いよいよKindleの日本サービス開始が間近に迫っているようですが、3月28日、東京・渋谷でMEDIVERSEと共催させていただく形で「緊急セミナー:出版を最先端ビジネスにしたAmazon」を開催することになりました。筆者はそこで「Amazonと付き合うための5ヵ条 - 基本と応用」をお話しする予定ですが、その中身を固める傍ら、このForumを使い、シリーズで概要をご紹介し、ご批判を仰ぎたいと考えました。当日に皆さんと議論できることを楽しみにしています。(鎌田敬白)
はじめに
米国で起きた革命から目が離せなくなって3年ほど。ほとんど毎日、この分野の情報に目を通しているが、優に3割はアマゾンと直接間接に関係している。2010年に始めた週刊E-Book2.0 Magazineでも、関連記事が多い。アマゾンがE-Book市場を創造し、プラットフォームは容易に模倣できないスケールと精巧さを保ち、ビジネスモデルも拡張を続けて止むことを知らないので、これも当然と考えているが、唯一の問題は、Kindleが日本には存在しいないに等しいことだった。そのアマゾンKindleがようやく日本で始動する。日本の市場はアマゾンとの関係を除いては考えられなくなるだろう。日本で出版に携わり、あるいは新たに志す人々には、「どう付き合うか」が問われている。ちょうどMEDIVERSEの小笠原さんがセミナーを企画しておられたので、筆者なりの考えを提起させていただけることになった。
アマゾンはこれから日本に上陸するわけではない。国内最大の書店となって久しく、通販事業も拡大を続け、EC2クラウドでITサービスでも成功している。Kindleは準備に時間をかけたということになる。すなわち、コンテンツの確保、3G回線の確保、マーケティング戦略…。後述するように、この会社は見切り発車ということをしない。同じこの貴重な時間を、日本の業界は、窮屈に「足並み」を揃え、もっぱら「官民一致」の体制づくりに腐心していたようだ。これは時間の使い方としても、行政の使い方としてもあまり賢明ではない。アマゾンは、米国政府を引っ張り出して日本の国税当局との税金紛争に圧勝したほどで、政府ベースでの「日米対決」は得意としている。
「黒船…」という前時代的なスタイルは、危機感を高めるよりはパニックに陥らせ、自主的判断を妨げることで進路を誤らせる。これなら欲に目が眩んだほうがいいほどだ。本気で新しい商売をする気がない(再販制という国体護持が本音だ)から、製作と販売の体制は変わらず、コンテンツは増えず、紙の価格と安易に連動させ、ケータイとPC以外で市場らしいものをつくれなかった。そして何よりも消費者を獲得・拡大してこなかった。勝敗を決めるのは、そして苦しいときに味方になってくれるのは、消費者しかいないというのに。Kindleを迎えるのには、あまりいい状態ではない。もちろん、EPUB3標準などのような成果はあったが、それは出版界の集合的努力の結果ではない。ともあれ、いま必要なことは、これ以上時間を無駄にしないことだ。そこで「Amazonと付き合うための5ヵ条 - 基本と応用」のアウトラインを贈る。
- 相手を知る(1)-存在:どこから来てどこへ行くのか
- 相手を知る(2)-強味:ビジネスモデルとテクノロジー
- 本を知る:21世紀のブックビジネスのかたち
- 価格を知る:デジタルコンテンツの市場と価格形成
- 自分を知る:何がしたいのか→どうするか
孫子に「敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」とある。続けて「彼れを知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし」とも言っている。まず相手を知らないことには話にならない。つまりアマゾンとは何で、何を目指し、どんな武器を持っているかということ。そうすれば一戦もしないで済む方法が見つかるかもしれないし、最悪でも潰されずに済むだろう。その上でデジタル革命を迎える現在の出版が置かれている状況を知ることが必要だ。ここでは新しい(紙から自由な)「ブックビジネス」と「本の価格」がポイントとなる。最後に「自分を知る」こと、これがいちばん難しいが、何がしたいかによって、どうすべきかが見えてくるだろう。 (鎌田)
緊急セミナー「出版を最先端ビジネスにしたAmazon」開催概要
【日時】2012年3月28日(水) 16:00-18:30(150分)(予定)
【会場】ポーラ・メソッド 東京都渋谷区桜丘町31-14 岡三桜丘ビル8階 渋谷駅徒歩8分
【対象】メディア・出版関連の企画・開発の方。および経営者・幹部層
【定員】30人
【参加費】3,000円(税込)(振込手数料別)【概要】
昨年からAppleとタブレット市場を二分する勢いでKindleが新たな段階に入ってきました。日本の出版界でAmazonが登場して以来、何かと騒がれる割にはビジネスとしてのAmazonの実態はなかなか理解されていません。
これからAmazonと組んでビジネスを考えている方も、逆にAmazonとは異なる行き方を考えている方も、アメリカで育ったAmazonの基盤がどのようなものなのか、Amazonという会社をどう理解するかが大きな鍵になります。
このセミナーでは過去10年を振り返りながら対Amazon戦略のヒントを探ります。【講演予定項目】
(1)「本から始まって本に戻る」
MEDIVERSE代表理事 小笠原治Amazonのビジネスを理解する前提として、ネットによるコミュニケーションとECが従来のビジネスとどのように異なるのかを、eBayや音楽産業の変化を例に俯瞰します。その流れの中で、なぜAmazonが本を扱い始め
て先端ビジネスを構築できたかを考えます。(2)「Amazonと付き合うための5ヵ条 - 基本と応用」
E-Book2.0 Forum主宰 鎌田博樹世界のE-Bookビジネスの動きを毎日フォローするようになって2年半。好むと好まざるとにかかわらず、この市場はAmazon Kindleとともに動いてきたことを実感します。そこでKindleの「日本上陸」を前に、Amazonと付き合う方法を皆さんと議論してみたいと 思います。
問題提起として題して5つのポイントを考えました(本シリーズ)。これをベースに、皆さんからのご質問、異論に答える形で「Amazonと付き合う方法」を考えてみたいと思います。