E-Book新時代の「見えざる革命」(1)

marketing_strategy米国では昨年から新刊ベストセラーの価格が引上げられ、それとともにE-Bookの拡大も止まったと考えられている。しかし、底流では市場調査で捉えられないインディーズのシェア拡大という革命的変化が進行している。これは1960年代以降の吸収と拡大の流れ(大企業優位体制)を逆転させるものである。

大出版社の戦略:高価格を通じた市場支配

updown2多くがデジタル・オンリーである自主出版が増加して以来、統計から米国の出版市場やE-Book市場の動向を把握することが極度に難しくなっていることは、毎度お伝えしている通り。大ざっぱに言うと、出版社団体(AAP)、調査会社(Nielsen)の数字にはストアの数字が含まれないためだ(いずれも商業出版のみ)。とくに推定シェア75%を占めるアマゾンからデータが得られないので、AAP加盟の出版社からの数字ということになる。それによるとE-Book市場は2013年以降急減速し、2014年にはマイナスとなった。

ニールセン社のPubTrack Digitalは上位30社の販売データを集計しているが、2014年は部数ベースで2億2,300万冊と、前年比で6%、1,700万冊の減少を記録した。デジタル比率も28%から26%に2ポイントのダウン。しかしこれは金額ではない。1209社を対象としたAAPのデータでは、金額ベースで4.7%増の16億ドルとなっている。前者はサンプルも少なく、金額を示していないので、比較することもできないが、昨年後半からE-Bookの価格が引上げられたことと結びつけて、数量減・金額増が一つの傾向を示すとする見方が多い。Kindleに関しては非出版社系を含めた「全体」傾向を捉えている Authors Earningsのレポートとも一致する。

以上のことから読み取れるのは以下のようなことだろう。

  1. 大手出版社は、新刊E-Bookの価格を段階的に引上げた(。
  2. それに伴ってE-Bookの販売部数は減少し、金額的には停滞した。
  3. 価格差が縮小した結果、印刷本の販売が回復した。

アマゾンは出版社の敵ではない

7030大手出版社にとって、1は予定の行動、2と3は想定内であったと思われる。つまり、出版社は成長市場のデジタルに冷水を浴びせて出版におけるシェア増加を阻止しようとした。それによって書店販売を守り、アマゾン依存度の上昇に歯止めをかけようとしたと思われるが、そちらは長期的な課題なので、果たして効果があったかどうかはまだ判断できない。出版社が選択したのは、E-Bookの価格を市場で形成された価格(4.99~9.99)より50~100%高くすることだった。その結果、しばしば印刷本(こちらは卸売制で書店が価格を決める)ことになった。

印刷本の10~15%安でE-Bookの価格が設定されている大陸欧州や日本では、デジタルの市場はコントロールされており、市場の15%以上を上回る可能性は低い(日本のマンガを例外として)。つまり、出版社は成長を犠牲にしても、印デジのバランス維持を優先しているということだ。無期限にとは言わないが、マーケティングと販売においてアマゾンに対抗する力をつけるまで、というのが理想である。これまでも大手は中堅出版社を買収することで市場シェアを高め、流通に対する交渉力を向上させてきた(そもそも「ビッグ」になったのはそのためだ)。市場に対する価格統制力はそのようにして維持できる。

米英では、印刷本の再販売価格統制が法律で禁じられている(大手出版社は法廷闘争で敗北した)ので、大量仕入を行うB&Nなどの大型店が割引販売でシェアを伸ばした。皮肉にも、B&Nがデジタルでアマゾンに苦杯を嘗め、牙を抜かれたことは、大手出版社にとって好機を現出しているとも言える。印刷本ではできないエージェンシー価格制がデジタルでは合法だからだ。彼らはもはやデジタルを怖れているわけではない。E-Bookの値上げによってデジタル化にはブレーキがかかった。価格競争を仕掛けられる可能性がなくなった以上、アマゾンはもはや脅威ではないと考えているはずだ。それに消費者がアマゾンを選ぶのは止められない。 (鎌田、06/11/2015)

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