栗田倒産が起動した「業界」解体のシナリオ

chainbreak3昨年2月に拙稿「日本的出版流通解体へのカウントダウン」を掲載し、「現在の出版業界は、5年以内、あるいは売上規模1兆2,000億円、アマゾン・シェア30%あまりの水準で独立性、一体性を失い、分解を始めるだろう。」と予想した。果たして「業界」の要と言える「取次」の一角が崩れたが、その処理過程はさらに次の段階の始まりを予告するものとなるだろう。

出版金融システムの破綻

取次準大手の栗田出版販売の倒産は、総合取次に起こった初の事態であり、システムとしての再版制が危機に際してどのように機能するのかを示すことになった。重苦しい雰囲気で行われた債権者説明会で弁護士から提案された再建スキーム(強引な「お願い」)は、千数百社と言われる版元関係者の想像を超え、疑惑と怒りを呼んだようだ(『新文化』7/14付によれば、7/6提案より緩和した新提案が13日にあった)。詳細は、複数の版元関係者によってネット上にアップされているので、日本の近代出版史上のこの歴史的事件が「共観的」に記録されることになった。こうした記録がリンクされ、構造化されて、将来ともに共有可能なドキュメントとなることを期待したい。

小田光雄氏が指摘しているように、再建スキームは「実質的に出版社に対し、栗田に対する債権分の倍の損失を与えるもの」というところに問題がある。出版社の債権だけでなく、資産である出版物をも犠牲にさせて、再建中の大阪屋に付け替えるということは、栗田が行っていた書店への納品を継続させるために、千数百もの出版社に負担を求める「お願い」と言えよう。そのため、「片面的解約権(返品権)付売買契約」という、あまり聞き慣れない法律用語が根拠として使われていることが重大な意味を持つ。「書籍取次」は取次(agency)ではなく販社(dealer)だったのだ。

まるで訪問販売や通信販売契約のようなシステムが、数ヵ月から、時に数年の商品寿命を持つ書籍の定価販売に使われていることに驚かされる。トリツギは一般社会における取次ではなく書籍販売会社であり、出版された書籍は、取次、書店を経て消費者(あるいは万引き)の手に渡るまで、売買が繰返されることになっている(返品も売買とされる)。だから、栗田が扱っていた出版社の資産/返品の扱いをどうするかは版元にとっての大問題となる。しかし、書店にとってはあまり問題にならないだろう。別の取次に変更すればよいだけだ。

出版とともに「売上」を計上できる(返品が後を追いかけてくる)この特異なシステムは、出版ビジネスの実態を不透明なものとしてきた。金融とは時間であることから考えると、日本の出版は、製造業の姿を借りた金融業なのかもしれない。じつのところ、再版制の目的は定価販売ではなく、定価販売は結果(あるいはコスト)に過ぎないのかもしれないとさえ思える。これは産業・経済のすべてが実態と離れて「金融」化している日本の現実からみれば、そう異常なことではないが、返本を日銀が買い取ってくれることはないし、銀行が出版界から引いていることは、栗田の債権者に金融機関が含まれていないことが示している。

出版社の負担による「再建」は筋が違う

1997年をピークに出版市場(書籍+雑誌)は減少に転じ、18年間で売上は1兆円、書店数も8,000店減少したのに対して、書籍の出版点数、書店の総坪数が増加している事実は、壮大な自転車操業のピッチが限界を超えて高速化し、出版三者(版元・取次・書店)に過重な負担がかかってきたことを想像させる。右肩上がりなら問題はなかった。右肩下がりとなることで、危機回避のための間違った努の余地が生まれ、継続したことで回復不能になった。

栗田倒産が、これまで「なんとなく生きていた」取次会社の破綻が出版社(間接的には著者)に重大な実害をもたらした意味は大きいが、この先の「来るべき時」を実感させたショックはそれ以上だろう。「片面的解約権付売買契約」は無限の連鎖を前提にしている。それは国家保証のようなもので、「取次」が戦時下に生まれたことと無関係ではない。

しかし、何事にも終わりは来る。「国家」も破綻し、巨大企業も破綻する。1.5兆円あまりの出版産業が「破綻」する可能性はそれより高く、むしろ想定内とすべきだ。真に憂えるべきはこの国の「出版」の運命だ。現場の方々の努力には敬意を表したいが、全体として不合理なシステムを支えるために、(読者のための)本来の仕事を犠牲にすることは続けるべきではない。返本の波を新刊の波で押し返すような状態では、まともな出版活動ができない。筆者は以下のような仮説を考えている。

第1に、「取次」を将来的に維持するスキームは存在しない
第2に、再販制は出版社に過大なコストであり、打撃となる
第3に、「返品権付売買契約」は出版社にとって最も危険である
第4に、取次会社の再建コストは破綻処理より高くつく
第5に、出版システムの連鎖的「崩壊」は現実に起こり得る

書店、販社、版元、それぞれのサバイバルが始まるということだ。中小出版社には取次の救済(再建)のための犠牲を負う余裕はないし、そんないわれもないだろう。出版危機にあってまず守られるべきは業界(版元・取次・書店)ではなく、<読者・読書・出版>の三位一体である。版元であれ書店であれ、これを重視するものが21世紀の出版ビジネスを構築することになるだろう。かつて出版は「ローカル」だったが、今日ではグローバルであり、ランダムハウスであれアマゾンであれ、300年以上の出版文化を持つ市場をリードすることを妨げるものはない。 (鎌田、07/21/2015)

参考記事

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