E-Book再考(6):出版社は何のためにあるのか

起業家のための自主出版入門

Webベンチャーについての専門ブログメディアTechCrunchの最近号に、ジェームス・アルトゥヘル(James Altucher=写真)という投資家が書いた「なぜ起業家は本を自主出版すべきなのか」という一文が載り、かなりの議論を呼んだ。過去7年間に8冊のノンフィクションを書き、5冊を大手出版社から、2冊をアマゾンから出した人物の体験に裏づけられた出版社不要論だけに、説得力がある。最近の自主出版本2冊は、出版社からの5冊分の合計を超えて売れたそうだが、彼が言いたいのは、もちろん収入の話ではない。彼は、(1)なぜ自主出版か、(2)なぜ起業家か、(3)どうやるのか、に分けて、起業家に向けて歯切れよく解説している。以下、ラフに要約しておこう。

(1)なぜ自主出版か:出版社が使えない5つの理由

まず、出版社から得られる前渡し金はますます細り、ゼロに近づいている。有名な著者でもない限り、執筆への支援は期待できない。次に、時間。アマゾンなら数日でKindle版とペーパーバック版が出せるが、通常の出版社を通すと最低1年はかかる。さらに、お笑い草のようにお粗末なマーケティングだ。スティーブン・キングでもない限り、著者はすべて自分で売り込まなければならないが、成果はすべて彼らのもの。そもそも、彼らは企画書を読む前に著者の販売力を値踏みしている。そして高い印税率。出版社15%、自主出版70%。海外版権は、前者が50%、後者は100%。本の中身に関しても、自主出版のほうがいいと彼は言う。そしてジョン・ワイリーから出した本と自主出版本を例に出しているが、どっちが「自主」かは聞かないと分からない。それに見習い編集者から生意気なコメントを貰う不愉快を味わうこともない。

(2)なぜ起業家が:ネタと動機があれば、出版は最高のコミュニケーション手段

君が起業家であればネタと動機は持っている。自分自身はブログに記事を書き溜めてあり、未公開の草稿もあるので、年に5冊は出せる。起業家であれば、世に問うべきユニークなヴィジョンやアイデアはあるはずだ。この世界では名刺は役に立たない。時間がなければゴーストライターに頼めばいい。ブログを有効に使い、発言を多くし、フィードバックを得るようにしよう。しかし、500~2000語の記事の寄せ集めでは本にならない。ブログとはスタイルが違うので、本の原稿はオリジナルで書き下ろすこと。出版で財を成す可能性が限りなく低いが、アマゾンは起業家のブログを売り込む有効な手段となる。講演の機会も増え、それが本を売り込む機会にもなる。君は「ペンギン」のようなブランドを気にするかもしれない。しかし、経験的に言って、そんなことは誰も気にしない。どうやって本屋で売るようにできるか? それは自分にも分からない。出版社は有名作家を優先して並べ、自分などは大都市の書店に数点置いてもらえただけだった。書店はアマゾンのランキングを見て注文を出す。

(3)どうやって:君には出版が出来る。だから出版しなければならない

わかった。で、どうやればいい?― まず、本を書く。時間は作らなければない。出版は起業家の仕事の一部だ。アイデアとその背景は書かなければ伝わらない。自分はブログ記事を下敷きにリライトし、素材を追加していった。これがブログ記事の寄せ集め出ないことが重要。自主出版の支援サービスがあり、彼はアマゾンのCreateSpace.comを使った。指定のWordテンプレートにテキストを流し込んでフォーマット。1冊目は自分でやり、2冊目はAlexanderbecker.netに編集・デザインからPDF出力までやってもらった。CreateSpaceがPDFを受け取り、ISBNを貰ってくれて最終版下を送ってくれるので、君がOKすれば完了。オンデマンド印刷で購入者の手に渡る状態になる。ちなみに、ここまで1銭もかかっていない。Kindleにアップロードする場合は、CreateSpaceに70ドル払えばすべてやってくれる。

自主出版こそ出版、だとすると出版社は何のために…

これまでは自主出版においてはスタートであってゴールではない。出版の目的は自分のアイデアを売り込むことであり、うまくいけば本でも儲けることだ。アルトゥヘル氏はマーケティングとプロモーションについても具体的に書いている。SNSはもちろん有効だ。ブログでは、本とブログの違いをしっかり説明しないといけない…。

この記事の筆者は、投資家、プログラマー、作家、起業家など様々な分野で活躍しているが、著書の大部分は投資に関するもの。この分野は動きが早いので、企画書を通してから1年も待たされるようでは、読者にとっても本人にとっても得るものは少なくなる。ビジネスやテクノロジーの分野では時間が最も貴重なのに、出版社はニーズに応える努力をしてこなかった。しかし、考えてみれば時間が貴重なのは限られた分野だけの話ではなく、むしろ1年以上も時間をかけてまで出版する価値のある本こそ希少であると考えられる。出版社はその希少性をブランド価値にする自由を持つが、それは知識コミュニケーションの手段としての出版の機能の大部分とは無関係だ。(鎌田)

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