iPadが、ただのガジェットでもコンピュータでもなく、サイバースペース上のApp Storeのためのメディア・デバイスであることは、意外と見落とされていた。人々に意識されないまま、短期間でE-Bookビジネスの主要なデバイスになったのだが、アップルは7月以降、その決済プラットフォーム(IAP)を介さないアプリを追放する方針を表明した。適用の方法と範囲によっては、サードパーティのオンラインブックストアはiOSデバイスから消え、日本でのコンテンツビジネスにも大きな波乱を呼ぶことになる。その可能性を含めて、3回に分けで考えてみたい。(1/3回)
はじめに
アップルがiOSアプリ開発者に出した1通のメールが、躍進を続けるE-Bookビジネスにも大きな衝撃を与えている。文字通りなら、7月以降iBookShare以外のiOS用E-Bookアプリは事実上排除され、アップル以外のストアが成立しなくなるかもしれない。アップルに30%を払えなければ、KindleもNookもKoboも、もちろん日本のオンラインストアも、iPod/iPhone/iPadから消えるしかないのだが、これは現実に起こるだろうか。すでに矢は放たれた以上、可能性はある。しかし市場の反応と療養中のジョブズCEOの判断によっては撤回、あるいは緩和されるだろう。だから、反対の人は声を上げる必要がある。
1. 「猶予期間」の終了
アプリ審査指針11.2 「In App Purchase API (IAP)以外のシステムを使い、アプリ内でコンテンツや機能、サービスを購入できるアプリは却下されます。」
「すでにApp Storeにあるアプリについて、私たちは貴社のアプリが本指針に従うまでの猶予期間を設けております。引き続きApp Storeをご利用になるには、2011年6月30日までにIn App Purchase APIを使用した更新を提出いただくことをお願いしております。」(アップルからアプリ開発者へのメール)
アップルは、これまでiOSにおけるIAPを強制してこなかった。アマゾンを含む大小無数のストアは、無料アプリをiPad用に提供し、ユーザーはそれを使って直接そのサイトに行ってコンテンツを購入し、ダウンロードし、閲覧することが出来た。例えば、いまiPadのKindle Storeでサンプル・ページを読んで、その場で(アプリから離れずに)購買することが出来る。一連の機能は通常WebKitを使って開発される。アップルが中心となって開発しているオープンソースのHTMLレンダリングエンジンのセットだ。他方で、有料アプリだけがApp Storeでコンテンツを販売することができ、その際はアップルに30%を落とす必要がある。出版社はこれでもいいが、ストアは利益がなくなってしまうし、有料なら誰もアプリを買わない。
アップルからみれば、無料アプリでコンテンツを販売する企業は、私道に屋台を出して商売をしている不法な存在なのだろう。アップルがIAPを強制しなかったのは、デバイスの拡販にはIAPをスルーする無料アプリの存在が、たとえ1セントにもならなくてもプラスだからだ。その可能性は、2009年にiOS 3.0がリリースされた時点、そして2010年4月にiPadとともにiBookShareをサービスインした時点で議論の対象となったが、大方のメディアは新しい機能に熱狂し、出版社も「アマゾンのくびき」から逃れられることで驚喜していたから、アップルの戦略などには無頓着だった。これが「トロイの木馬」であることを警告していたブログがあったことなど、覚えている人は少ないだろう。
しかしその時は来た。アプリ審査指針は厳密に適用される。すでに雑誌出版社の直接定期購読アプリの申請は却下されてきた。ではアップルは「私道」上の本屋の屋台まで撤去するつもりだろうか。あるいは大きなところ(Kindle、Nook)だけお引き取り願う? (鎌田=続く)
- 「猶予期間」は終わった(本記事)
- アップルのメディアビジネス戦略は新段階に入った
- iPadは誰のものか、そしてiPadとは何か
- 非IAPアプリ一斉排除の可能性
[…] This post was mentioned on Twitter by yomoyomo, 佐藤和彦, ikhr, iPhone Repairs Hills, Kenji Yamauchi and others. Kenji Yamauchi said: これでもうiPhoneを持つ理由がなくなったな。Galaxyに一本化。: Kindleが、Nook…が、iPh […]