本の「見つかりやすさ」と「見つけやすさ」

本誌記事を理解するためのキーワード解説を行っていくシリーズの第1回。昨年ごろから、米国を中心に、コンテンツ・マーケティングの一大テーマとして 'Discoverability'という言葉が浮上してきた。日本では「見つけやすさ」と訳されることが多いのだが、本誌は「見つかりやすさ」としている。この両者は似て非なるもので混同されやすい。テクニカルタームなので、少々勉強しさえすれば難しいことはない。何が問題なのか、どう違うのかについてお話してみたい。

英語の復習になるが、discover とは覆っているものを取り去って気づかせる行為を意味する。出版において問題になるのは、E-Bookの普及によって新刊・復刊が激増するなかで、自社の本に注目してもらうことがますます困難になっている事情がある。なにしろ、1990年に90万点だったISBNは、今日では3200万点に上り、これを取得していないタイトルも増加している。つまり市場にどのくらいの本があるのかさえ、知ることが出来ない。しかし、困っているのは出版社・著者であり、覆っているのは膨大な(他人の)刊行物ということになる。欲しい本を知っていたり、それほど選択にこだわらない消費者は困ってくれるとは限らない。ここがポイントであり、'Discoverability'は「見つけやすさ」ではなく「見つけられやすさ」ということだ。これは特別な意味を持つ。

ドナルド・ノーマンによる「アフォーダンス」理論は、「人をある行為に誘導するためのヒントを示すこと」にフォーカスしているが、本について言えば、消費者を特定の本(あるいは自社ブランドの本)に誘導するための仕掛け(例えばSEO)を考えることになる。他方で「見つけやすさ」はユーザー(消費者)が望む機能で、直観的で簡単な操作で何らかの目的を果たせる「分かりやすさ (findability)」につながっている。どちらもWebのUI/UXデザインの方面で発展してきた重要なテクニカル・タームだが、ベクトルが違っていることに注意していただきたい。

さて、読者ではなく出版者にとって、本の「見つかりやすさ」のための努力は死活的なことだ。これまで大金を投じて広告を出したり、地道に書店で棚やスペースを確保して平積みにしていたのは、すべて「見つかりやす」くするためだったのだが、これをサイバースペースでやる方法をみつけないといけなくなった。SNSやアフィリエイトなどWebのマーケティングを単純に適用しても効果は知れたもの。状況は確実に悪化していく。オンラインストアは、ユーザーにとっての「見つけやすさ」をサポートするなかで売れ筋となりそうな素材を発見し、「見つかりやすさ」の手法を使って誘導していくのだが、書店のそれは必ずしも出版者の願望と一致するわけではない。出版者は自分で考えるしかない。金を使えばメディアの協力をもらえるが、費用対効果は下がり続けている。出版者は孤独だ。

とりあえず、ISBNを持った出版物をつくること自体は誰でもできるようになった現在、マーケティング能力は、21世紀の出版社に最も期待/要求される資質である。(鎌田、02/26/2013)

参考資料

以下のスライドは、Good Readsのオーティス・チャンドラーCEOが、NYで開催されたTOC 2013で発表したもの。読者の行動を、Discover > Purchase > Read の3ステップに分け、2つのタイトルをサンプルとして、これらがどうやって見つけられ、購入され、読まれたかを追跡している。読者は様々なものに影響されており、出版者にとって、消費者に見つけてもらうことが簡単ではないことを示している。(2/26更新)

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