E-Book再考(8):流通システム再構築の必要

従来の流通システムの問題点を糧に成長するアマゾン

欧米では、書店が本を仕入れ、販売リスクを負う。出版物の平均価格が高いのは、発行部数が少ない学術・専門書が多いからだ。本など読まない層、たまにしか読まない層はあまり相手にしていない。書店が仕入れることを前提にすれば、そうにしかならない。他方で、日本では単価が安く、ベストセラー指向が強いのは、本も雑誌のロットに準じるべきだ、という大部数化への淘汰圧が働くからである。日本の書籍は、取次が全国の書店に無料で配布・展示し、清算し、売れ残りを回収し、廃棄までしてくれる。これは何のやり方か、といえば新聞・雑誌のやり方だ。コンビニのやり方と言ってもいいかもしれない。本に向いていないのは確かだろう。文庫、新書の出版点数の増加、価格の安さと高い品質が、無理な適応の結果であるとすれば、とても喜べたものではないし、それをE-Book不要論につなげるのは賢明ではない。

定価販売(再販売価格の拘束による競争制限)を前提にした日本の出版流通は、世界に誇るべきよいシステムであるという「ことになっている」。つまり関係者は異口同音にそう言うか。黙して語らない。原発事故のようなもので、巨大システムについて思考停止すると、とんでもない災害が襲っても冷静に対処できない(「ただちに…」と言って思考停止を継続させようとしても無駄だ)。思考を人任せにすると碌なことはない。出版流通は巨大システムだから、この機能がますます低下し、出版の危機を深めていることに対しては、誰でも発言できなければいけないし、専門家は工学的な視点で「神話」を必要としない、透明性の高い柔軟なシステムの再構築を考える必要があると思う。

システム(制度、商慣習も含む)について「良い/悪い」の価値評価をするためには、機能条件、実現価値、代替案、が明確でないと話にならない。またプラスとマイナスを計量し、マイナスを最小限に抑える運用方法が考えられる必要がある。価格競争を阻止するメリットは、「地方」への輸送コストの違いを吸収する特別な必要があった時代には意味があったのかもしれないが、今日では意味を失っている。だから通販のアマゾンは高度なロジスティクスを武器にした配送で顧客を伸ばしている。大量・高速・ノンストップの新幹線のような流通システムは、ドア・ツー・ドアの個別的なニーズには対応できない。新幹線が個々人にとって素晴らしいかどうかは、それを使う機会と比較優位がどれだけあるかによる。書店の品揃えが金太郎飴のように画一化されるのも、発売日に買いに走る時には便利かもしれないが、それ以上ではない。価格を自由化すれば、書店は独自の品揃えで勝負する方向で多様化するだろう。これはマスマーケット本には不利で、小部数本には有利だ。

10年ほど前に日本に来たアマゾンは、既存の流通システムの問題点を利益機会に変えることで成長している。米国と日本ではとくに問題が大きいので、それだけ成長余地が大きいわけである。出版界が既存の流通に固執するほど、アマゾンの一人勝ちになる。なんとも皮肉なことだが、出版社、取次、書店が思考停止の呪縛にかかっているうちは、唯一の消費者の味方でいられるからだ。アマゾンのシェアが増え続けているとすれば、それは現在の流通システムと市場ニーズのギャップが拡大していることを示している。今日では、欲しい本があったら、それがベストセラー本でもない限り、近くの本屋より遠い(?)アマゾンを選ぶ人が多い。

筆者が強調したいのは、E-Bookは旧システムが崩壊する過程で登場したが、もはやかつての出島のようなもの(ケータイ電子書籍とメーカー電子辞書)は機能しないし、専用のデジタル流通を接木しても機能はしないということだ。出版流通全体を視野に入れたシステムの全面的な再設計が必要なのだ。さもないと、アマゾンのみが消費者から見て合理的なサービスを提供することになり、出版社、書店の多くが消失する最悪の事態に陥る。もっともアマゾンは、日本での出版事業拡大にはこれまでさほど積極的なようには見えなかった。取次会社のスタイルを踏襲して、中小出版社には冷たいとも言われている。もしかすると、これは意図的に計算されたもので、Kindleを始めたら掌を反す可能性もないわけではない。ともかく累卵の如き危うさ、という状態であることは関係者も感じているだろう。上の図はアマゾン河だが、広大な流域が血管のように見えるのが印象的だ。おそらくアマゾンのロジスティクスの設計もこうした精密なものであろうと推定される。

ギリシャ神話で有名なプロクルーステース(引き伸ばす者の意)は、身長が寝台のサイズに足りない人には、体を引き伸ばす拷問にかけた(長すぎる場合は頭と足を斬ったという)。日本の出版流通はプロクルーステースの寝台のようなものだ。体が伸び、拷問に耐えながらシステムへの感謝を口にする出版社の姿は、とても見ていられない。

筆者は、既存の書店流通の問題をざっと以下のように考えている。こうした問題を解決するシステムを考えたいと思う。

  1. 小部数出版が経済的に成立困難であること
  2. 出版社が十分な流通の情報を得られないこと
  3. 既刊本の入手がますます困難になっていること
  4. 膨大な物的・知的資源の浪費が行われていること
  5. 消費者からの1冊単位での注文が軽視されていること
  6. 決済/金融システムが非合理的になっていること
  7. 新刊書が短期間で書店から消え、廃棄されていること
  8. 書店間、あるいは一般書店と古書店との連携がないこと
  9. 書店の個性、地域性が発揮しにくくなっていること

(鎌田、02-14-2012)

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