キーワード解説:クラウドファンディング

crowdfunding3一般的な解説はほかに譲って、ここでは「出版」に限定してお話ししたい。というのは、ファンディングへのニーズは普遍的で種々雑多だが、出版におけるニーズには特有のものがあるからだ。本誌はデジタル出版でクラウドソースへの新しいアプローチが目立っていることに注目している。これは自主出版と並ぶ21世紀のトレンドとなるかも知れない。ということで…。

出版と金融

まず出版というビジネスのプロセスとおカネ(資金需要)との関係について、筆者なりにまとめておくが、デジタルが出版金融をどう変えつつあるのかをプロセスにまでさかのぼって理解しないと、「クラウド」も理解できないからだ。予備知識がある方はこの項をとばしていただいてもよい。

crowdfunding2金融とは「時間」あるいは「リスク/期待」を交換可能な財とするサービスで、ビジネスを動かすエネルギー源であると同時に目的でもある。参入が容易で個人や小規模事業者が多数を占め、企画・制作・出版から回収までのサイト(期間)が長い、という特徴を持つ出版というビジネスでは、金融へのニーズも独特だ。既存の出版流通では、流通企業(取次)や大規模書店など、決済を行う企業が金融(先払い=仕入)を行っている。欧米では出版社が大規模化することで流通側に対抗、日本では大手出版社が委託販売を行う取次と特殊な関係を築くことで最恵国待遇を得ている。金融機能が業界の中に組込まれたのは、昔から銀行など役に立たなかったからだ。

目的が何であれ、また主体が企業であれ個人であれ、出版の難問はいつの時代でもおカネの問題だった。コストは執筆・制作から下版までの段階でほぼ費消され、流通して回収されるのを首を長くして待つ。近代の出版業は制作工程を保有することで始まったが、やがて分離するのが一般的になった。20世紀の主要な関心は「流通」であり、消費者と著者を結ぶサプライチェーンを複雑な<納品/決済>のネットワークとして機能させることを意味した。モノの流れ=納品(著者→版元→印刷・製本→取次→書店→消費者)とカネの流れ=決済(消費者→書店→取次→版元→印刷/著者)は同じでないが、おカネ・モノ・情報が集中するところにボトルネックが生じる。ボトルネックはビジネスにおける覇権が生まれる場であり、英米、大陸欧州、日本における出版流通、取引慣行の違いは、その部分で生じている。

出版のデジタル化は<モノ・カネ・情報>の流れをデータ化/オンライン化することであるが、まずオンライン・ストアとロジスティクス網を構築したアマゾンが橋頭堡を制した。しかし、ベゾス氏は本がやがてデジタルに変わることを予想し、それによって<情報>の優位が脅かされることを計算していた。そして、ロジスティクスに頼らないクラウド+デバイスによる読書体験を提供することで、E-Bookを実現した。それはモノ(印刷本)を二次的な存在としたが、新しい市場のパイオニアとなったアマゾンは、紙とデジタルを通じた顧客情報の一貫性を保持できた。これで市場予測可能性は飛躍的に高まり、同社の優位が確立したことは読者周知のとおり。その後のすべてのオペレーションは、<モノ・カネ・情報>の優位を生かし、さらに高めることに置かれている。アマゾンは情報をおカネに変え、問題を解決した。

デジタル出版とファンディング

クラウドソースは、情報をおカネに変えることで様々なスケールの出版ビジネスを可能とする新しい方法だ。ここで情報とは、著者を中心としたクリエイターであり出版企画である。それらが新鮮で魅力的なものであることを訴求できれば、その範囲での出版が可能となり、もしかすれば利益を生み出す可能性もある。これは自主出版と最も結びつきが深く、その可能性を広げるがそれにとどまらない。

クラウドファンディングは、21世紀の出版において重要な意味を持っている。それは著者、出版社にとって、資金調達、マーケティング、決済に関わる問題(つまり取次であれアマゾンであれメディア企業であれ、他に依存せざるを得ない理由)のほとんど、あるいは一部を解決する可能性を持つからだ。それは「予約販売」という、この業界では古典的な商慣行を現代化したものとも言える。対象が出版という融通無碍な事業なので、投資にもなれば「喜捨」にもなる。大小様々なビジネスモデルが構成可能なので、出版プラットフォーム(たとえば自主出版支援)やSNSが放っておかないし、さらに新しく大小プラットフォームが生まれる余地がある。

Crowd-Investing-thumb前述したように、デジタル時代の出版は、つねに情報をフルに利用可能なアマゾンとどう付き合うかということに尽きる。つまり全面依存せずに、アマゾンを賢く利用するということだ。それはアマゾンが悪だからではなく、それ自身の存在原理を持っている(あなたや私だけのために働いてくれるわけではない)からだ。雨や風のように、われわれはその性質を知り、利用する方法を知る必要がある。著者/出版社にとって、それは必ずしも難しいことではない。なぜなら、出版者たちが目ざしていることは、あくまで「自分たち」の本と著者と読者にとっての価値創造であって、そのためのサプライチェーンはアマゾンのエコシステムの外側にも構築できるからだ。インターネットは伝統的な出版取次と違い、誰にでも開かれている。

アマゾンを含めて、これまでネット上に生まれた出版プラットフォームに欠けているのはおカネ(金融)に関するものだ。クラウドファンディングの可能性が広がれば、アマゾンに依存しないエコシステムも広がる。 (鎌田、03/25/2015)

Print Friendly
Send to Kindle

Share