カンファレンス・レポートの続き。Windowsの「否定形」とも言えるAzureにおけるアプリケーションとUI開発環境。UI/インタラクションのデザイナーとシステム開発者の協業が見えてきたのは喜ばしいが、その先の問題は何かを考えさせられた。
基調講演2「クラウド時代のUXの役割と実現技術」:次の課題は?
マイクロソフト社開発プラットフォーム部門の鈴木章太郎氏(アーキテクトエヴァンジェリスト=写真)と春日井良隆氏 (UXエヴァンジェリスト)は、商用サービスが始まるWindows Azure Platformと、クラウド環境でのクライアント=UIのあり方を解説し、Silverlight (RIAプラットフォーム)とExpression (Webデザインツール)を使ったUI開発環境をデモした。同社のクラウド戦略は、クラウドと自社運用アプリケーションとを連携させるユーザー中心環境の実現という正攻法のもの。当然のことながら、物凄く大変だろうとは思う。自社運用アプリケーションの連携ですら簡単でないし、複数の異質なデータベースの連携など、考えただけでも…いや、ITの皆さんの仕事は(楽にはなっても)絶対になくなりません。
当日のテーマは、しかしクラウド利用環境の技術的実現手段の話ではなく、システムの目的に近いUI/UXのほうだ。こちらも気が楽になった。RIAのプラットフォームは、クラウドにおける開発では不可欠となるものと言える。.Net RIA ServicesとSilverlight 3は、それらがなければ絶対に不可能なことに挑戦する気を起させる。デモでは、Azureに格納されたファッション写真や美術写真などの高解像度画像(巨大なblob)を操作するタイプのアプリケーションを見せていた。こんなデータを自社運用のシステムに持ちたいとは(開発者は)思わないから、インパクトのあるよい選択だ。
主役である「ビジネス」を開発にどう参加させるか
このような開発では、UIデザインの比重はますます大きくなるだろう。プロダクト(サービス)デザインのかなりの部分をUIが占め、UXを左右する最大の要素となるからだ。鈴木氏の講演ではデザイナーと開発者の協業の重要性を強調し、UIとインタラクションをデザインするExpressonと、ビジネスロジックをデザインするVisual Studioを対応させていた。このコンビネーションは間違いなく大きな前進だ。これでデザイナーとIT開発者は「対等のパートナー」として協力できる。それぞれが本来の持ち場で、よりよい仕事ができるようになるだろう。
だが問題は残る。第1に、期待されるUXに対してUIをデザインできるデザイナーは、まだ成長を始めたばかりで、方法論や手法を学んで実践できる教育環境も同様の段階にある。鈴木氏や春日井氏のようなエヴァンジェリストがいくらいても足りないだろう。今回のカンファレンスにはいくつかの大学研究室が参加していたが、彼らを支援することが製品のプロモーションにもつながると思われる。第2に、この両者の対話だけではコトが進まないこと。開発されるシステムをビジネスに使うオーナー(「ユーザー」と呼ぶべきではない)が、どうやって対話に参加したらよいのか。相変わらず箇条書き的、五月雨的で一貫性のない言葉で伝えるだけか。会議とUIの試作を繰り返すのか。それでは問題はなお残る。オーナー側にデザインやシステムに理解があるスタッフがいるケースは少ないからだ。
価値を実現し提供すべきビジネスモデルを、彼らが直接表現し、検証したものをUIとシステムに渡せるデザイン/シミュレーションの環境がほしい。さすがにこれはマイクロソフトにとっても次のテーマだと思われる。何事においても、プロが使うデザイン環境のデザインは最も難しい。UI系の開発環境は最もよく進化し、利用率も高いのに対し、IT系の環境は開発者から愛されず、使われることが最も少ない。ビジネスに至っては、数が多い割にPowerPoint以上のツールはほとんど使われていないほどだ。あとの2つについてはユーザビリティの問題として考えられることが少ないのだろう。この問題は別に論じてみたい。 (11/18、鎌田)