デジタル時代の出版エコシステム:(3)本は基本

pyramid3筆者は、アマゾンのデジタル・コンテンツ戦略が、本を軸とした(とくにコンテクスト/ネットワーク)の拡大・深化に支えられたマルチメディア展開であると考えている。局面を変えるのが「キラー・コンテンツ」だとしても、それを支えるエコシステムがないと先細りの懸念がある。別稿で紹介した 'Wool' 拡張版は、この複雑なシステムを垣間見せてくれた。

偶然ではない成功を目指すAIカンパニー

アマゾンという会社は、天才による発明や偶然の成功ではなく、計画・デザイン・システムによる成功のみを評価する。「異常」なものほど再現性、持続性がないからだ。2017年アカデミー賞3部門受賞は、この恐るべきエンジニアリング至上主義がクリエイティブの世界にも及ぶことを誇示した。やがては、自主出版のKindle本が印刷本、A-Book、拡張Kindle、グラフィック・ノベル、動画などを経て「アカデミー賞」に至るまでの可能性を示したわけだが、アマゾンはその可能性を高めるプロセスとサポートシステムを提供することで、ビジネスとしての再現性、持続性、ポートフォリオの安定を確立しようとしているのだ。

bezos-620x393これは、ボトルネックを支配する資本力や、大プロデューサーの権力がモノを言った伝統的なメディア・ビジネスと正反対のものだ。「民主的」と言えないことはないが、人間臭い(映画的な)世界のほうが好きな筆者としては、単純に喜ぶわけにはいかない。これがクリエイターにより多くの機会を提供し、それによってコンテンツの世界が豊かになるかどうかが問題だ。

ともかく、出版者(クリエイター、マーケッターとと企業)としては、このアマゾンの空前絶後の「システム」を利用するかスルーするかという選択が迫られる。アマゾンはコンテンツビジネスの「根幹」と考えている出版のサプライチェーンとビジネスプロセスを再構築してきた。印刷本はその仕上げ段階での最大のテーマであると思われる。

本の出版はコンテンツビジネスの前段階

scribes在来出版社においては、出版は書店をターゲットとした印刷本制作がプロセスの中心で、E-Bookはまだ派生的・補助的な扱いだ。他方で自主出版では、多くの場合、Kindleを中心としたE-Book制作とアップロードで終わり、印刷版にまでは手を出さない。その結果、在来出版社は印刷入稿用の電子ファイル(例えばInDesign)をブック用のKDPやEPUBに変換する手間が生じ、自主出版者は逆にそれらを印刷用のPDFに変換する手間をかける必要がある。どちらの場合にも、異なるメディアへの変換+表示/出力は自動的にいくわけではなく、レイアウト/文字/色の校正などがそれぞれに必要となる。

制作システムの統合は、傍目で見るほど簡単なものではない。マクロで見て、出版ビジネスの最大の問題はコンテンツとマーケットをつなぐマーケティングにあり、ここでほとんどの出版物が採算点をクリアできないことが古典的知識ビジネスの持続性を損なっている。しかしこれは「コンテンツ」の制作プロセスを放置して出来ることは限られている。アマゾンが自らあらゆるタイプの出版とそのサポートを実践してプロセスを設計しているのはそのためだと思う。

紙とデジタルでは、それぞれに環境による制限が異なり、判型や文字組、禁則処理、索引、注釈のほか、紙に固有な「台割り」問題(ページ数)の処理などが絡む。PDFをそのまま使えば簡単に見えるが、それではE-Bookの利点と考えられる、ユーザーによるフォント/文字組の変更などが効かなくなる。印刷本について知悉している伝統的な編集者ほど、E-Bookの機能と制約については知らず、関心もないというケースが少なくない。

出版物の分野ごとに制作指針をつくって修正していくしかないのだが、これは作業プロセス(と組織)の設計に関わる。時間をかけて定着してきた現場の仕事と進め方(あるいは人間関係)に影響することなので、出版社の中でここに手を出す人は少ないだろう。だからなかなか変わらないし、効率化も遅れる。米国でさえそうなのだから、日本の「電書」制作が進化しないのも無理はない。変化が最初に起きたのは、デジタル・サービスの拡大深化を歓迎する自主出版だった。

著者による自主出版の場合、「デジタル・ファースト」を選択するのは初期費用が少なく、程度の差こそあれ、自分で済まそうと思えば出来るからだろう。しかし、著者も読者も印刷本への愛着を持たない人は少なく、可能ならば(可能な範囲で)印刷版を出したいという人は多い。そして「可能」性は徐々に(あるいは急速に)拡大してきた。KDPのメニューにPrintが追加されるのも、「デジタル・ファースト」が普及し、次のステージとして印刷版や翻訳版、オーディオブックに進むことが珍しくなくなったことを反映している。 (鎌田、03/02/2017)

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