基本は、著者と読者以外のすべてはエージェントとしたりバイパスしたりすることが可能であり、バリューチェーンのステークホルダーの間では、つねに(著者も読者に対する)ユニークな付加価値を持たなければバイパスされる方向で淘汰圧が働く、ということである。
Webメガストアの流通独占に対する抵抗は普遍的であって、欧米では様々な企業が出版社をサポートするサービスを開発・提供している。
- Webダイレクトマーケティング環境(顧客管理、DM、ァナリティクス)
- Web決済サービス
- SNSを中心としたWeb 2.0サービス
- E-Book拡張技術と支援環境
- 出版ビジネスコンサルティング
マーケティングや決済系のサービスは出版社に限定されないが、日本でなじみのないものが多いのでこれらも含めて紹介していきたい。簡単に言えば、出版社はE-Bookに関してダイレクトマーケティングに打って出ることが可能であるばかりでなく、その比率が高いほどサステナビリティが高くなるということである。きめ細かい顧客管理が可能なWebでは、ダイレクトマーケティングが中心であって、ほとんど「ダイレクトマーケティングか死か」と言ってもよい。メガストアはたしかにダイレクトマーケティングを立派に代行してくれるように見える。しかし、メガストアはけっしてクライアントに顧客の情報を渡さない。Webビジネスでは(高度な)顧客情報を持つ者がバリューチェーンの支配者になるのである。
出版社にWebを使ったダイレクトマーケティングが可能だろうか。アマゾンやアップルGoogleのように高度なデータ管理、プロセス管理を行い、継続的に結果を最適化させていくような体制をつくれるだろうか。5年前には不可能だった。2年前でも(方向は見えていたが)かなり難しかった。しかし現在では可能である。販売するのは自社の商品(+α)なのだから、巨大なものは必要ない。メガストアへの依存度を段階的に引き下げていければよいのだ。(鎌田、08/03/2010)
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