デジタル・ルネッサンスの予感

copyright-free-98566_640グッゲンハイム美術館を運営するニューヨークのグッゲンハイム財団は、2012年以来、美術書、図録の電子化を進めているが、このほど200点以上をパブリック・ドメインとして無償公開した。全世界に通用する新しい著作権放棄ルールであるCC0 (zero)を利用したもので、NPOなどでのデジタル出版に利用が拡大しそうだ。

美術界のオープンアクセス導入

Harvesters_CC0iconこうした美術書の収蔵品や図書の無償公開の動きは、全米の美術館に広がっており、全米最大級のメトロポリタン美術館は、Open Access Policyの下で37万5,000点のコレクションの高解像度アーカイブ画像をCreative Commons Zero 1.0 Universal ライセンス(CC0)で公開したほか、MetPublicationsの発行図書1,611点を公開した。CC0は「商業的利用を含め、複製、修正、頒布、上演など、許諾なしで」誰でも利用することが認められるもの。一部(とはいえ大量の)コレクションをCC0で公開している施設としては、The Getty、The National Gallery of Art、LACMA、The Rijksmuseum、The New York Public Libraryなどがある。

これらを探索しやすくしたWebサイトもあり、誰でも配布したりリミックスしたりすることができるようになっている。つまり、画集や解説本などの出版が、商用、非商用を問わず、版権料の負担なく可能になるということだ。豪華な美術本は1冊数万円もするのが珍しくないから、出版される機会も減っている。デジタルでアクセスが容易になることで、価格をつけることすら困難な人類の遺産への接し方も変わってくると思われる。

人文書出版復興の契機にも

500580-Picasso-and-the-war-years-internetarchive美術館は、伝統的に展示、研究/教育、補修/維持という役割を担っているが、とくに米国を中心にCC0によるPDコンテンツの提供が活発化していることは、出版を通じて美術館の社会的役割と影響力を拡大する試みとして評価できる。美術館は展示品の数倍から数十倍もの収蔵品を保有し、一部の研究者しかアクセスできないものが少なくない。これまで「物理的制約」として当然視されてきた「死蔵」品も脚光を浴びる機会が生まれることが期待される。

出版からみると、美術書だけでなく、美術批評書、作品論、画家論など図版の助けを必要(必須)とする書物の企画・出版が容易になることが大きい。美術界が率先してCC0による出版の自由化を推進すれば、出版社にもプラスになる。デジタルを有効に組合せれば、経済的に困難だった企画が日の目をみることもあるし、廉価なE-Book版と限定部数(あるいはPoD)の印刷版を組合わせることも可能だ。

言うまでもなく、美術作品はその時代の音楽や文学と深い関係にあり、そのコンテクストから創作やマーケティングのインスピレーションや事業化機会が生まれる。その後の歴史に大きな影響を与えた展覧会や回顧展などは、一部の作品でなく全体を体験することによって初めて見えてくるものだ。例えば、詩人ボードレールが1840年代のパリのサロンを歩いて書いた批評など、「名画」以外の作品については、図版がないと文章以外のことは分からない。著者との体験を共有できるかどうかは、本と出版の価値に大きく影響するほどのものだ。出版界はCC0によって多くを得ることが出来る。 (鎌田、05/11/2017)

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