2016-17年のトレンド:(1)総論

20172009年9月15日に創刊した本誌は、なんとか7年目を迎えることができた。「電子書籍」にフォーカスしたメディアがほとんど(すべて?)消滅するなかで生き残ってこれたのは、読者諸兄姉のお蔭で、とても感謝しきれない。本誌が続いたもう一つの理由は、この変化の時代に最も重要な座標軸と視界を失わなかったためと考えている。

21世紀の出版革命の本質:知識とコミュニケーションの再構築

overview出版(あるいは社会)は産業革命以来の変化の時代を迎えている。それは動力や機械、通信に止まらず、人間の知識の在り方に関わるが、それはデジタルによって「システム」として外在化、非人間化されることで、これまでとは異なる様相を呈した。システム化された知識は、生産・流通・サポートその他あらゆる工程に組み込まれ、そして本じたいにも組み込まれるようになった。

出版が直面しているのは、サプライチェーンとその構成要素の電子化・インテリジェント化だけではない。人間が必要とする知識・情報とは何かという、近代の初めに問い直されて以来の挑戦であり、それはコンテンツに止まらず「本」というコンテナの再構築も含まれる。出版は再び知識革命の最先端に立てるポジションを得たが、この機会を利用出来なければ、21世紀の出版は16-20世紀からの継続性を失うだろう。出版におけるイノベーションとは、本と出版という知識コミュニケーションのシステムの組み替え、再構成であり、総合的な「環境」のデザインを伴うものなのだ。デジタルによる新しい産業革命は半世紀あまり前から始まったが、AIの実用化が本格化したことで最終段階に入ったと考えられる。

筆者は2007年末、Kindleが登場した時に「フルデジタル」の時代がきたと認識し、それをフォローすることに決めたわけだが、1980年代にワープロ、DTP、パソコン通信を体験して以来、筆者が広い意味の「電子出版」との関りを絶やしたことはなかった。それは主として仕事の上で、多様な出版を経験し、とくにテクノロジー・コミュニケーションとB2B出版を必要としてきたためである。本と出版に関する本誌の見方は、本質的にそれが知識コミュニケーションのあらゆる側面に関わり、それとともに変化するというものである。

ボーダレスなビジネスの組換えの進行

media_integration筆者は、情報の製作、複製、流通に関わる物理的制約を極小化するデジタル化により、これまでメディア業界を分けてきた以下の境界は徐々に風化し、崩壊して、新しいビジネスモデルに取って代わられると考えていた。「本」というモノをめぐって回っていた伝統的出版は、紙と書店という絶対的な軌道と停車駅を失うからである。それは放送における電波塔、映画における映画館のような、あるいはそれ以上の意味を持つ。

写本が版本に、版本が活字製版に、そして写植やデジタル製版に置換えられた時にも、つねに紙が共にあり、紙と書店がターゲットだった。1000年以上最も権威あるメディアとして機能してきた物理的存在(書籍とお札)が出版にとっての絶対的パートナーだったのだが、いまや本も書店も、いやお金も仮想的な存在で置換えられた。それは消費者が望んだからではなく、経済的により合理性があり(コストが安く)、しかもビジネスを拡張できるからだ。不幸なことに、長期的にはわれわれに選択の余地がない。かつてのような立派な紙の本はしだいに姿を消し、高価な所蔵物あるいは単純なプリントアウトとして残る。

事態はその方向に進んでいる。そしてメディアとメディアビジネスの仮想化による産業の組換えは着実に進行している。根底にあるのは、情報の製作・流通における汎用的プラットフォームの拡大であり、それはアマゾン、Google、FacebookなどのWebビジネスが主導している。組換えの対象となる伝統的な境界(業界)はほぼ以下のようなものである。

  • 分野:商業出版、学術出版、企業出版
  • 媒体:書籍、ニュース、放送、映画
  • 頻度:一回性、周期性などの発行間隔
  • 目的:実務、研究、教育、娯楽/芸術
  • 業種:出版、印刷、流通、ICT、広告

本誌は、以上のような認識のもとに、出版を中心にした2010年代のメディアビジネスをウォッチしてきた。2016-17年は重要な年であると考えている。 (鎌田、12/15/2016)

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