アマゾンからの華麗なる「Uターン」

sara_nelson__authorPublishers Weekly編集長を起点に、アマゾンを経てハーパーコリンズ副社長へ華麗な転職を実現した、サラ・ネルソン氏のインタビュー(Podcast)が面白い。出版界は「アマゾン出戻り」の経験をフルに生かすことで、再生へのきっかけを掴むことが出来るかもしれない。アマゾンはこれまで出版界からの人材を得て成長してきたが、そろそろ返すべき時だ。

「出版界のチア・リーダー」からアマゾンへ

change_chancePW編集長時代は「出版界のチア・リーダー」と呼ばれたほど人気があり、PWのリストラでハースト系の 'The Oprah Magazine' (購読200万部以上)編集長に転身した時(2009)も話題になった。その彼女が2012年5月、アマゾン(Amazon.com Books)の編集ディレクターに就任した時には、憎っくき出版業界の敵のチアリーダーとして「雇われた」ことに胸を痛めた業界人もいたほどだ。彼女がどんなキャリアプランを描いているかを気にした人もいなかったようだ。

ネルソン氏はアマゾンで、それまでに全く経験したこともない仕事に取組んだ。Best Books of the Month とオンライン書評サイトOmnivoraciousを使って、アマゾン・ユーザーのために読むべき本を毎月ピックアップするという仕事(Best Books of the Month)だ。版元との契約交渉や販売目標の達成のような業務から外れて、純粋に「読者」の満足のためにだけ働く50人ほどのスタッフを率いるという変わった仕事で、これこそがアマゾンの競争力の源泉と評価する人も多い。おそらく、この仕事をチャレンジとして受けたのだろう。「アマゾンでの最も重要な経験」について語るにはまだ早すぎるとしながら、「本が読者の手に届くまでの舞台裏をじっくり観察することが出来た」と語っている。どんなことで販売数字が上がったり、上がらなかったりするか、という感触を、自ら読者サービスを率いる中で得られた人物は、この世にいくらもいないだろう。

アマゾンで得たもの=伝統的出版に還元するもの

reading_booksアマゾンで共に働いたスタッフを、彼女は懐かしんでいる。「そこには何人かの、とても素晴らしい読者と書評者たちがいました。本への愛はアマゾンで生きています。」この会社からは本への「愛」を感じる人はそういないかもしれないが、少なくとも本を愛する人の能力と献身をフルに利用しているとは言えるだろう。アマゾンは「推薦エンジン」という巨大な仕掛けや書評、ソーシャル読書のプラットフォームを持っている。いずれも業界最大最強だろう。しかし、この会社の賢明なところは、そんなものがいくらあっても、本を愛する人が本気になってシステムを使い倒し、作り直していかなければ、すぐに錆び付き、使い物にならなくなることを知っているということだ。

ハーパーコリンズは、その彼女を出版のパイプラインの入り口、著者からの原稿を出版企画につなげる部分に起用した。4年間の経験で読者について完璧な知識を得ていると期待したのだろう。少なくとも「チアリーダー」として見ていないことは確かだ。剛腕のマーケティング・スペシャリストは、可能性のある原稿を見落としたり、売り出し方を考えずに本にして販売で躓くことは減らすだろう。大出版社にも本を愛する人はもちろんいる。しかし、読者からの発想が足らず、読者からインスピレーションを得ることは少なかった。アマゾンはもっぱらそのギャップを衝いた。その方法は、伝統出版社で問題意識を育んでいた人々が見つけることが出来た。そろそろ逆流出が始まってもいいころだ。 (鎌田、08/16/2016)

 

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