ソーシャルリーディング

social_media2出版はもともと社会的 (public)な行為なのだから、読み方も社会的にされて不思議はない。実際、本が貴重だった近代以前は「音読、共有」が読書の基本であり、したがって知識空間を共有することが出来ていた。近代以後はもっぱら「黙読・孤読」が基本になったが、以後人々は「どう読んだか」よりも「何を読んだか」を気にするようになった。共有されないのは、出版社には嬉しいだろうが、本の数が増えすぎてしまうと、そうも言っていられなくなってきた。マーケティング費用が嵩むのだ。

見えない価値は失ってみないと分からない。Amazon.comのユーザー・レビューやレコメンデーション機能が意外と(どころか相当な)影響力を発揮して、出版社ははじめてシロウトの怖さを知った。アマゾンはさらにKindleをコミュニティ化し、ユーザー間でのクチコミをサポートする環境をつくった。ここで交わされるコミュニケーションは、マーケティング的に意味を持つだけではない。Kindleをメディア化することになり、そのままユーザーの読書体験(これもまた別のキーワードだ)を他と差別化する要因になる。そのぶんアマゾンは安泰でいられる。アマゾンという書店が提供するソーシャル環境は、とりあえず商業的価値を持つということが実証された。しかし、人が使い、それを使い続けるということは大変なことだ。ほとんどのWebサイトは、それなりのソーシャル機能を持っているが、使われているのは非常に少ない。「社会」性がどのように成り立つかは大きなテーマなのだ。

とりあえず商売からすると市場的価値がすべてかもしれないが、ソーシャルリーディングが本来、近代以前に人々が持っていた「知識空間の共有」(それによって絆を太くする)の方はどうか。こちらは販売サイトの付加機能のデザインよりさらに難しい。ここでは2つの方向があると思われる。ひとつは個人が読んだ本についての読書体験を共有し、それによって「次に読む本」に導くもの。いまひとつは、著者が読者(感想)をもとめて作品を投稿し、読者と読書体験を共有するというものだ。前者は「推薦エンジン」と呼ばれるサービスとなり、後者は「ストーリー共有」サービスとなる。YouTubeのテキスト版のようなものだ。前者の代表がGoodreads、後者の代表がWattpadということになるだろう。また前者は「本探し」を通じて販売サイトに結びつき、後者は自主出版支援に結びつく。

結局ソーシャルリーディングは、出版のバリューチェーンの中でマーケティングのツールとなり、エコシステムの中で価値を生む。しかし、重要なことは誰もWebマーケティングの餌になりたいわけではないから、主宰者に対する信頼とシステム/サービスの魅力がないと使ってくれないということだ。たいていのことなら、Facebookで済んでしまう。社会を甘く見てはいけない。  (鎌田、04/04/2013)

P.S.

『マニフェスト:本の未来』(ボイジャー刊)は、ソーシャルリーディングに関する重要な小論が揃っている。というより、本の未来は「ソーシャル」にしかない、というのが本のメッセージだ。これはフォーマットがどうのというより中心的なテーマである。ぜひ参考にしていただきたい(筆者による書評はこちら)。

Futurist9. 「Web文学:ソーシャルWeb出版」 イーライ・ジェームズ
11. 「eBookはなぜ書き込み可能となるか」 テリー・ジョーンズ
12. 「読書システムの垣根を越えて:ソーシャルリーディングの今後」 トラヴィス・アルバー ほか
20. 「本はどのように発見される?」  オーティス・チャンドラー ほか

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