「日本版アンリミテッド」最初の試練

Kindle Unlimited4Kindle Unlimited (KU)日本版が始まった時、大出版社がマンガを持って参加したことに驚いたが、やはり問題を起こしてしまった。これは、関係者の間に定額モデルの性質と使い方への認識が欠けていたことを物語っている。再度基本を確認し、定額制は、扱い方によっては火傷するということを確認し、継続のための知恵を絞るべきだ。

定額制は「取扱注意」モデル

caution本誌は定額制(読み放題)サービスについて、

  • 読者拡大などマーケティング/キャンペーン目的(対象書籍/期間限定)
  • 規模の大きい会員サービスなどの特典の一部(顧客限定)

という限定付で有効であるが、一般的な定額は成り立たない、と考えてきた。「読み放題」という表現は注意が必要で、それが成り立つと言えばネズミ講(ポンジー・スキーム)になる。

会費だけ払ってほとんど読まない(サービス側には都合の良い)怠惰なユーザーが相対的に多ければいうことはないわけだが、その場合には、版権者にもメリットはないのでタイトルは揃わない。逆に乱読派ユーザーが一定割合を越えれば、赤字垂れ流し状態になる。版権料を下げるか利用料を上げるしかなくなり、行き詰まる。つまり、ビジネス・パートナー(版権者、ベンダー)の相互理解は不可欠であり、ユーザーの側もサービスの持続可能性について考えておくべきことは、Unlimitedに先行したScribdやOysterの例でも明らかな通りだ。

unavailable定額制サービスは「販売」とは性格が異なる。販売モデルの事業性は、単純にタイトルごとの小売価格と販売部数の関係で決まるが、定額制は<見込みの会費収入>と<利用実績に基づく版権コスト>という極度に不確定な要素に左右される。対象タイトルの入替は日常のオペレーションであり、利用者には外れたタイトルを購入するか、あるいは定額プログラムの利用を停止するか、ほかのタイトルを借りるかの選択がある。これはベンダーとユーザーの問題だ。

利用実績はタイトルによって大きく異なる。利用が集中すれば、誰かが損をする。本来的には、リストから外す際のガイドライン(判断基準)と適用ルールが共有されているのが望ましいが、今回は開始間もなくのことで、この最も重要なことについての十分な理解が、関係者に欠けていたと言わざるを得ない。残念なのは、リスクがつきものの難しいビジネスモデルの性格を当事者が十分に理解していなかったこと。アマゾン日本法人は、会員獲得を優先するあまり、出版社の微妙なタイトル(販売を優先すべきかもしれないもの)を揃えようとした。マンガは特殊なコンテンツで、読書パターンは活字とまるで違う。

交渉によるリスクの確認と明示的契約へ

japanまた残念なのは、当事者の交渉を超えて、ニュース報道になってしまったことだ。ニュースの風は「紛争化」を煽る方向に吹くし、世界にも拡散するが、それによって火元の当事者が得をすることはほとんどない。アマゾンは、率先して事実関係と対処方針を、当事者とユーザーに説明すべきだった。コミュニケーション・リスクへの対応は適切ではない。

当事者間の契約内容は、NDAで守秘義務があるはずだから無断開示は出来ない。出版社は「憤り」を公にするより前にすべきことがあったはずで、もしなければ法的措置を取るしかないのだが、たぶん契約上アマゾンの責任は問えないのだろう。出版社は、今後の対処方針を早急にまとめ、紛争化を避ける努力をすべきだ。定額制を再考し、あるいはKUは見合わせることがあっても仕方がないが、感情的対応はマイナスにしかならないというのは国際的ビジネスの常識だ。トップの冷静さと交渉力が必要な場面だ。

integrateKUは、英語圏やドイツでは、中小出版社と自主出版者のコンテンツ提供を得て成功しており、新しいチャネル/市場として成功していることはお伝えしてきた通りだ。これはアマゾンが版権料支払用の基金設定、ページ算定方式によって版権収入を支払い、満足を得られてきたことによる。スキームとパラメータが安定するまでには1年以上を要し、ページ・カウントへの不正対策も必要だった。デジタル・サービスでは、スタート時には決められない部分が多く、中間地点での修正は不可欠であるし、時には緊急措置も必要になる。これらは関係者で共有されるべきものだ。今回のケースは、サービス立上げ時点の、最もパターンが読めない時に起きた。最もリスクが大きい「マンガ」で発生したのは、関係者がこのコンテンツの性格を十分に認識していなかったことを物語っている。

これはビジネスなのだから、ビジネスとして解決すべきだ。これが解決できなければ、アマゾンではなく日本の出版界が世界で冷笑されるだろう。筆者の経験では、日本のビジネスは外国企業との交渉でも契約の細部を詰めずに、曖昧さを「悪いようには…」という期待で包んでスタートし、後で泥沼化することが多い。日本の出版界は、伝統的に交渉より信頼、契約より善意を重視してきたとされるが、これは現代に通用するものではないだろう。 (鎌田、10/06/2016)

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