読者とコンテンツがE-Book市場を牽引 (♥)

Forrester Researchは11月5日、E-Book市場についての報告書を発表した。米国市場の中期(5年間)予測を示し、Kindle登場以来3年間の急成長がどのように持続されるかを検討している。「E-Book購入は持続的に上昇」と題したこのレポート($499)は、米国人の7%がE-Bookを購入していると推定。その市場は2010年に10億ドルの大台に近づき(9.66億ドル)、2015年に3倍の28億ドル規模に達すると予測している。新たに8%が購入意向を示し、購入者はさらに読書量を増やすことが分かっているからだ。(=会員)

E-Book購入者はまだ7%。半数がE-Readerを使用せず

今回のサンプル調査は「本を読む18歳以上のインターネット・ユーザー」を対象としている。もちろん米国人とその市場のすべてを代表するわけではないが、E-Bookにアクセス可能な消費者ということで妥当な設定といえる。2010年の市場規模は9億6,600万ドル(約800億円)と見積もられている。大手15社の実収ベースで記録しているAAP/IDPFの実績値(3Qまでで約4億ドル)などをもとに推定されたと思われるが、小売市場をカバーしており、日本の数字と比較することも可能と思われる。

年に2倍以上という驚異的なスピードで拡大している市場は、なお2011年中もその勢いが持続しても不思議ではない。そして来年末に20億ドル規模になったとすれば、2015年で30億ドル弱という数字さえも改訂しなければならないだろう。筆者は遅くとも2013年にはこの数字はクリアするものと考えている。それはまだE-Bookの購入者が米国人の7%に満たないことから容易に推定できる。書籍購入者の相当部分を占めるアクティブな読者層(20%)に浸透するまで3年とはかからないだろうし、その時点で少なくとも3倍にはなっているはずだからだ。

興味深いのは、いまだにE-Bookを読むツールとしてPCがトップ(35%)で、Kindle(32%)、iPhone (15%)、Sony(12%)、ネットブック(10%)が続き、iPadは9%となっていることだ(複数回答)。PCとネットブック、iPhoneを合わせるとじつに60%が、E-Reader以外で(も)読んでいることになる。iPadやタブレットが上がることは確かだが、PC/ネットブックが急速に落ちることはない。E-Bookを読むために100ドル以上を投資したくない人、PCを使いながら本を読みたい人はなお多いとみられるからだ。実際、英国では(昨年の段階で)E-Book購入者のほとんどは、まだ技術者や医師、法律家などの専門家であり、彼らは専門書をPCで読んでいるとした調査データがある。

レポートを執筆したマッキヴェイ氏(James McQuivey)は、市場を俯瞰するために、まず米国人がどのように本を入手しているかを調べた。これは重要な着眼と言える。それによると、(1)友人から借りる、(2)図書館から借りる、というのが2大入手先であることが分かったという。デジタルとは無関係にフリーは一般的である、と書いている。これは様々な点で示唆に富む情報だ。知識がコミュニケーションにおいて意味を持つものだとすれば、知識情報における“贈与経済”は、人類の発祥とともに本質的なものだと思う。

マッキヴェイ氏は、現在のE-Book読者は本を読む成人の7%に過ぎないが、「その7%が非常に魅力的な集団であることが分かった。ここに仕掛けがある。ほとんどの本は彼らが読み、彼らが購入しているのだ。その半数が専用リーダを所有していない平均的E-Book読者は、すでに41%の本をデジタルで読んでいる。」と述べている。Kindleなどの所有者に限ればデジタル化率は66%にもなるという。当然のことながら、本の市場はかなり遍在しており、大量消費可能な商品としては特殊な、乱読を愉しむ愛読者層で支えられている。彼らは多少とも話題になる本を読み、それを第三者に広げる影響力を持つ。ネット環境は、そうした"chain reading"に最もふさわしい場と言える。アマゾンは、まさに「多少とも話題になる本」を最も読みやすい形と価格で提供したが故にブレイクスルーを成功させたと言える。読者は出版社ほど何で読むかを気にしていない。彼らが関心があるのは何を読むかなのである

最古のメディア産業が最も早く変わる

E-Bookで読む読者が自然と増える、という不可逆的な傾向を読み取ったマッキヴェイ氏は、こう述べる。「それが意味することは、カラー電子ペーパー製品がなくても、出版社がE-Bookの購読制を実験しなくても、対話型E-Bookが成功しなくても、2015年までには30億ドルに近づくということだ。」つまり、彼自身が30億ドルをかなり控えめな数字と考えていることになる。したがって出版社は「デジタルを既定のものとして、物理的な出版がデジタル出版ビジネスをサポートする補助的な活動となる日に備えるべきだ」と彼は結論づける。出版は必然的に「電主・印従」時代へ向

書籍出版のデジタル転換は、他のすべてのメディアビジネスより急速に進む、というフォレスターの見方に筆者も同意する。マッキヴェイ氏はその理由を(複数の媒体、複数の収益源に展開するために変化が起こりにくい)音楽・映画・TVなど他のメディアに比べ、本のビジネスは単一(single-revenue)で、変化に対する抵抗力が弱いためだとしている。本は出版され、販売することで完結するが、収入モデルが変われば流通モデル全体も再構築される。もちろん、コミュニケーションや版権に注目した場合、本のビジネスは必ずしも単純ではなく、これからは不可避的に複合的になっていくのだが、これまでの出版ビジネスが(成立が早く変化が遅かった分)単純な<発行=流通=小売>モデルで構築されていることは間違いなく、そうした意味で、この最古のメディア産業が最も早く生まれ変わるのは(日本では関係者の意識が追いついていけない心配はあるが)ロジカルである。

筆者はさらに、この変身によって、出版はメディア産業における主導的な地位を取り戻すとも考えているのだが、これはフランクフルト・ブックフェアなどが考えている戦略でもある。これにはE-Bookじたいの対話メディアへの進化が条件になるので、最低でも10年はかかる歴史的な変化になると思われる。流通主体の革命は、歴史的にみたメディア革命の序章であり第一段階である。

このレポートは分析が優れていて読ませる。高いが、分析を示さない日本のレポートより価値は高い。一つ、厭味を言えば、フォレスターは過去に2度大きなミスを犯している。まず2007-8年にKindleの成功を読めず、次いで2009-10年にはkindleの急速な凋落を予測したことだ。筆者はこのハズれに乗らなかった。こと本に関する限り、最大のオンライン顧客のベースを持つアマゾンに十分な勝算があることは明らかで、無線通信への常時アクセスと決済システムを含めた購入/読書体験によって過去の失敗は克服できると考えたからだ。今回のフォレスターの調査でも、「E-Readerを所有あるいは購入予定の10人のうち4人は、Amazon.comで印刷本を購入しており、前月にE-Bookを購入した人の50%はKindle Storeで買っている」ことが判明している。

アマゾンの強さは、外から見えないテクノロジーと顧客データの蓄積にあるのだが、ここに注目するアナリストはじつに少ないのだ。さすがに米国のE-Book関係者は、印刷本、中古本の市場と顧客を誰よりもよく知るアマゾンの強さの源泉は「情報」であり、情報を生かしたサービス開発力であることを知っている。フォレスターなどIT系アナリストの失敗は、E-Bookとは情報流通の革命にほかならず、デバイスに依存しないことに気づかなかったことだ。「Kindle vs. iPad」はこの錯覚の産物ということになる。現在のところKindleとiPadは相互に補完的で、後者はEBook2.0への移行を準備している。対話型E-Bookの市場が登場する前に、Kindleも対応するだろう。しかし、これから2年間は、本の市場では電子ペーパーデバイスが支配するだろう。それが最も安く、従来型の本を読むのに最も適しているからだ。本の市場はガジェットが牽引したのではなく、読者にとって魅力的なコンテンツ(つまり話題本)が牽引したものだったという事実の発見は、フォレスターのレポートの最大の成果と言えよう。 (鎌田、11/10/2010)

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