UXじたいは顧客サービス最適化の手段であるが、目的に合うように設計し運用するのは、いくらツールや手法が充実しても簡単ではない。日立の長氏は金融ビジネスにフォーカスしながらも汎用性のある視点を、豊富な事例とともに語った。
基調講演3「UXの向上を通じた顧客サービスの最適化」
日立製作所の長 稔也氏(金融システム営業統括本部 ソリューションビジネス推進部 部長)による3つ目の基調講演は、クラウドというより、UXの改善による顧客サービス最適化の具体的方法を豊富な事例を引きながら解説したもの。失礼ながら、UXをテーマとしてこれほど熱く語る人がこの会社(それも金融システム部門)におられたことは、新鮮な驚きだった。しかも、歯切れのよい語り口で、「システム」の話でとうに耳がタコになってしまった筆者も楽しく聞くことができた。
長氏は、マルチチャネルでの顧客経験価値向上に必要な視点を4つのC(Customer Value/Cost/Convenience/Communication)に整理し、CRM (Relationship Management)をCEM (Experience Management)に発展させるチャネルの活用を、金融(リテール)ビジネスにフォーカスして解説した。CEMを成功させる要素として (1)フラグシップとなる場、(2)リアルとバーチャル経験の統合、(3)幅広い経験ポートフォリオ、(4)クリエイティブなアイデアをあげているが、これは金融に限らず妥当する(逆に金融では一番難しい?)ものだと思われる。紹介された事例では、フラッグシップづくりでの米国の E*Tradeの失敗とUmpqua Bank (地銀)の成功が面白かった。リアルとバーチャルの統合では、ギャップを埋める「つなぎ」の方法が問題になる。ビジネスプロセスの設計から考えなければ、UIだけではフォローできないだろう。
UXチャネルのポートフォリオ・デザインと創造性
「幅広いポートフォリオ」として注目されるのは、なんといってもTwitterを含むSNSだ。これは効果的に使えば大変効果があり、差別化できるが、リスクも少なくない。長氏はこの発展途上のチャネルでの日米の事例を紹介し、CEMによる最適化を説いた。チャネルを独立で使うのはリスクを高めることになると思われる。ポートフォリオはやはり全体としてデザインし運用されるべきだろう。
そこで最後の「クリエイティブなアイデア」が問われる。これは最終・最大の問題でもある。アイデアは個人から生まれるが、決定には(通常)コンセンサスが必要となるというジレンマを解決しなければ、独創的なものほどこの過程で排除され、無難なものにまとめられるからだ(金融では特にその傾向が強い)。永遠の課題でもあるのだが、コミュニケーションをサポートする環境によって改善していくしかない。長氏は「UXの見える化」「協創によるイノベーション」を方法論化する、というところで締めくくったが、この部分がぜひ知りたい。イノベーションにおける「協創」(創造的人間の対話により成立する)は、天才や偶然に頼らないとすれば、方法論と開発環境の融合(エンジニアリング)によってしか解決できないところだ。 (11/20、鎌田)