総務省は10月27日、電子書籍の普及に向けた環境整備事業として10件を採択したことを「委託先候補」とともに発表した。データ規格の統一、紙と電子の書籍を同時に検索できる情報データベースの構築などが含まれ、今年度予算で合計8億3,000万円を拠出する。三省懇談会報告書の方向に沿って、「日本語統一規格」に大きな比重が置かれており、シャープとボイジャーの2社がファイルフォーマットの統一仕様をまとめ、電子書籍出版協会に無償ライセンスすることになった。限られた公開情報の範囲で、今後の問題を考えてみたい。
新規事業には必ず「財源」の裏付けが要求される当今では、8億の予算は軽いものではない。他方で採択された10件の事業(とくに「統一規格」以外の部分)には十分とは言えない。10月も末の時点で予算がつき、「候補者」はこれから大急ぎで正式契約を結び、4ヵ月で予算を使い切り、納品する成果物をまとめることになる(!?)。 もちろんそんな芸当は(たぶん)出来るわけがないので、すべては懇談会を始めた3月時点からの出来レースで、作業はすでにほぼ内々に完了しており、懇談会も委託も儀式に近いものであったことが見て取れる。(これは予算に厳しく決算に甘い日本の政治・行政システムの欠陥によるもので、関係者がいい目を見ているわけではないことを付記しておく。)
E-Bookのフォーマットを考える視点
これからいろいろ情報も集まってくるので、ここでは「統一規格問題」を中心に検討してみたい。E-Bookのフォーマットについては何度かEBook2.0 Forumに書いているが、筆者の考えは次のようなものだ。
- 情報技術のフォーマットは、すでに無数に存在し、これからも生まれる。E-Bookのフォーマットも、それに関連するDRMも、機能や応用、環境、組合せによってますます複雑・多様にならざるを得ない。変化に付き合えないならITを使うべきではない。用紙の規格や印刷機のシリンダーのサイズのような、機械に関わる規格とは違い、ITの世界では万物は流転する。
- 1社独占であれオープンスタンダードであれ、使われている(ユーザーの仕事を支えている)フォーマットはすべて「よい」もので、リスペクトする価値がある。これまで作られた数千もの標準/仕様の中で、使われているものはごく僅かに過ぎない。
- これからE-Bookで必要になるフォーマットの中で、文字組版のフォーマットは非常に重要だが、将来的には一部となるものだ。ただし、表示以外の様々な機能が組版とのインタフェースを必要とするので、メンテナンスが必要になる。そのコストは安いほどよい。
- ニーズが多種多様な分野に対して、規格の統一をすればかえってコストを大きくする可能性がある。右側通行か左側通行かを決めれば、統一によって社会的コストを減らすことができるが、本来多様であるべきものを統一させれば、逆の結果になる。そこに政府が関われば、市場を歪め、その発展を制約する。
- 国が支援する標準は、公開かつ無償のスタンダードで、世界に開かれ(i18n/L10Nの要件を満たし)、さらにオープンソースの開発環境でサポートされるものであるべきだ。それが市場を拡大し、関係する企業の国際競争力を強め、ユーザーの利益になる。
- 文字組版は、日本語だけ、E-Bookだけに限定して考えるべきではない。多国語、多メディア(DTP/Web/E-Book)を同じ環境の下で扱えるようにすれば、出版環境はそれだけ強力なものとなる。特定な目的に最適化するのではなく、関連するものを協調させつつ、高度化を図るべきだ。
内向きになればフェイドアウトするしかない
以上のような視点で今回の環境整備事業を考えた場合に、E-Bookで必要になるフォーマットのフレームワークと要件、妥当性のあるアーキテクチャを先に議論し定義するのではなく、「日本語組版」を入り口として、あとは雑然と並列してある印象を受ける。確かに「日本語組版」は重要で、(これまでの電子書籍に対して)最高の品質を実現してきたXMDFやドットブックに然るべき扱いをすべき理由もあるが、かといって国際的にデファクトのePUBを「統一規格」との関係を曖昧にしたまま「その他」として扱い、さらにKindle AZWや中国の規格(複数の民間規格と計画されている統一規格)に触れていないのは、あまりに内向きで、日本の出版(コンテンツ)産業とエレクトロニクス・IT産業を不利な立場に置く危険性を感じざるを得ない。(発表の別添1、別添2を参照)。
いったい、政府はコンテンツ産業を日本の輸出産業として育成し、韓国や中国の成長で窮地にあるデバイス産業の復活を支援し、クラウド時代のソフトウェア/サービスの遅れを挽回することに関心はあるのだろうか。E-Bookを、教育の現代化を中心とした21世紀の知識コミュニケーションのツールとして普及させる気はあるのだろうか。E-Bookは、Webと「黒船」の幻影に怯え、パニックに陥っている出版業界の目先の希望を聞くだけでいい問題ではない。
「統一フォーマット」より製作環境
フォーマットは、もちろん製作環境とリンクしている。出版社が必要とするのが、例えばアドビのDigital Publishing Suiteのような環境で作られるタブレット向きアプリであった場合、ビデオ中心のVookや、Blioのようなものであった場合、「統一規格」やそのファイルはもちろん(直接的には)役に立たない。また「標準」となる統一規格と次世代XMDFの関係は明らかでないが、後者がシャープGALAPAGOSの独自環境になるならば、他メーカーは競争上の不利益を被る可能性がある。
統一規格をサポートするオーサリング・ツール(の価格と提供形態)についても情報がないが、これは従来と同じ形(版元の管理下)で作られることを前提としているのだろうか。あるいは、InDesignやMS Wordのプラグインを通じて変換可能であることが保証されるのだろうか。まさか、統一規格を統一エディタで使わせることまで考えてはいないと思いたい。
世界で流通するフォーマットは、AZWを含めて、InDesignやMS Wordからの出力が可能で、ほぼ無料で変換できる。「統一規格」の製作環境が「世界流通規格」のそれより不便であるとすれば、日本の出版産業が結果的にダメージを受けるか、あるいは「統一規格」がスルーされてしまうだけだろう。どちらにしても、好ましいことではない。「統一規格」じたいは良くも悪くもないが、変換効率と製作環境のほうが問題だ。あと4ヵ月で関係者が答を出してくれることを期待したい。(鎌田、10/28/2010)
No related posts.






[...] ♦この続きはEBook2 Magazine No.6 (10/28号)でお読みいただけます。 (鎌田、10/28/2010) (No Ratings Yet) Loading … Filed Under: Data Format, TechnologiesTagged: フォーマット /* Hiding avatar from for [...]
[...] This post was mentioned on Twitter by カナカナ書房 and Ritsu Tanaka, 野知潤一@眺(ティアオ). 野知潤一@眺(ティアオ) said: 総務省・電子書籍「環境整備事業」への懸念/EBook2.0 http://bit.ly/chtf5X [...]