アマゾン・タブレットの製造がすでに始まり、販売開始も秒読み段階に入ったことが、台湾の経済メディア(CENS, 8/4)の報道でほぼ確認された。台湾のクァンタ・コンピュータ(広達電脳)は7月から月産80~100万台規模で7型と10型のフル生産に入っており、3Q (7~9月)中の発売が可能である。最近の噂の一つで「3Qの販売目標は100万台」というのがあったが、それと辻褄が合っている。世界最大手のOEM/ODMメーカーであるクァンタは、ソニーのS1/S2やRIMのPlayBookの生産も行っている。
低価格のシンプル・メディアプレイヤーはアマゾンカタログ
アマゾンの戦略としては、市場が低価格タブレット($200台)を望んでいる、という読みの上で、機能を絞って価格を抑えることを最重視し、タブレットを量販して設置ベースを築いてから、じっくりとアプリやコンテンツの販売に力を入れていくものと考えられている。ホリデーシーズンの販売目標は500万台以上である可能性が強い。「メディア・タブレット」カテゴリーでは大差で先行するiPadに初のライバルが登場することになる。
アマゾンは最近、Kindle 3(2010年8月発売)の価格を$99 (Wi-Fi)、$139 (3G)に引き下げた。意味するところは、Kindle 4 (?)発売を前にした在庫処分であろう(K3の発売時にも同じことをやっている)。次期Kindleは少なくとも2種類。タッチスクリーン・モデルと学生向けの廉価モデルであるとみられている。今年初め、電子ペーパー・タイプのE-Readerの価格は、年内に100ドルと予想されていたが、はやくも8月で到達してしまった。年末商戦のターゲット価格は$79かそれ以下とならざるを得ない。デバイスで利益を出すのは難しくなるので、広告付など、ビジネスモデルを伴ったものが主流となるだろう。
今となっては見当違いであったことが明白になったが、世間が“Kindleキラー”と考えたiPadの登場時に、対抗となるカラー・タブレットを出すことは当然視され、そうしないアマゾンの株は値を下げた。そうした声に一切耳を貸さず、市場のニーズを読み違えなかったことで、Kindleビジネスは順調に拡大し、クラウド上のコンテンツストアは整備できた。そしてアップルが最も恐れていたタイミングでタブレットを投入する。安いデバイスと安くて豊富なコンテンツ。これが最もベーシックな市場ニーズでありサービス価値だ。デザインや機能性は、もちろん重要だが、多くの消費者にとっては手段であって目的ではない。スティーブ・ジョブズ氏は(彼の信奉者と違って)誰よりもそのことを知っている。
先行逃のアップル、後方一気のアマゾン
クラウドとデバイスという2つの焦点を持つ楕円で描かれる「デジタルプラットフォーム・ビジネス」は、iTunesで確立し、それに学んだアマゾンのKindleビジネスで飛躍した。ジョブズ氏はiPadの発表に際して、意外にも「Kindleの肩に乗って」と表明したが、彼はコンテンツ・ビジネスにおいて(本で成功した)アマゾンがなお戦略的優位にあることを認識し、iPadはKindleを踏み台に、本を飛び越えた「デジタルコンテンツ」ビジネスに入ることを宣言したのである。筆者はそう読んだ。つまり、アップルのタブレット・ビジネスは競馬で言えば、新しいレースでの「先行逃切」を目ざしているのであり、まだゲートに入ってもいない「後方一気」のアマゾンだけをマークしていたと考えられる。アップルは1,500万台以上のiPadを売ったが、コンテンツで十分な利益をあげられるところまでは行っていない。長丁場のレースの前半で「一人旅」となった展開だ。(→次ページに続く)