『EPUB戦記』を読む:パネルの感想

epub_s019月9日に「本当の『EPUB戦記』」と題したパネルがJEPAの主催で開催され、不肖ながら筆者がモデレーターを仰せつかったが、非常にハイレベルで有意義な内容だった。簡単に感想をまとめておきたい。

本/出版の過去・現在・未来

epub_s06パネルは、「EPUB日本語組版仕様」で中心的役割を果たした人々の中から4氏をお呼びして、EPUB3に至る国内・国外の活動を5年後の視点で語りつつ、次のテーマであるWebと出版の統合についてのそれぞれの考えを共有しようという趣旨で行われた。『EPUB戦記』からは省かれた「真実」もないわけではないが、JEPA30周年と「出版記念」でそれを語るのは適当ではない。「本当」というのは「本質」「真意」ということだと筆者は勝手に考えることにした。

つまり懐旧談、武勇談に花を咲かせようというつもりは毛頭なく、EPUB3(つまりHTML5+CSS3技術の上のE-Book環境)をステップとした次の5年になすべきことに向けた話にしたいと思ったのだ。失望した方には申し訳ないが、別の機会もあるだろう。

epub_s02さて、出版が書物の完成をもって完結するものではなく、企画をもって立ち上るプロジェクトであることは、著者の小林龍生さんや、発案者の下川和男さん、村田 真さんなどを含めた了解事項である。出版とは「メッセージ」を社会に届けるプロジェクトであり、それは発刊と同時に放物線を描くと考えられる。私たちは「書物」の完結性を評価しつつも、コミュニケーションのメディアとして完全であるとは考えない。つまり、「テーマ」を中心とした著者と読者のコミュニケーションを持続させ、高めていくために、Web、ミーティングなどのツールを使って継続していくことが21世紀の出版の「常態」であると考えている。そのコストが出版された本の売上で回収されるか、著者の次の作品で回収されるかは別の問題だ。

今回のパネルは、出版にまつわる「本当」を、既読者、未読者の方と共有するためのものだ。パネラーの議論と会場からの質疑応答は期待以上のもので、要約/記録は論点を掘り下げていく足掛かりになるので、いずれ発表していきたいと考えている(E-Book 2.0 Forumでのページを計画中)。

出版の大転換期を越えて残すべきもの

epub_s04jpg現時点で、W3CとIDPFは合併する方向にあり、IDPFおよびEPUBの位置づけは、Webの中での出版(活動)のサポートという位置づけが鮮明になった。『EPUB戦記』はこれからも続くし、私たちはそこで新しい課題を明確にしなければならない。

epub_s05最初の2つのEPUBは、「出版・本とは何か」を議論してつくられた標準ではなく、在来の本の「コンテンツ」をいかに表現するかということに関心が限定されていた。それに対してEPUB3は、動的コンテンツなど、Webの最新技術を在来型書籍に反映させるための作業に重点が置かれている。そして、日本語組版チームの努力は、EPUBの大改訂に際して、20世紀の活字遺産を21世紀のE-Book国際標準の上に移植するということに集約された。しかし、それは孤立した、後ろ向きの作業ではなく、むしろEPUB3に多くの「創造的拡張」をもたらした(とくに多言語とCSS)。

もとより「出版・本」について現実的・技術的な側面から語るのは容易ではなく、現実に登場する「出版・本」の形を見極めなければ標準など無意味になる。EPUB3はKindleによって定義された市場を前提にした標準である。EPUBの次の作業が新しいビジョンを必要とすることは明確だろう。さもなければ、EPUB3はKindleの拡張を助けただけで終わってしまう。私たちが「紙か電子か」のような重箱の隅の議論に熱中しているうちに、何が起きたかを考えていただきたい。

epub_s03パネラーの議論が「次」の話に移行するなかで、どうにも筆者の気になったことがある。それは、会場参加者の平均年齢の高さであり、今後10年の戦いを、誰が担うのだろうかということだった。もちろん、年季が入った壇上のEPUB戦士たちに期待する以外はないのだが、そもそも国際舞台で活躍できる人材は薄く、標準化の駆引きには、知識と能力以外に年の功も必要だ。いや、それ以上に、ベテランの編集者が続々とリタイアしている。編集者こそデザインやレイアウトの意味を知る人間であり、制作技術は編集のノウハウによって発展してきた。組版ルールは(運よく言語化された)その一部に過ぎない。

大規模な世代交代と基礎技術の転換、それに出版業界の激変が重なってしまった。このままでは何が起きるか、火を見るよりも明らかだろう。まず出来ること、なすべきことを皆さんと一緒に考えてみたい。 (鎌田、09/15/2016)

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