Google初の自社ブランド・スマートフォンがNexus Oneは、S.F.の巨匠フィリップ・K・ディックの傑作に登場する、タイレル社製人造人間(レプリカント)に由来するとされる。リドリー・スコット監督の映画では、陰鬱な色調で描かれた退廃的な近未来都市を背景に、Nexus-6と賞金稼ぎの殺し合いが展開されるのだが、2010年はアンドロイドとアップル(その他)の壮絶なバトルになりそうだ。
オープン・モバイルOS Androidの刺客Nexus
Barnes & Noble Nookは、純粋にE-Readerとして見た場合、いまだアマゾンKindleに届かないというのが識者の評価のようだ。しかし、RosettaBooksの背後にアマゾンがいる (*)ように、Nookの背後にはAndroidを介してGoogleがいることを忘れてはならない。NookはAndroidマシン以外のものではない。実際、12月8日のリリースから数日で、nookdevsのようなハッカーたちはNookを解剖し、様々なアプリケーションやサービスを試している。Androidは標準的なSDカードに搭載。AT&Tの3Gへアクセス可能なGSMモジュールとWiFiアダプタを装備している。彼らはAndroidブラウザや音楽ストリーミングサービスのPandoraを起動して楽しんでいる。もちろん一般人がすぐに出来ることではないが、実質的にNookがAndroidガジェットであり、(AT&Tは怒るがタダで)ユビキタスに使えることを示している。B&NがNookをどのように使おうと自由だが、NookがAndroidファミリーのアンドロイド(Nexus-x号)であることには変わりがない。
Googleはアプリケーションをタダで提供するが、もちろんユーザーがネットを使えば使うほど(広告で)儲かるからだ。すでに2兆円のキャッシュを蓄えており、タダで提供するものには事欠かないだろう。これまでは「コンテンツ」が注目されてきた。Googleのロボットが働いて「ジャーナリズム」を食い物にしているという非難が、もちろん当事者から沸き起こり、Booksなどのプロジェクトにも影響を与えた。今後はおそらくメディアビジネスとの無用な争いは避けようとするだろう。
PCを上回る新大陸:モバイルインターネット
では次のターゲットは何か。それはインフラである。来春にも登場するスマートフォンの Nexus Oneは、原価(iPhone 3GSで約$200)で、通信事業者の支援を受けずに販売され、アップルを苦しめ、3番手以下を蹴散らすことを考えていると言われている。Android機をすでに売っているモトローラなどのダメージにならないか? 否、彼らはハードを製造し、キャリアへの対応を拡大させ、シェアを拡大させることでGoogleに貢献する。Nexus Oneはその姿によって、ハード/ソフト/サービスベンダーに頼らずAndroid(ハード/アプリ)のエコシステムをインフラに依存せずに拡大させるのである。
モーガン・スタンレー社のモバイル・インターネット市場レポート(参考記事)によれば、同市場は2010年にはデスクトップ(PC)インターネット市場を上回り、数年以内に2倍を超える。成長の余地は巨大だ。AdMobの買収によってモバイル広告市場への布石(シェア24%で首位)は万全だ。Googleのアンドロイドたちは有償無償のアプリケーションとサービスを普及させ、長期的にさらに多くの(広告)収入をもたらす。
そしてインフラ(通信)だ。周知のように、すでにGoogle Voiceを提供しているが、つい最近、VoIPの会社 (Gizmo5) を買収した。さらに安価あるいは無料の無線インターネット・インフラを拡大し電話会社の利益を奪っていくだろう。そうしてみると、コンテンツビジネスなどはGoogleにとって味方にしたい存在ではあっても、敵にして意味のある相手ではまったくない。かつて大手メディアグループは、高速輪転機、放送ネットワーク、専用データ回線という高価な(つまり非対称的な)情報複製・配布手段を自由に使うことで長く優位を保ってきたが、そうした旧インフラの地位が低下したことで広告収入を激減させた。新しい対称性の帝国の主宰者であるGoogleは、むしろ農家ならぬメディアへの「所得補償」を用意するのではないかと思われる。
2010年は様々なアンドロイドたちが跳梁する年となるだろう。ガラパゴスの主たちは無視しようとするかもしれないが、それはモバイルインターネット市場を封印し、コンテンツビジネスやエレクトロニクス産業の国際的発展の機会を奪うだけでなく、自身にとっても最悪の結果をもたらす。 (鎌田、12/22/2009)
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