4. 境界を超えるグローバリゼーションへの対応
Q4. コンテンツ市場はよりダイナミックでグローバルなものとなり、国境は消滅し、言語、文化、宗教などによって再編成されつつあります。フランクフルト・ブックフェア(FBF)として、この新しい現実に対応した活動は検討されているでしょうか。
J.B. 出版産業の発展において、テクノロジーはつねに進化への推進力を与えてきました。結局、すべては印刷機の発明とともに始まったのです。テクノロジーはつねに、フランクフルト・ブックフェアの重要な部分を占めてきました。例えば、ホール4.0と4.2は、昔から、プリプレス・ビジネスからソフトウェアやデータベース・プロバイダまで、この産業への様々なサービスプロバイダーが集う場です。もちろん、デジタル化の進展によって、新しいテクノロジーの意味は大きくなっています。この問題に対するわれわれの回答が、FBFのデジタル・イニシアティブであるFrankfurt SPARKSです。2010年からスタートさせたものですが、これはコンテンツがなければテクノロジーは意味を持たないと信じているからです。ストーリー、アイデア、情報、図といったものは、出版だけでなくICT分野にも供給される原材料です。ハードウェア・サプライヤーと電話会社は、ともにこうした原材料に依存しています。そしてブックフェアは、それらが取引される場となっています。例えば私たちは、Frankfurt Hot Spotsという新しい出展形式を提供していますが、これらは6つの展示ホールの中央に設置されており、「テクノロジーとコンテンツの出会いの場」を具体的な形で提示するものとなりました。2010年には約60社にHot Spotsを利用いただきました。その大きな成功の上に、私たちはこのコンセプトを継続し、さらに新しいテーマに広げていきたいと考えています。
5. 変化への方向性と知識の共有を志向するFBF
Q5. フランクフルト・ブックフェア2011は10月12~16日に開催されますが、名誉招待国はアイスランドですね。今年のフェアは何が見どころとなるでしょうか。
J.B. 世界の出版は、素材、物語、思想、情報と表象の豊かさの上に成り立っています。今年のFrankfurt SPARKSでは、そうした原素材を最大限に活用してコンテンツにする方法をお見せしたいと思います。この産業の将来を明確に規定するビジネスモデルは、この10月に初めて登場することになると言っても差しつかえはないと思います。また未来をともに形づくっていくために、今年のStoryDrive Conferenceでは、再び映画、ゲーム、出版を含む世界のクリエイティブ産業のエキスパートを招聘します。
私たちは、世界の出版界が、まさにそのための方向性と知識を渇望していると感じています。デジタル革命は、様々なバリューチェーン(価値の連鎖)をバリュースペース(価値の空間)に転換しています。潜在的可能性は拡大していますが、同時に疑問も広がっています。私たちはこの課題に応えるために、Frankfurt Academyという知識情報ネットワークを通じて、専門家や関心を持つ人々に開かれた情報交換を促進したいと考えています。具体的には、2011年に従来の様々なイベントをFrankfurt Academyというブランドのもとに連結するということです。例えば、25年の歴史を持つInternational Rights Directors Meeting、Tools of Change for Publishing (TOC) Frankfurtなどが対象となりますが、メタデータに関するカンファレンスやPublishers Launchなど新しいフォーマットも提供されていくと思います。
そしてもちろん、名誉招待国のアイスランドが来ます。良質なストーリーへの渇望は人間の本性に深く根差すものですが、アイスランドほどこのことを立証してくれる国はほとんどありません。それはアイスランドの人々が、中世のサーガから今日のマルチメディア・アートシーンに至るまで、独特の物語文化とともに生きているからにほかなりません。人口が約31万8,000人のアイスランド人は、年平均8冊の本を買います。フランクフルトには、30人余りのアイスランドの作家が参加しますが、アンドリ・スネール・マグナソン(Andri Snær Magnason)、グジューン・エヴァ・ミネルヴドゥティル(Guðrún Eva Mínervudóttir)、ハルグリムール・ヘルガソン(Hallgri’mur Helgason)、ジョン・カルマン・ステファンソン(Jón Kalman Stefánsson)、クリスティン・ステインドゥティル(Kristín Steinsdóttir)とショーン(Sjón)、そのほか有名な犯罪小説作家のアルナルドゥール・インドリジャソン(Arnaldur Indriðason)、イルサ・シグルジャドゥティル(Yrsa Sigurðardóttir)、それに今年の北欧文学賞を受賞したジルズィル・エリアソン(Gyrðir Elíasson)が参加を予定しています。(翻訳=本誌編集部) ◆
(本インタビューを実現する上で、フランクフルト・ブックフェアのレイ・レンさんを始めスタッフの方々に大変お世話になりました。)
ユルゲン・ボース総裁プロフィール
2005年4月、43歳の若さで世界最大の書籍見本市公団の第6代総裁に就任したボース氏は、マンハイム大学で経済学を学んだ後出版界に入り、シュプリンガー社科学書販売部門やジョン・ワイリー&サンズ社ドイツ支社取締役など、世界的な出版社のマーケティング、国内/海外販売部門で実績をあげてきた。斬新なアイデアとチーム運営、国際的連携で評価の高い実務家のボース氏には、デジタル化とグローバル化という2つの大きな潮流の中で、FBFのリーダーシップを拡大していくことが期待されている。日本にはこの3年連続して来日し、7月の東京国際ブックフェアのパネルにも登場した。
フランクフルトブックフェア2010に関する本誌関連記事
- 「大胆なデジタルシフト:FBF2010」、EBook2.0 Magazine, 10/13/2010
- 「TOC Frankfurt 2010開催」、EBook2.0 Forum、10/12/2010
- 「Frankfurt Hot Spotsのデジタル技術展示」、EBook2.0 Forum、10/12/2010
- 「StryDrive:クロスメディア・イベント」、EBook2.0 Forum、10/12/2010
- 「Frankfurt SPARKSハイライト」、EBook2.0 Forum、10/12/2010
- 「LitCamでデジタル時代のリテラシーを議論」、EBook2.0 Forum、10/12/2010