学術出版はどこへ行くか:英国ABF報告書

710-Academic-Book-of-the-Future-logo-300x90英国のAcademic Book of the Future (ABF)プロジェクトから2つのレポートが6月20日に公表されたが、学術出版が直面する深刻な問題に対して、国内外のすべての関係主体が協力するしか解決の糸口はない、というのが結論なようだ。ケンブリッジ大学出版のアラステア・ホーン氏がPublishingPerspectives (07/05)で要約している。

増加する出版点数、減少する販売機会

amalgamated-logosこのプロジェクトは、英国政府の科学技術行政機関に属する人文学研究会議 (Arts and Humanities Research Council) と大英図書館がスポンサーとなり、2年以上を費やした。ロンドンの英国医学協会で行われた発表では、プロジェクトを総括したユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL) 出版センター (Center for Publishing)のサマンサ・レイナー所長が、複雑なエコシステムで成立している芸術・人文系学術出版は、いまだ経験したことのない数々の課題に直面していると述べている。問題は需要と供給のバランスを回復させることだが、現状はその逆だ。学界において出版への圧力が高まる一方で図書館の予算は縮小している。学術書の出版点数は最高値を更新し、逆に1点当たりの販売部数は減少を続ける。

報告書が指摘しているように、「個々の研究者、大学・研究機関、助成機関と政策立案者、出版社、図書館、あるいはそれらの仲介者を含む、複雑な国際的エコシステムに対し、テクノロジーとサービスの変化がもたらすニーズの競合が問題を複雑にしている。」

Michael-Jubb-square-lined-300x300『学術書とその将来』(Academic Books and Their Future)を執筆したコンサルタントのマイケル・ジャブ氏は、学術出版エコシステムの多様性に注目した。「英国」の学術出版の大部分は外国の出版社によって担われている。サプライチェーンでは、学会誌と書籍で大きく異なり、前者は購読料、機関の一括購入、デジタルコンテンツと配信で収入の大部分を得ているのに対して、書籍では、印刷版への需要は高いがデジタル販売が増加している。小売は図書館と同様に重要だ。そして出版点数は顕著に増加している。

個別利害を超えた連携でテクノロジー応用を拡大

710-Jubb-and-Deegan-reports-ftw-710x502サプライチェーンの変化は以下のような点で見られる。書店は学術書の在庫を縮小。図書館は貸出期間を短縮したり、要求駆動やデータに基づく購入判断が行われるようになったことで複雑化している。人々が期待していたようなイノベーションはほとんど起きていない。複数のプロジェクトが立ち上がっているものの、オープンアクセスの普及はまだ緩慢だ。こうした状況を改善するために、ジャブ氏は、芸術・人文分野で影響力のある人物が主導して、多様な関係者のコミュニティの対話を促進することを提案している。レポートで引用されているリヴァプール大学出版のアンソニー・コンド氏の言葉を借りれば、「個々のステークホルダーのコミュニティの利害」を超えるには、プロジェクトを通して共通の理解を構築していく必要がある。

ロンドンのキングズ・カレッジのマリリン・ディーガン氏が書いた2番目のレポートは、学術出版の枠を超える形でこれまで行われたプロジェクトとその成果を取り上げている。これらはアンソロジーとしてまとめられており、電子版は無償で公開されている。オンライン版は論文のほか、講演のビデオ、ブログなども収録されている。

PrintAcademic Book of the Futureプロジェクトは、2016年にリヴァプールで開催されたカンファレンス University Press Redux を偶数年に開催する予定で、2018年にUCLプレス、2020年にケンブリッジ大学出版で開催される。また、現代社会全体に学術出版が与えた影響を回顧するイベントとして Academic Book Weekを企画しており、2015年にダーウィンの『種の起源』(1859)、2017年初にはケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)を取上げている。 (鎌田、07/11/2017)

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Comments

  1. 「現代社会全体に学術出版が与えた影響を回顧するイベント」とありますが、
    「現代イギリス社会に」ではありませんか?

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