講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を2月に発足させる、と朝日オンライン版が伝えた。共通フォーマットやオンライン書店も構想の中に含まれているという。 (Asahi.com, 1/13)
出版界は団体をつくるのが好きだ。電子書籍関係でもいくつか生まれては消えた。今回の「協会」は、ハードメーカーを含まず、「出版社の考えが反映できる場を持つ」ことを目的の一つとしていることが特徴だ。つまり二次著作権問題などで、著者とネット企業などに対して共同で交渉力を持ちたいという、防衛的な発想がうかがえる。これまでグループを作って活動してきた中小出版社は相手にしていないのかどうかも気になるところ。
記事では「国内の市場は2008年度は約464億円だが、5年後には3千億円規模になる可能性があるとの予測もある」とある。どこの予測だろうか。漫画とアダルトを抜いたらまだわずかというのに。それにしても、この朝日新聞の「大同団結」って時代がかった見出しは噴飯ものだからやめてほしい。このあと「早くも足並みに乱れ」なんてことにならないために。 (01/16/2010)
雑誌については、日本雑誌協会が昨年7月に「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」を発足させ、やはりコンテンツ配信プラットフォーム(共通フォーマットとオンライン書店)の開発と実証実験に向けて活動を行っている。サービスモデルのエコシステムには、印刷会社も含まれていてわかりやすい。なぜ同様に書籍出版協会 and/or 電子出版協会のWGとして発足させることをしなかったか。大手と中小では調整困難な問題があったのかもしれない。「出版社が大同団結」という割に21社以外についての言及がなく、逆にこの21社で「コミックを抜けば」日本の電子書籍市場の90%を占める、と強調しているのは苦笑を誘う。
雑誌協会のような準備もなく、海外の動きやKindleの上陸に慌てて大手だけで“態勢固め”を図ったともとれなくもない。プラットフォームよりは権益だけを確保したい、ということか。しかし、著作物の二次市場は、著作者とE-Book事業者(出版社その他)との自由な交渉に基づくものでなければならず、21社が10%とか15%とかの統一した料率を提示すれば、それは違法なカルテル行為にほかならない。出版界は、「再販制度」なる(制度でも何でもない)カルテルを、法律の適用除外として認めさせていた実績があるだけに、そうしたことには疎いのかもしれないが。
出版社は言うまでもなく「出版」の主体であり、今後の電子出版の普及に大きな役割と社会的使命を負っている。電子書籍のプラットフォームに関する技術的課題は、出版というプロセスをどう再定義していくかに関わり、単純ではない。すでに出版社だけで協議している段階ではない。出版界はアマゾンを、最初は「通販書店」とみて、次に「ロジスティクス」を持った「取次」でもあることに瞠目した。Kindleを出して「電子書籍プラットフォーム」となったが、二次著作物に関しては事実上制作を外注する「出版社」として現れつつある。この“デジタルの妖怪”に恐怖を覚えるのは無理もないが、ユーザー (読者)とクリエイター (著作者)とのよい関係を再構築するのが先決で、それには自分の会社の現場から始めるしかない。もはや黒船に対する「日の丸」「大手」といった前時代的発想では救われない。デジタルはいまそこにあるからだ。
残念ながら、今回の発表(リーク?)のしかたを見る限り、少なくとも「大手」の関係者にそうした自覚はまだ感じられない。(鎌田、01/17/2010)
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「電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い」、Asahi.com、西 秀治、1/13/2010