米国コロンビア大学出版コースの未来志向

転換期のリーダーを育てる

筆者が感心するのは、たとえば次のような点である。

  • 第1に、出版と雑誌、デジタル(つまりWeb)メディアという新旧媒体の違い、企画・編集、ライティング、デザイン、マーケティングといった職種の違い、大手出版社のトップからスタートアップ経営者、エンジニアといった「業界」の違いを超えて最良の経験(ベストプラクティス)を惜しみなく提供すること。
  • 第2に、厳密に組み立てられたカリキュラムによって、出版の全側面を体系的に理解した上で、転換期(現実)の課題に創造的な方法で応えられるオールラウンドでクリエイティブな「出版者」を育てるという使命感に立っていること。
  • 第3に、6週間(1ヵ月半)の連続・集中合宿というスタイルによって人脈形成、就職活動、企業活動の場を提供すること。受講生は個人として独立した出版事業の主体であることが期待されている。

西欧において、市民社会は出版とともに成立・発展してきたが、それは個人の思想的自立を前提とする「批判・批評」を社会化する礎として出版が不可欠であったためだ。出版の伝統を持たないまま、民主主義のイデオロギーによる市民社会の建設に取組んだアメリカは、出版に関する科学と技術を発展させることで、西欧とのギャップを克服しようとした、と筆者は理解している。ベンジャミン・フランクリンを祖とするジャーナリズムと図書館学(およびそのシステム)は、欧米とはやや異なるタイプの知識人を育て、高い権威と最高の技術的水準を示している。

しかし、市民社会を支える存在であるはずの出版は、20世紀後半に大衆社会のメディアビジネスとして変容した上に、世紀末に登場したWebという非対称的メディアにより、その社会性と経済基盤を同時に脅かされるという危機に直面している。誰が考えても、出版そのものが大きな転換期にある。何よりも当事者がそれを感じている。学者や作家、経営者を含めた米国の最も優れた出版人は、ビジネスとしてのサステナビリティと社会的機能の両面で、再構築へのシナリオを追求し、仮説の提起と実験を繰り返している。このエネルギーこそ、ジャーナリズムが牽引する米国の出版界を果敢にデジタルに立ち向かわせている熱気の根拠なのだろう。 (鎌田、2011-07-18)

参考記事

  • Share/Bookmark

No related posts.

Pages: 1 2

1 Star2 Stars3 Stars4 Stars5 Stars (No Ratings Yet)
Loading ... Loading ...