旧体制のハードリセットが見えてきた

chain_break日本的出版エコシステムの解体への動きが加速している。中堅取次3社の経営危機・整理・廃業を機に、出版社にとっての選択肢としての「アマゾン」が一気に身近な存在となってきた。しかし、守るべき価値と転換期に必要な戦略を考えず、絶望し、ただ「寄りかかる」のはリスクがあまりに大きすぎる。

取次の機能不全とアマゾンの好機

bankrupt優に一世代に及ぶ「出版不況」(そんなものがこの世にあったとして)を経て、日本の出版ビジネスの戦後体制は崩壊を始めた。売上や書店の減少は留まるところを知らず、ピークの2分の1に近くなったあたりで、再販システムの要である取次の枠組が大きく揺らぎだして、救済・再生や廃業が始まり、大手取次まで赤字を出すに至る。取次が安全ではなくなった出版社はアマゾンに救いを求め、それが書店と取次の状態をさらに悪化させるからだ。

日本の出版業界は、出版・取次・書店(+印刷)が支え合って(最近はもたれ合って)存在している。一時は3兆円に近づいた時期もあるが、圧倒的多数は中小企業がエコシステムの豊かさを支えてきた。企業規模で言えば、出版と書店には「大企業」は存在せず、取次と印刷にだけは存在し、危機に陥るたびに、大手出版社よりは支柱となる大企業が動いて収拾し「取次」という特殊日本的システムを機能させてきた。いまこの体制が維持困難になっている。赤字を垂れ流す出版社や書店を救済できる印刷会社や取次はもう現れない。しだいに体制を支えること自体が無意味となり、すべて自社のサバイバルを最優先させざるを得ないからだ。

Jamazon取次2社が、そのプレミア・アカウントの大手版元とともに業界のリーダーシップを喪失し始めているなかで、急速に存在感を高めているのは、出版に強くコミットしているグローバルな超大企業のアマゾンだ。国内売上1兆円、書店として国内最大となったことで、版元との直取引(取次外し)の動きが加速していると伝えられる。紙の直取引を優先し、Kindleなど出版社がすぐに対応できないものは後回し(あるいはマンガを優先)という迂回的アプローチをとっていると思われる。

アマゾンは、出版社へ有利な取引条件(正味(卸率)の改善、支払サイトの短縮、流通の迅速処理など)を提示することで、全商品の直取引化を誘っているが、とくに栗田出版販売の整理以後、高い効果を上げていると伝えられる。この問題をフォローしている佐伯雄大氏の記事 (Business Journal, 02/20/2016) によれば、売上に占める直販比率は30%を超えたという。日本最大の書店のこの比率はかなり大きな意味を持っている。それに取次再編が弾みを与えていることも気になる。佐伯氏の記事では、ある出版社員の声が紹介されている。

「書店と取次の力が落ちていけばいくほど、出版社はアマゾンに寄りかかっていかざるを得ないという状況になっているのです。それが出版業界を破壊するとしても、業界が新しく生まれ変わるきっかけだと信じて、その道を行くしか選択肢はありません」

戦後的「出版業界」は経年劣化の末に自壊しているのであって、アマゾンはその状況を待って行動を始めたのだと思うが、出版社としてはたしかに破壊するように感じられるだろう。問題は「新しい道」がアマゾンでしかないように見えることだ。今までシステムの議論を憚ってきたことが、こうした極端に走らせるのだが、こういう状況こそ、行動より前に議論が重要だ。どんなシステムも長所と欠点があるが、戦後システムが、ともかくこれまで機能してきたことは評価すべきだし、機能しなくなった以上、代替システムを(過去の行き掛かりを棚に上げても)オープンに議論すべきだ。

デジタル転換あるいはクラッシュへのカウントダウン

本誌は昨年1月の記事で、旧エコシステムの寿命は「長くて5年」と予想した。5年たてば現在の4分の1の市場が失われ、8年たてば3分の1が失われるからだ。雑誌と合わせて1兆5,000億円台まで落ちた出版にとって、規模の喪失はこれまでとは比較にならない厳しさを持つ。企業は長期間の赤字に堪えることが出来ないし、それどころか、増税のような風が吹いただけで倒れてしまう。もちろん、将来のある若者を受け容れることもできない。幕末に隆盛を誇った和本出版が明治20年にほぼ絶滅したのはそのためだ。

ship_storm筆者は6年間にわたって本誌で「デジタル」の重要性を論じてきたが、それは出版の自律・独立を再構築するためであって、アマゾンに寄りかからず、対等に付き合う方法を読者とともに模索するためである。米国の巨大出版社はアマゾンに対して優位に立とうとして失敗し、いまそのツケの重さを感じている。アマゾンのような合理的(非人間的)システムに対しては、傲慢も卑屈も否定的結果しか生まない。

ここから先のことを考えると身の毛がよだつ思いがする。文献や版・版権の散佚は、これまでの出版倒産でもみられたが、大量絶滅はその比ではない。出版が構成する世界(本と読書の秩序)は、構造を持ちエネルギーを発する物質系のようなものとして考えることが出来るが、紙と印刷を前提とした構造の急速な崩壊(散佚)は、不可逆的な損失をもたらす。本誌も微力ながら、出版の印刷系からデジタル系への秩序ある移行に貢献したいと思う。 (鎌田、03/03/2016)

参考記事

 

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